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姿は自在に

 赤崎君の懐に入り込んだ共食いは赤崎君が回避するよりも速く赤崎君の腹部を打撃した。


「ぐぅっ!」


 苦痛に耐える声を出しながら赤崎君が何メートルも殴り飛ばされてしまう。光の鎖を出して受け止めようとしたが、光の鎖さえもしめ縄の結界に遮られてしまい、外へは出られなかった。


「先輩っ!」


 思わず赤崎君の近くへ駆け出してしまいそうだった頼子ちゃんの腕を捕まえて引き止める。


「待って。さっき自分で行ったと思うけど近づいても邪魔になるだけよ」


 話している間に共食いが追撃として振り下ろした拳が赤崎君へと迫る。赤崎君は手にした血の剣を今度は鞭のようにしならせると公園内に設置してあったモニュメントの残骸に巻き付けて自身を残骸の方へ移動するように引っ張った。寸前でかわされた共食いの拳は地面へと突き刺さり、地震が発生したかのような振動が地面を走った。


「偉いぞ、赤崎。良く避けた」

「褒められても嬉しくないな」

「悲しいじゃないか。昔はそれなりに喜んでいただろ」

「あんたが人間ならそれなりに喜びもしただろうさ」

「少しは人間なつもりだぞ。だからこそ人間みたいな姿形を維持できてる」

「姿だけか……」

「姿は大事だろ。油断させることも怖がらせることも出来る」


 共食いの姿がアイスがゆっくりと溶けていくかのように崩れていく。溶ける速度は速く数秒後には地面に落ちたアイスのようになってしまう。アメーバという表現が正しいのか分からないが見た目で粘着性がありそうな黒い軟体は身構えてわずかに動いた赤崎君の動きに反応して襲いかかっていく。

 赤崎君は不気味な元共食いの軟体に対して臆することなく空いている左手で何かが書かれた札を取り出すと血の剣先に突き刺して軟体へと向けた。


「不動明王への礼を捧げ、火焔の流れを産まん」


 赤崎君が呪文を唱えると剣先に突き刺した札から業火が放たれた。業火は向かってきた軟体を包み込むように燃やし始める。元共食いの軟体は炎に包まれながら苦しむように体をうねらせると徐々に体を硬質化させていき、最後には炭のようになってしまった。

 私とたぶん頼子ちゃんもあっさりと倒してしまったのかと疑問を思い浮かべた。

 だが戦っていた赤崎君は一瞬もそんな疑問は浮かばなかったようで軟体へと突き出していた血の剣を自身の真後ろへと振り抜いた。その剣先には人の姿をした共食いが嬉しそうに笑顔を浮かべて立っていた。意識を不気味にうごめく軟体の方へ向けていたせいか共食いが何時再び姿を表したのかすら見ることが出来なかった。

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