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クセモノハウス  作者: 立川好哉
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第1話 ポンコツどもよ!

 日常が突然に変化したならば、それを幸福と呼ぼう。


 神田崇德(かんだたかのり)は21歳。無職。趣味、ゲーム。


 2028年、多摩県。東京都というのは特別区だけのことで、多摩地域とか三多摩とか言われていたのは多摩県になった。県庁所在地、立川。


 神田の住むアパートは立川駅から徒歩10分ほどの、寂れた木造二階建て。間取りは1K、家賃月3万7千円。


 神田とは罪深き男で、祖父母と父母の遺産で暮らしている。その額は数千万円にも及び、今の彼の生活を支えている。老人になるつもりのない彼に人生計画はなく、今を幸せに生きることだけを考えている。部屋には大画面の液晶テレビ、最新のゲーム機、ハイスペックパソコン、漫画などがある。これ以上に快適な空間はないと思えるほどの環境を整えて、そこで死ぬまで楽して生きてゆけるのだから、彼の人生は幸福に満ちたものになるだろう。

 金があるからオシャレもできるし、エステにも行けるし、車を乗り回すこともできる。しかし神田はそれとは無縁だった。オシャレには興味がなく、毛むくじゃらで、車は持たない。もちろん高級な装飾品もしていないし、タトゥーも入っていない。


 彼には今はニートになってしまった高校の頃の同級生がいる。神田の日常は彼とオンラインゲームで遊ぶことだ。夢中になれば1日10時間はやる。あちらはどうも家族がうるさいようでそう長くはできないようだが、運が良ければ1日じゅうやっていられる。

 今日も彼はニートとその仲間の3人でダンジョンの深層を探っていた。特殊アイテムを拾うことで敵を倒せるようになり、その下層にあるレアアイテムのところへ辿り着ける。その特殊アイテムを探しているのだ。その層のモンスターを100体倒した後に低確率で出現する敵がこれまた低確率で落とすから、根気よくやらねばならない。時間のない人にとっては地獄のような設定だが、働いていない人には関係のないことだから、神田たちは今日のうちには拾えるだろうと予想していた。


 しかし、一人暮らしで誰の邪魔も入るはずのない神田に邪魔が入った。ドアを叩く者は間違いなくセールスだから無視する。しかし今日のはしつこい。何度もドアを叩いてくる。鬱陶しいので内側からドアを蹴って驚かしてやろうと構えると、ドアが破られて内側に倒れてきた。神田の手前に伏したドアの向こうには人がいて、後光が差していた。


「神田ぁ!だらけてんじゃねぇぞ!」


 金属バットを持った小豆色のショートカットの少女が立っていた。広い襟のTシャツにデニムのショートパンツ、短いソックスに運動靴。元気娘という印象だ。だが、この世界に小豆色の髪の人は少ないし、知り合いにはいない。しかしこの少女は神田の名を呼んだ。


「おうおう、ボサボサしてんなぁ…洗い物もたまってるしよぉ…」

 ずかずかと土足のまま入ってきた少女は名乗りもせず神田に詰め寄り、彼の襟首を掴んだ。はたき落とされない正しい掴み方だ。

「だれすか…」

 少女は力強く、60キロほどの神田を持ち上げている。神田が細い声で尋ねると、少女は神田を落とした―瞬間、掌底が彼の腹に入った。

「うっ!」

 神田はよろめき、壁に身体を預けて倒れるのを防いだ。後ろはガラスの襖だから、衝突したら怪我を免れない。しかもここは賃貸住宅だ。

「ボーっと生きやがって…世の中にはなぁ、汗水垂らして、時には血を流して頑張って働いてる人がいっぱいいるんだ!お前のようになぁ、楽して生きることはこの国じゃゆるされねぇんだよ!」

 少女は勤労の義務のことを言っているようだ。しかし神田には働かねばならない理由が理解できない。生きるために必要な金を稼ぐために働くのだから、金をたんまり持っている彼に稼ぐ必要はない。しかし少女は働かない神田を許せないようだ。

「働かない奴はこの国の癌だ。あたしはそういう奴を処分するためにここに来た」

「は…?」

 黙っていられる神田ではなかった。この国には働かずに暮らしている人が数百万といる。それを全員殺そうというのだから、笑いものである。働かなくても金のある人は消費して経済を回すし、金を使って国のためになることをしている人だっている。それを一緒くたにして殺そうなどという考えを受け入れられるはずがなく、神田は腹を押さえて反論した。

「殺すべきなのは貯金ばかりで全く経済を回さない奴のほうだろ…!」

「ほう?それは自分が標的でなくなるための説得か?」

 少女は金属バットの端を持っていつでも振り抜けるようにしている。神田は怯えずに説明を続けた。そうでなければこの少女を帰すことができない。

「一人一人の背景を考えろ。俺は祖父母と両親が死んで、遺産で暮らしてる。その一方で同居する家族に何もかも買ってもらい、年金をすべて口座に預ける老人がいる。金は流通することで初めて価値を持つものだ。じゃあ、金の価値を失わせているのはどっちだ?」

「う、うるさいな。あたしが正義と思うことが正義なんだ。あんたが働いていないことは事実、あたしが処分しなければならない者であることに違いはない!覚悟しろ無職野郎!」 

 少女はバットを構えて駆け出した。戦う意思がある。神田は躱すことだけを考えた。


 しかし、躱すまでもなかった。少女が一歩踏み出し、二歩目を踏み出そうとしたときに軸足を床に滑らせ、そのまま床に叩きつけられたからだ。なぜ運動靴を履いている少女が足を滑らせたのか?それは神田の怠惰による罠だった。透明なビニルの切れ端は、昨日神田が夕飯にしたサラダのパッケージだ。神田がゴミ袋に入れようと投げたものが、外れて床に落ちていたのだった。それに気付かなかった少女が踏んで転んだというわけだ。

