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終焉の真紅(凛)  作者: A-YAG
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地下だということはわかる。冷たくも、熱くもない空気が淀んでいる。 反響する声が、無機質なコンクリートに反響して 壁面に1つ設置された間接照明をすり抜けていく。


鉄格子で隔たれた私と、桜庭桜との間には確実に距離があった。例えるならば、動物園で展示されている動物と、それを見下す人間のようだ。


「9832 食事の時間だ。食え」


桜庭が見守る中で、足を拘束具に繋がれていた私は 軍服を着た女の指示に反応するのも億劫で無視していると 柵を開けて兵士の女が入ってくる。


「また食べさせられたいのか?」


無言を貫いていると、私の俯いた顔を無理やり起こして口を開かせる。手袋を外さずに口に突っ込むから、布地に染み込んだ埃の味が嫌でも感じる。


「...」


ただ、桜庭はそんな私を無表情で見ていた。口に躊躇なく連続して入れられる食事に私は吐き気を我慢していると兵士は楽しくなってきたような表情でペットボトルの飲料を差し込む。


「どこまで飲めるかな?」


視界がホワイトアウトしようかと言うまで、流し込まれた水分でむせていると兵士は食器を手にして外へと出ていく。


「9832 君みたいなのも珍しいよ 普通はもう壊れているはずなんだけどな」


笑って去っていく兵士を無視して、桜庭の方を見ると 彼女は作ったような表情で言う。


「凛、私はあなたにはなって欲しいものがあるの。 それは、私のためでもあって あなたのためでもあるのよ。 それはね...」

そう言いかけると、桜庭は落ち着いた声で言う。


「魔女という実験動物になって欲しいの」


狂気に満ちたその発言に恐怖を感じつつも、別にどうだっていいという感情が勝っていた。壊れればそこまでだし、実験に成功したとすれば、それはまたその時考えればいい。そう思っていた。


「実験って? 魔女なんていないよ」


それでも、自分がどうされるのか気になって尋ねると桜庭は 少し言葉を選んでから答えた。


「魔女はいるわ。実験についてはあなたは知らなくていいことよ。最悪、本当に死ぬだけ。あなたが行こうとしていたディストピア。 だけれども、一つ教えるのであれば そうね...」


そうね。本当の意味で私は、 人 とは何か。自分が本物である理由・根拠を知りたいのよ。


理解できない事を言われていたけれども、たしかに何かの答えを求めているであろう桜庭の表情には自身が満ち溢れていた。


***

「どうかしら、復元は?」

桜庭の問いかけに白衣の男が応える。少し怯えた表情の彼は、震えた手を隠すようにコーヒマグを机に置いた。

「完成に近い。コアとなる電脳だけが未完成であるけど、デバイス(身体)は問題なく稼働するさ」



一般的にここの事をよく思う人は少ない。この場所に来るのは、死体ばかりだからだ。頭がおかしくなりそうな者の数々。実験のために提供されたとはいえ、怖いことは隠しきれないでいる。


大学の研究部門として存在する電脳電子クローン学科。国内でもマッドサイエンティストと言われるような狂気に溢れた学問を学ぶものなどほんの僅かだ。


と入っても、警察鑑識などに配属を希望する者が時折授業に参加するくらいだから 非常識ではないのだと思っている。


そんな学問のための場所だと言うのに、ここ数ヶ月は事情が違う。


「一体いつまで、僕はあなた方の協力をするのですか?」


国家の諜報機関の研究として、造られたクローンは 教授でもある私にとって禁忌に触れている事そのもので、いい気分なわけが無い。


「目的が達成されるまでよ。 少なくとも、大学側が決めることではないのよ。 影の存在があるうちならば許される。共存こそが、利用価値を高めるのよ」


そう言って微笑む彼女の目的は知らないけど、影と呼ばれる存在を人間がコントロールできるなど絵空事だ。

「40年ほど前、放射能が利用されていたことがあります。今では危険性が認知されていますが、当時は魔法のようだとして使われていたのです。ですが、それが時として人間がコントロールできなくなった時 悲惨な結果を招いたのは知っていますね?」

「えぇ、知っているわ。だけど、時代は過ぎてAIといった第2の頭脳を持った存在がある。同じことは繰り返さないわ」

少しだけ不機嫌になると、振り返って彼女は立ち去る。


「そうだ、あなたが作り上げたクローンは 大成功 よ。教授」


9832。水槽で復元されつつある彼女を横目に僕は、残酷なものだと思うのだった。それは、未知の領域に無責任に一人の少女を放り出すというこの世界に対して抱いた憎悪を含んでいると思う。




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