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終焉の真紅(凛)  作者: A-YAG
4/8

-3 pain

「私は夜が好きよ。落ち着いていて 静か。静寂が支配した世界で起こる反逆は、照明の明るさぐらいよ」

私がホテルの窓から高層ビル群を眺めていると波は、風呂上がりの髪の毛をタオルドライしながら応える。

「意外。てっきり嫌いだとばかり思っていたわ。姉さんがいつも泣いていたのは夜だったし 両親からも無視されていたのは夜が多かったでしょ」


過去の記憶というのは、たしかにある。だけれども、私が一番濃厚で濃密で記憶に刻みつけられているのは そこではない。


「私は、一度死んだ。だけど、それは事実だけど真実は違う。私は、リブート(再起動)したのよ」


***

=えぇ 確かに湯川凛 本人よ。 だけれども、私たちが知っている彼女ではない。私が、あなた達に操られる人形だったのとは違って 姉さんはスタンドアロンで、判断ができる。優れた存在よ。

(不良品)

=ごめんなさい。私はただ...

(もういい)

=確かに実行します。だから 許してください





「波?夜中に電話でなにか話してたの?」

寝ている波の方に私が話しかけるも応えはなくて布団をまくりあげると彼女は目を見開いて震えていた。


ー見覚えがある光景だった。


急いで端末を取り出して桜に電話をかける。

「急いで救急車を呼んで! 影よ」


コマ送りの映画を見ているように、私の意識が処理落ちしていく。私自身にも少なからず影の影響が出ているのだろうか。だけれども、波の方は特別に不安だ。


「凛... 怖いの。私、姉さんに影を仕込ませろって命令されてたの。だけど、嫌だって言ったのに。あいつが、起動させたの。だから私。私ね...」

必死に言う波に私は、冷めていた。

「そう」


別に感情がなかったわけじゃない。彼女だって、自身の中で抱える問題は多いはずだ。 だけど、彼女はこちら側の人間では ない。


「心配しなくていいよ。 その程度なら、若干後遺症は残るだろうけど問題は無いはずよ 結局、昨日のことはすべて嘘なの?」

私がそう言うと、波は目を震わせて応える。


「研究者っていうのは嘘。私は... 諜報機関(9”)のエージェント でも、両親から離れたのは事実で 上からの命令されて今回のことが起こったの」


そう


冷たく見放したような微笑みで私は、彼女の意識を飛ばした。 眠って、起きた時は知らない天井だと思う。


桜がどの程度この件に関わっているのかは知らないけど、私は結局 心を許せそうな人はいないのだと実感したのだった。


「心が痛いなんて言うのはこういうことなのね。でも、慣れてしまうはずよ」


***

結局の所、彼女(=波)は桜が手配した救急車で病院へ搬送された。 その後、私と桜はチェックアウトを済ませた上で基地に向けて車を走らせている。


「知ってたくせに」

ハンドルを握る桜を横目で見ながらそう言うも、桜は無反応だった。

「桜? 私は帰りたくないのよ。 戻ればまた戦慄が充満する場所へ行くことになる。私だって、壊れてしまうのよ」


車がアスファルトに接地する音が高くなっている。速度が上がっていく中で、桜は重たい口をやっと開く。

「何と言おうとも、私からは逃れない。それは、あなたが私に理想を求めているからよ。 私はあなたの親でなければ友達でも無い。」

「知ってるよ。私を一度は殺したし 私を使役しようとしている。 でも、時折 優しさを見せるのは何故かしらね」


基地に近づいて行くにつれて、空は薄暗くなっていく。次第に雨が振り始めたと思うと当たりは埃臭さにまぎれて鉄が錆びたような匂いが充満する。


「また用事があれば、連絡するわ。 でも、良かったわね 命拾いして」


扉を閉めようとする手を止めて、私は囁く。


「私を管理しても、消そうとしても意味なんて無い。所詮、私はただのタンパク質と水分で大部分を構成されている モノ よ」



過ぎ去る車を横目に見送りながらも、私は雨に打たれていた。 流れていた涙も雨で流されてしまう。

だからこそ 私は今日の事も忘れるようにしようと。慣れてしまえば怖くないはず。


そう信じこむしか、私には無いようだ。

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