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終焉の真紅(凛)  作者: A-YAG
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もしも、私が普通の生活を送ることができていたら嫌な思いをしなかったのだろうか。

もしも、私が選択を間違っていなければ、今の生活は逃れられたのだろうか。

もしも、私が...


上空も地面も真紅に染まった世界で、人々はかつての青い空を求め 自由という平和を理想としていた。それが、叶うことなど気が遠くなりそうだと言うのに無責任にそう思い、思われた。


だから、私達が存在し 犠牲となる。


気が遠くなりそうと云った世界に少しでも近づけるために。



終焉の真紅[experiment]



2045年。アニメや空想で描いた世界が現実となったというのは間違った表現でないと思う。図書館やネットのアーカイブで見た限り、大半のことがそのまま現実のものとなったからだ。長寿に願いを馳せた時代が当たり前となり、健康であることが重要視された時代も過ぎた。便利が、手元に残り 希望の飽和状態だと言えるまでに来たある日、世界は突如としてそれまでの情況を拒否した。


ー影...状の存在が都市部を中心に発生しています。それらは、群衆となった時人間に対して重大な障害を与えます。ある種は、戦争を引き起こし また違う種は、人間をソフトウェアで破壊する。科学でも電脳でも処理できない情報量を持ち、脅威としてたちはばかる。


一気に暗黒時代となった中で、為す術もなく崩壊していく文化に消えゆく人口が自体の解明・解決を急務としたのは言うまでもないだろう。


男は振り返る。

「彼女らの存在が世界を救うとわかった時、幼い頃見た魔法少女が登場するアニメを思い返したんだ。ステッキも呪文もないけど、確実に言えるのは彼女らが唯一の希望だと言うことだ」


血だらけになり、犠牲も出しながらも影を処理する能力を持たされた少女たちを人は云う。


終焉の真紅(紅の魔女)だと。



***

淡く香る紅茶の香りが心地よく香るタバコの煙が、鉄の匂いを中和してくれる。常習的に喫煙するわけではないけど、特別辛いときには役に立つ気がする。

「凛 もう慣れた?」

「何を」

戦闘服が血だらけの私と同じくらいに汚れた彼女は、今にも泣きそうな顔だ。

「自分の目の前で人が死ぬことよ。少しずれていたら自分だったかもしれないし、さっきまで私達と同じ生きている側だったのに 一瞬でグチャグチャなのよ もう...無理よ」

そういうと彼女は、怯えるように泣き崩れた。

彼女を横目に私は、自分が大切な何かを失ってしまっていることに改めて気付かされてしまう。それでも、拭いきれない鼻につくニオイに私は無自覚に紛らわそうとしている。

「もう慣れた。感覚が麻痺してしまっているのよ そのうちそうなるよ」


そんな私に通信兵から1枚の手紙が届けられた。


「桜庭桜... あの人から?」

桜庭 というのは、私がこの仕事につくきっかけを作った人。感謝と憎悪の対象である。悪夢から目を覚まさせた天使。凄惨な世界へと送り込んだ悪魔。そんなところだ。


封筒の封を開くと、写真が1枚とメモが入っているだけだった。


写真は、妹が影と呼ばれるもの(今、私達が戦っているもの)について研究内容を発表する様子のものだ。裏には、桜庭とは異なる華奢な字が書かれている。


・凛姉さんへ。私は波です。 私は、凛が生きていると聞いた時驚きました。 私が両親に対して物を言えないような弱虫だったから自殺に追い込んでしまったのだと思っていたからです。あのときはごめんなさい。

今度、ゆっくりと話しませんか? もちろん二人きりです。


成長したのだと思う反面、天才である妹が本当にそう思っているのか なにかの思惑に動かされそうなのかがわからずにいるのも事実だ。


ただ、純粋に知っている人が幸せそうにしている事がどこか嬉しいと思った。


もう一枚のメモには、桜庭の字で書かれた字で写真についての説明が書かれている他に 私が今に至るまでのことが簡単に書かれていた。


・凛さんへ。

私はあなたに憎悪を向けられてもおかしくないことは承知しています。ですが、私の仕事だったので諦めてください。 さて、写真はあなたの妹である波さんから依頼されたものです。 研究発表をする様子を偵察に云った際に不覚にも偵察がバレてしまい、彼女にお願いされたまでです。 大学生になった彼女は、両親と同じ研究者になることが決まっているそうです。ただ、両親とは違い民間企業だといいます。


さて、次に私があなたを利用する経緯について そろそろ教える頃だと思いました。いずれあなたのところへ行きますから、その際にお話しましょう。



メモの裏には、端末メールIDが書かれていた。


「凛には手紙を送ってくれる人がいるのね」

「えぇ でも初めてよ」

泣き崩れていた彼女は、ふらつきながらも歩みを進めて行く。基地内の宿泊室へと向かっていく後ろ姿を横目に私は、今に至るまでの過去を思い返すのだった。

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