気になることがあると好きなドラマもちゃんと楽しめない
爪の男が腕を引いた瞬間に左右から私を捕縛していた男達を力づくで投げ飛ばす。二人共、左右の壁に身を削られながら飛ばされていった。壁には男達が通った後がくっきりと残ってしまったので後で直しておかないといけない。
私の横には仲間に腹部を貫かれた男がわずかに息をして倒れていた。まだ生きているが長くは持たないだろう。せめてわずかでも苦しみが無いようにと瞬時に燃やし尽くして灰も消失させる。
「今日、ステラはいい事があった日でね。気分が良かったのよ。本当ならいい気分のまま家に帰って途中だった海外ドラマを見て晴れやかな気分で眠れるはずだったの。それが貴方達のせいで汚されたわ。ううん、違うわね。これもいい事ね。貴方達からこの世界の人達を救えたんだから」
私の言葉に目の前で唯一まともに立っている残された男は恐怖したように後ずさる。
なんだか私が悪者みたいで少しショックを受ける。だけどやることは変わらない。
「さっさと終わらせるわよ」
私が拳を握ったのを見ると目の前の男は逃走に入った。後ろにではなく真上に。路地の壁を蹴り上がっていき、建物の屋上へと向かっていく。逃がさないと視線を上に向けた最中に見えたのは私に向かってくる先ほど投げ飛ばした男二人だった。
どうやら一人だけでも逃がそうという思惑らしい。
仲間想い?
そんな考えが浮かんだが、最初にその仲間を肉壁にした時点でそれはない。目的のために犠牲は遠慮しないという思惑だろう。それは時にして仕方ないと割り切ることもあるだろうけど、私はそれを仕方ないと割り切らず、無理を突き通して誰の犠牲も出さずに自分が一番傷ついて目的を達した人物を知っている。それだけに私はこの男達の思惑に怒りが湧き、打ち砕いてやろうと奥歯を噛む。
上に逃げた男を追うのを邪魔しようと防御の素振りを一つもみせずに男の一人が飛び掛かってきた。もう一人は私の左脇を通り抜ける進行ルートで背後へ向かおうとしていた。後ろには気を失っている男女がいて、私は当然二人を守らなくてはいけない。
どちらを相手にするにせよ、一呼吸分の時間がかかる。二人相手で二呼吸分。その間に逃げた男は建物の屋上沿いに逃げてしまう。それでも追いつくことは可能だが、出来れば人目が少ないこの場所で全て片を付けたい。
私が取った行動は背後へ向かおうとしている男への左蹴りだ。蹴りの威力で男の胸部につま先が突き刺さる。血がべっとりとついたので後で新しい靴を買わないといけない。私は男をつま先に突き刺したまま、飛び掛かってくる男へ右足も使って蹴り飛ばす。
空中でエビ反りのような体勢になり、そのまま逆立ちするように両手を地面につける。両腕をバネにようにして跳ね上げて男達を二人纏めて上へと蹴り上げた。私自身も蹴り上げた男達と一緒に上へと飛んでいき、途中で先に逃げていた男を追い抜く。途中目が合ったが、逃げていた男は目を見開き信じられないモノを見たように恐怖していた。女神に対して失礼すぎではないだろうか。
路地の間を上へと飛びぬけると月明かりが照らしていた。三日月だったが十分な明るさだった。
私は蹴り上げた男二人を空中で踏み台にして今度は真下へと向かう。握りしめた拳の行き先は遅れて路地の間から上がってきた男の顔面。まだ先ほどから変わっていない失礼な男の表情に拳をめり込ませながら地面へと叩きつける。
「ふぅ……」
拳を引き抜き一息ついて確認した男の顔は原形が分からないほどになっていた。一拍遅れて上空に蹴り上げていた男二人も落ちてくる。
「幕引きよ。この世界に本来いない危険な存在は灰すら残さないわ」
女神の力の一つである浄化の炎で先に燃やし尽くした仲間と同様に灰すら残さず消失させた。
後は壊れた壁や地面を治して気を失っている二人を大通りまで運んで救急車を呼べば一段落となる。だけど、香織の件といい。最近、私のように異世界からこの世界へ来ているモノが多くなっているのは気になった。全てのモノがこの世界にとって害ではないと思うけど……不安は続きそうだ。
少し間は生活範囲のパトロールだけでもした方がいいかもしれない。海外ドラマを見る時間が減ってしまうが、気がかりを放置しては海外ドラマも楽しく見ることは出来ないのだから仕方ない。




