宣誓
話し終えた赤崎君は車をパーキングエリアへと向かわせた。駐車してエンジンを切った赤崎君は運転席に深く背中を預けて疲れたように上を仰いだ。
「疲れたかしら」
「ですね。自分が思っていた以上に精神的にきつかったみたいです。広瀬、悪いけど代わりに飲み物買ってきてくれ。水でいい」
「分かりました。ステラさんは何にします?」
「そうねぇ、気分転換にご当地の特産物ドリンクがあればそれでお願いしたいわ。味は頼子ちゃんに任せるから」
「じゃあ、行ってきますね」
頼子ちゃんが車を降りて車内には私と赤崎君の二人が残った。
「窓を開けても平気?」
「隠形の事なら大丈夫ですよ。それくらいで外に漏れたりしません。もし駄目だったら広瀬が外に出た時点で車のドアが開いているんですからアウトですよ」
「それもそうね」
スイッチを操作して後部座席の窓を開けると新鮮な空気が車内に流れ込んできた。若干沈んだ車内の空気が入れ替わったような気がする。
「少しさっきの話の続きですけど……共食いの件は俺が決着を付けないといけないんです。さっきステラさんに言われたばかりで申し訳ないですが、共食いがああなった原因を作ったというもありますし、数年前に俺がトドメを刺せなかったというのもあるので。あの人は俺が止めてやらないといけない責任があると思ってます」
「責任を感じるなとは言ってないわ。自分でやらないといけないことがあるのは悪くないわ。一人でやろうとしないでってことよ。でも、今の言葉だと赤崎君と共食いはさっき聞いた話以上にいろいろと関係がありそうね」
「以前俺に二人の師匠がいるって話したのを覚えていますか?」
師匠の話は居酒屋での会話の中で聞いた記憶がある。一人目は父親でもう一人は……そういえば詳細に誰かとは名前も聞いていない。
「二人目の師匠は若園でした。蟲毒に攫われる直前まで俺は若園が共食いって呼ばれてる能力者だってことは知りませんでした。俺の師匠をしていた時期はそれなりに善人だったというのは後から聞いた鈴野さんの感想です」
「前に聞いた話だと命の恩人でもあるのよね」
「殺されかけた時に助けられています。トドメを刺せなかったのはその時の恩がというは言い訳ですね。あの人と一緒に過ごしていた時期は大変で迷惑も恩以上に沢山かけられましたけど充実してました。俺が若かったというもあるんでしょうけど」
「いい思い出なのね」
「はい」
赤崎君は迷いなく言い切った。
「蟲毒から出てきたあの人はもう若園ではなかった。蟲毒の集極、共食いの名を冠した魔でした。それを分かっていて俺は最後の一撃を決められなかった。その戦いで沢山の人が亡くなったっていうのにです。その時の俺はトドメを刺すっていう責任から逃げたんです。だから二度目は逃げられない」
「宣誓するような言い方ね」
「せっかく近くに神様がいるんですから神頼みですよ。俺が決めたことを守れるように」
人が神様である私に頼み事をするというのなら私は私が出来る範囲で頼みを効かなくてはいけないだろう。
「前にも一度聞いたけど……改めて聞くわ。ねぇ、赤崎君、私に何をして欲しい?」
「俺がやるべきことを出来るように見守っていてください。これ以上俺の近くの誰もが居なくならないように」




