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午後二時のお昼ご飯とロードショー

 私の世界と勇者殿が住んでいたこの世界で違いは多々ある。一番の違いは魔法と科学だ。私の世界は魔法があったため、魔法で日常生活を便利に過ごそうという方向に思考が進んだ。勇者殿の世界は魔法がないため、科学で日常生活を便利に凄そうという方向に思考が進んだ。火を起こすには火の魔法を使えばいいではなく、発生させた電気で火花を起こしてガスで点火させる方法を考え付いた。

 この世界に来た当初は非常に不便というか面倒な方法を取っているとさえ思ったけれど、使用者は何の知識もなくても扱えるという点で魔法より優れている。特に電子レンジはいい。特に何も考えることなく温める商品のパッケージに書いてある時間を指定するだけでホッカホカのご飯が食べられる。これが魔法なら火加減に細心の注意を払いながら温める必要がある。空腹で今すぐにでも食事をしたいという時にそんな繊細な作業をできる者はそんなにいない。

 チンっという指定された時間温め終わったことを知らせる音が鳴った。

 今日のお昼ご飯。と言っても時計は午後二時を回っているが。

 ともかく三食食べる内の二食目は親子丼だ。ご飯と上にかける溶き卵と煮込んだ鶏肉が分かれているタイプの弁当で食べる直前に一緒にするのでご飯が出汁でぐちゃぐちゃにならないのがいい。

 スプーンで一口頬張ると出汁の味と柔らかい鶏肉、そして硬さの残るご飯が噛み応えを与えてくれる。言ってしまえば美味しい。

 私の世界のご飯が美味しくないとは言わないがこの世界の料理への探求心はずば抜けている。ダシ一つにしてもこれほどこだわって作っている者は私の世界にいるだろうか。素直に悔しいと思う。何故私の世界にはこの世界の料理人のような考え持つ者が生まれなかったのか。

 さらにもう一口頬張りながら悔しさと美味しさを噛みしめつつ、テレビのチェンネルを回す。何やら映画を放送している局があったのでチェンネルを止めて鑑賞に入った。


「海、アベック、周囲に人影無し……サメね」


 映画のタイトルは見てないし、初めて見る映画だったけど王道ともいえるシチュエーションに私はこの映画の主役を見抜いた。数秒後、見たことのある背びれが海面から姿を覗かせた。楽しそうにしているアベックは背びれに気付かない。この後の展開も想像通りではあったけど、サメの下半身が人間で映画のタイトルが『人間サメVSサメ人間』であることには大変驚かされた。驚きすぎて後半、親子丼の味を覚えていないほどだった。


「まさか最後がハッピーエンドとは思わなかったわ」


 この世界の娯楽への発想はすごいと改めて実感する時間だった。

 ある種の満足感に浸っているとスマホが着信を告げた。ディスプレイを見ると香織からだった。先日の別れた後、お互いに連絡先を交換していないことに気付いたので斎藤君経由で私の電話番号などを香織に伝えてもらった。それ以来香織とは電話で話すことが多くなった。

 

「ねぇ、ステラ。今、何してる?」

「人間サメとサメ人間が幸せになった瞬間を見て満足してたわ」

「……ごめん、今、何て言ったか理解できなかったんだけど」

「安心して、ステラ自身も今自分が見ていたものが何なのかよく理解してないから」

「うーん、変なB級映画?」

「変な映画だったわね。そこそこ楽しめたけど」

「サメってことは血が出るんでしょ」

「出たわね、ドバドバ」

「うぅ、私は苦手だな」

「香織は見なくていいわ。見る機会もないでしょうけど。で、何か用?」

「暇ならちょっと遊ばない?」

「見たいドラマのノルマがあるんだけど」

「可愛い現役女子高生が誘っているのよ。オッサンなら無条件で仕事放って飛んでくるのに」

「生憎とステラはオッサンじゃないし、仕事も今はしてないの」

「なら暇ってことでいいじゃない。来てよ。渋谷の駅前にいるからさ」

「渋谷ね。賑やかすぎて少し苦手」

「賑やかなのがいいんじゃない。じゃあ、待ってるからね」


 香織は一方的に約束をして電話を切ってしまった。

 私は行くかどうか迷ったが行かないと香織がいつまで駅前で待っていそうな気がしたので身支度を整えると渋谷へと向かった。

またコンビニ飯の話

そしてサメです。

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