家訓「とにかく大きな声で」
「それを聞いてくるということはあなたも?」
「いえ、僕はこの世界の人間です。数年間別の世界へ行っていましたが」
「!?」
勇者殿のように誰かに異世界へ連れていかれて、そして戻ってきたパターンの人か。
「お嬢さんが異世界から来たというのなら聞かねばならないことがあります」
「何?」
「ここ最近発生している通行人昏倒事件について何かご存じでしょうか?」
「昏倒というと気絶したり倒れてたりしているということでいい? ごめんね。こっちの単語をちゃんと全部理解できているわけじゃないの」
「その認識で構いません。こちらに来て日が浅いのでしょうか」
「いや、三年くらいいるけど。まだまだ新発見が多いわ、この世界は。あなたも別の世界へ行った時はそうだったんじゃない?」
「確かにそうですね。見た目は同じでも名前が違うので戸惑うことがありました。話が反れましたね。何がご存じで?」
「知っていることといえば先日この付近で男女を襲っていた男達に遭遇したくらいだ」
「その男達の風貌は? どこに行きましたか?」
「あまりこの情報は参考にならないと思う。ステラが倒してこの世界から消してしまったから。いや、早計だったとは思うわ。あの時はいい気分だったのを邪魔されて気が立っていたから」
「倒した? お嬢さんが?」
清隆は眉をひそめて疑問を口にする。疑うのは仕方ない。私の見た目は線の細い女性だ。男達を倒して消し去ったと言われて本当だとは思わないだろう。
「信じられない?」
「いえ、お嬢さんが異世界の住人であるなら見た目では分からない力、もしくは見た目をごまかしている可能性もありますので」
「見た目は目立たないようにいじっているけどそれほど変化はないわよ。それとお嬢さんはやめて。ステラにはステラという名前があるの」
見た目はともかくお嬢さんと呼ばれるほど若いつもりはないので呼ばれると背中が少しかゆくなる。
「では、ステラさんはこの世界の人を救ってくれたということですね」
「ステラが駆けつけた時には生気が取られた後だったから救ったといわれると微妙だけどね。もちろんケアはしたけど」
「感謝しますっ!!」
振り下ろしの頭突きをされるのかと思ったほどの勢いで清隆は頭を下げた。
「救っていただきありがとうございます!! 助かった男女に代わり感謝をいたします!」
「いや、あれくらいで別に感謝はいい。あと声がでかい」
騒動に気付いた周辺を通っていた人が路地に視線を向け始めて注目が集まりだした。
「伝えるべき言葉は大声でが家訓ですので」
「そ、そうなんだ。ともかくずっとここで立ちっぱなしもなんだし場所を移さない」
「そうですね。通りの真ん中にいては通る人の邪魔でしたね」
清隆を連れて近くにあった公園まで歩く。公園は夜ということもあって人の姿はなく、多少大声を出しても大丈夫そうだった。
「一応夜だから声を抑えて話し合いましょう」
「はい! 近所迷惑になりますからね!」
「だから声が大きいのよ」
「すいません」
疲れた始めた気持ちを落ち着かせるために一度深く息を吐いた。
「話の続きだけどね。ステラはさっき話したこと以上は知らないの。人が襲われていたから倒したそれだけ。あいつらがこの世界の住人じゃないことくらいしか分からないわ」
「ステラさんの世界の住人ということは?」
「ない。これは言い切れるの。見た目は人間と変わらなかったし、生気を吸う魔物や魔族もステラの世界にいなくはないけど、ステラの世界の住人ならステラは絶対に分かる」
自分の世界だ。目の前に住人が現れればどれほど隠そうとしていても分かる。女神としての権能だ。
「それほど自信を持っておっしゃるのであれば信じましょう。そうなのだと」
「信じてくれてありがとう。今度は私から質問ね。あなたはなんで昏倒事件を探っているの? さっき消防団って言ったけど、こういうのは警察じゃない?」
「人を救うのに職業など些細な問題です。重要なのは救える力があるかないかですから」
清隆は自信満々に鍛え上げた胸筋を空に向かって張った。
「確かにね。この事件はこの世界の人間には荷が重いようだし。異世界を知っている人が適任ね」




