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終焉の真紅(凛)  作者: A-YAG
3/8

-2 ignore

「久しぶりね 私といたときよりも人間味が希薄になった気がするのは気のせいかしら」

影との戦いを終えて基地に戻った私を彼女は待っていた。


桜庭桜


私が今を生きるきっかけとなったキーパーソン。残酷な女だと思っている人だ。


「私の手紙を読んでくれたのならば返事でも書けばよかったのに」

桜庭と妹からの手紙が届いてから3ヶ月が経っていた。あの日、泣いていた少女も今はいないが それ以外のことは日常で過ぎ去っていたのだ。


「手紙が届いてからまだ数日しか経っていないかと」


「嘘も上手ね。まぁいいわ あなたの上司には許可をもらっているから妹に会いに行きましょう。早く血を洗ってきなさい」

そう言ってシャワールームへと私を連れて行くと、桜庭はシャワールーム前のベンチで待っているとだけ言って私を押し出すのだった。



HOTとCOLD そう書かれたレバーをそれぞれ廻してシャワーを出すと、温かい霧に包まれる。

ぼんやりと不明瞭な視界の中、鏡に見える私の表情は死んでいた。表情筋が役目をあまり果たしていないようだ。


(刹那。)


「そういえば、私達が世間でなんて言われているか知ってる?」

あの日、目の前の残酷さに涙を流していた彼女が言っていた。その言葉はまるで悲惨さを象徴するような口調だ。意味合いだけで言えば、(類似=被害者 被検体 いじめられっ子)のようだ。その一言でまとめられたような。


「冷涼魔女?」

「冷たそうだけど、違うのよ」


端末を取り出した彼女はSNSでつけられているハッシュタグを私に見せる。


#終焉の真紅 #紅の魔女


「何?惜しいじゃない 魔女 入ってる」

「惜しいけど、ちょっと違う」

どちらも 紅 という字が入っている。赤でなく紅。深みがあって 血液のようなあかだ。それは、実際に私達が戦いを終えると血だらけになっているのを見た誰かによって書かれたのだろうか。

「魔女って聞くと 私は胸が膨らむの。 魔法少女に憧れたことがあれば誰だってそう思う気がするの」

幼い頃。私の空白地帯に知っているはずだった経験。だけれどもそれを持ち合わせない私をよそに彼女は楽しそうに続ける。

「未だに私、お風呂で魔法少女の呪文を真似しちゃうのよ command do event! 9'''9!ってね」

「なにそれ」





すでにいない彼女のことを思い出しながらもバルブを閉じて私はシャワールームを出る。

「風呂で考え事してしまうのは何故?」


***

モータの音が低音で響く。

桜庭が運転する車に揺られて妹と待ち合わせをしているという、都内のホテルへと向かう。

「きちんと食事は食べているのかしら?管理者らしいことくらい言わないとね」

ハンドルを握りながらも、助手席に座る私をチラチラ見ている彼女に前を見るように言いつつも答える。


「食べていないわ 食事らしいものが出たことがそもそもないから...」


驚いた様子をする彼女だったが、少し考えた後にフッと笑う。


「そうね。基地では基本的に四角形の食品ばかり出てくるものね バランスバーに長方形に固められたメインディッシュ。ゼリー状の野菜と副菜。スープや味噌汁はパック飲料で出てくるのよね」


人らしい扱いではない。そう思ったことは言わなかった。 人であることを放棄したような存在であることを思い出したからだ。


「今日は、その事を忘れなさい。あなたの妹がディナーにホテルを用意してくれたのだから」


妹。私の記憶の中で彼女はいつも幸せそうな表情を浮かべていた。偽りのない純粋な微笑みだ。

「何故、会いたいのかな... 私のこと忘れていたとばかり思ってた」

「子供は純粋だから、親が全てなのよ。他の大人がいるとしても一番長い間いる親の思考に知らずに染められていく。だけど、ある日突然 外の世界を知ってしまった子供は自分がおかしかったと自覚するのよ」


そう。


それだけ答えると、都心部の人や車の多さに驚きながらも そこに当たり前の日常があるという光景が眩しかった。私は、桜庭によって外を知った。

故に、いつだってそこには私が壊れかけの状態でいた。

「着いたわ。あと、今更だけどドレスを持ってきているから着替えなさい。 車のガラスはスモークにするから」



車を降りると、ホテルのフロントで桜庭がチェックインをする。待っている間にエントランスにいる人を順番に見ていく。

「妹を探しているのかしら? ここにはいないわ 遅れてくるそうよ」


ホテルのレストランで腰掛けていると、遠くに雰囲気が似た女が ウェイターに案内されて来る。

「ひさしぶりね 姉さん」

冷たく微笑んだ彼女は、成長した妹だった。 華奢で地味な印象だけど、華美でなく似合っている服装が美しく見える。私の、服に着せられているのとは違う。

「大きくなったね」


***

「なぜ、私に会おうと思ったの」

運ばれた前菜を前に、私が尋ねると妹の波はナイフを置いて口元を拭って答える。

「私は、ずっと会いたかった。あの日、死んだと思った日よりも前からよ  たった一人の私の本当の理解者だもの」

両親から十分すぎる愛情を受けていたと思っていた波だが、話をしているうちにそれは誤りだったと知った。

「私は愛されていたわけじゃない。計画の段階で必要な操作だから愛された。つまり、手順だったの」

「目的は?計画って」

すると、端末を取り出してニュースの記事を見せる。

「両親は今、監察課の観察に置かれているの。 二人が、影を作り出したんじゃないかって。 実験の失敗から生まれた負の産物よ。 そして、私達 いや 私はその影を消滅させるために研究者にならせようとしたの。自分たち以上に優れた能力を作りたかったのね」


「でも、民間の企業に入ったんでしょ。両親のいた国立の研究施設には行かずに」

「そうよ。無視したの。 必死にお願いされたけれども、監視下で拘束されていたから 私は初めて反抗したの。無視した。」


それでも...


それでもと波は続ける。

「でも、影は消す。そうすれば姉さんもまた自由になるよね?」


その問かけに私は、曖昧すぎると思ってしまって 言葉に詰まってしまった。


「そ、そうね。 自由かもしれない」


本当は、壊れた私の精神に縛られるのだ。 自由なんてもう存在しない。だから、私は嘘をついた。

現実を知らない彼女が、悩まないように。苦しまないように。


「頑張るよ私!」


笑顔の妹。波に私は冷たい顔で微笑んだ。

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