女神ステラの世界が救われた話をしよう-商売人-
ミグリット城には城下の街並みを眼下に見ることが出来る建物の外側に張り出した屋根の無い箇所がいくつかある。落下防止用に石製の柵が備え付けられているので柵に寄り掛かりながら街並みを眺めている城内の人々の姿をたまに目にする。
私も例に漏れずにしばらく見ることはできない城下を見ようと外に張り出した部分へと出た。
ミグリットの王都は高い城壁に囲まれた防衛に優れた都市になっている。一見して石造りの城壁だけれど魔法により何重にも対衝撃、対魔法の保護がされている。かつての魔王軍の侵攻でも最後まで行軍を押し止めたミグリット国民としては誇りともいえる城壁だろう。
城下ではまだ結婚式の余韻が残っているのか陽気な雰囲気が漂っていた。
「いやはや、いい儲けの機会だったのですけれど逃してしまいましたよ」
城下を見ていた私の後ろから金髪長身のエルフ、アルガトが現れた。出立する準備は整っているようで旅装束を身に纏い、背中には使い古された弓が付けられていた。アルガトの弓はエルフの森の大木の枝から作られていて見た目以上に頑丈さがある。いつだったか敵の大剣を弓を盾代わりにして防御した時などは大変驚いた記憶がある。
「あなたのことだから儲けてはいるんじゃない?」
「それは当然。連れてきた者に商売をさせましたので。ただ私自身が動ければより儲けられたのにという愚痴です」
「エメオールから聞いたわよ。エルフの森の伐採の話」
「聞きましたか。いやはや驚きましたよ。彼女から手伝ってほしいと言われるとは思いませんでしたし。旅の仲間でしたのでね。本来なら相談料を取ったりしますがそこは無料で手伝いましたよ。もっとも私はあくまで相談役としてですけど」
「エメオールにはいい経験よ。あの子は優秀だもの。人付き合いがちゃんと出来るようになればきっと多くの人の役に立てる」
「同感です。見た目もいいですからね。目立つ彼女が上手い具合に表で活動していただければ私は裏で動きやすいですし」
「悪い顔してるわ」
「儲けを考えている商人の顔ですよ。笑顔でしょ」
「あなたはいつも笑顔でしょ」
「そうですとも。暗い顔をしていても良いことはない。金儲けにはならない。だが、笑顔は違います。笑っていれば人が寄ってきやすい。暗い顔よりもね。そこで商売が生まれるかもしれない。だからこそ笑顔です」
「なんか……前にも聞いたわね。その言葉」
確かアルガトと出会って間もない頃だったと思う。当時は私と勇者殿だけだった。少し前までライザックは居たが彼は本来の任務があって一緒には行動出来ない時期だった。
頼りにしていたライザックと別れて若干不安だった頃に出会えたアルガトの明るさは旅の救いとなった。
「それなりに言ってる言葉ですからね。私の信条ですし」
「いい信条よ。女神のお墨付きを上げるわ」
「これはこれは。ではこの言葉を木札に書いて女神ステラお墨付きの言葉と宣伝すれば売れますな」
「商売にするなら取り消すわよ」
「冗談ですよ。信仰関係の商品は面倒ですから私は手を付けません。言葉だけありがたく受け取ります」
アルガトは柵に近づくと城下を見下ろして隅々まで視線を送った。
「何か探し物?」
「さっき話した連れがいないかと思いましてね。ぎりぎりまで商売をしていると思うのですが……ああ、いましたね」
城から城下までの距離は遠い。比較的近い城の正門へと続く大橋にいる兵士も人がいることが分かる程度で誰かまでは分からない。魔力や女神の力で視力を強化すれば誰かを識別できることは可能だ。アルガトは私でも強化が必要なほどの長距離での人の識別を魔力などは使わずに自前の視力だけで行うことが出来る。特質的な目の良さを持っていた。アルガトの目はただ遠くを見るだけでなく近くの細かな物を見るのにも使われていて、商品の真贋、良し悪しに役立てている。
旅の最中では仕掛けれていた罠の発見などに役だった。彼が居なければ死んでいた場面がいくつもあっただろう。