「いたいぃ…」

 少女は起き上がらずに呻いた。先程の威勢の良い声とは異なって弱々しい声だ。まるで助けを求めているようだったので、神田は慈悲の心を顕した。

「大丈夫?」

 床に伏した少女に手を伸ばすと、少女が手を取って起き上がった。Tシャツにもパンツにも床の埃がついていて、実に可哀想なことになっている。少し涙ぐんでいる少女のために神田がコロコロする粘着テープを差し出すと、少女は痛みと無職野郎の優しさとに涙した。

「無職のくせにぃ…」

「関係ねぇよ。ってかアンタなんなんだよ。仕事は?俺を殺すこと?」

 少女は靴を脱いで玄関に並べて置くと、涙声で答えた。

「”無職を撲滅する正義の委員会”ってところのメンバーで、全国の無職を殺して社会保障費を減らそうっていう活動をしてる…」

「バカばっかりいそうだな。俺みたいなのがいるってのに…まあいいや。名前は?俺のことを調べたんだな?」

胡桃屋小豆(くるみやあずき)…あんたの個人情報と家の位置情報はサイバー班が特定した」

「怖い組織だ。殺人事件だってのに」

 神田は死ななかったが、これは殺人未遂である。神田は小豆を警察に突き出すことができるのだが、敢えてそれをしなかった。あまりに可哀想だったからだ。

「どうしよう…失敗は許されないのに…」

 殺すことができなければ情報を知られてしまうため、失敗したならすべての情報を秘匿し、組織に戻らないように言われているらしい。組織のことなどどうでもよい神田だが、この少女のことはどうでもよくないのだった。

「帰る場所あるの?」

「これまで任務に失敗した人は1人もいない。だからどうするかなんてわかんないよぉ…」

 再び泣き出してしまった小豆が涙や鼻水で袖をぐしょぐしょにしているし、これほどに可哀想な子を見ると興奮してくるため、神田はまた慈悲の心を顕した。

「ドア直してもらわなきゃいけないなぁ。せめて直るまではここで罪滅ぼしをしてくんないかなぁ」

 わざとらしくカタコトで言うと、小豆は雨の後に射した陽光を見たような気分で神田に縋った。ある程度の情報を掴んでいるから、独身成人男性でも危険だとは思っていないようだ。

「でもあたし何も持ってない…このバットくらいしか…」

「それは要らねぇよ。ドア分だけでも俺の手伝いをしろって言ってんだ。金はあるんだよ」

 神田はすぐに業者に連絡して修理の依頼を済ませた。これで一息つけそうだが、小豆がどうにも居心地の悪そうな態度をしているので、ゲームに戻る気にはならなかった。2人に声で詫びを入れると、ログアウトして現実を見た。

「そうだ、最近掃除してなくて汚ぇから掃除してくれ。掃除機あるから」

「わかった…」

 任務が失敗して日常が崩れたことにションボリしている小豆に役割を与えると、神田は財布を持って外に出ていった。自分のいるせいで居心地が悪いのだとしたら、金にものを言わせて外で遊んでやろうと思いついたのだ。まずはコンビニに買い物に行ってその間の状態を報告してもらう。

「温めは?」

「結構です。支払いピコラで…」


 2人分の弁当を持って帰ると、小豆は部屋の掃除を終えてキッチンの洗い物を始めていた。主の帰宅に安心しているように見えたから、一緒にいることが悪いことではないのだと分かった。

「洗い物は俺がやるよ。部屋はやってくれたのね、サンキュー」

「あ、うん」

「メシ食おうや。お前いっぱい食うと思って大盛り弁当買ってきたぞ」

 小豆は食に関して人一倍に熱心なようで、俄然元気になってはっきりとした声で礼を言った。腹が減っていたというわけではないのだが、食べることは好きだという。よく食べることこそ元気の秘訣だというのは間違いないようだ。

「いただきまーす!」

 小豆が嬉しそうにしているので神田は安堵した。テレビをつけると昼のニュースをやっていて、無職の子供が親を殺してしまった事件を報道していた。神田は他人事と思って飲み物を取りに行った。

 彼は無類の豆乳好きで、冷蔵庫には常に1Lのパックがあるようになっている。それ以外には6本入り箱のストックがある。

「豆乳飲む?」

 コップを持ってそう言うと、小豆は大きく頷いた。神田の統計では豆乳は多くの女性に好まれている。その理由を考察すると、自ずと目の向く箇所がある。

「さっきコケたときさ、痛くなかった?」

「痛かったよ?胸のおかげで鼻を打たなくて済んだけど」

 そう、胸だ。小豆はとても豊かなものを持っているから、神田が注目しないはずがない。堂々と言及すると失礼だから、向こうから『胸』という単語を出すのを期待していたのだ。それに加え、彼女から胸の話をすることも望んでいた。

「ああ、男女が一つ屋根の下っていうのが不健全って言いたいの?それとも女の子と接する機会に乏しかったから慣れないって?」

 少し違っていたが話しておきたいことに繋げられそうな気がした神田は、今後を考えるうえで重要なことに触れた。

「ここで過ごす間に使う生活用品を買っておかねばならない…ってか俺はもう一生お前がここにいるような予感がしてるから、惜しまずに買っておくべきと思ってるんだ」

「そうだね!ずっと匿ってくれたら嬉しいね!」

 身寄りのない子として彷徨ったり、形式的な処置をしてくる施設に入ったりするのを嫌がった小豆は神田に強く訴えた。神田は頷き、日暮れの前に一式を揃えることを提案した。時間について文句のない小豆だが、懸案事項があるのだった。

「あたしのお金は組織から支給されるから、任務に失敗したことで全額没収になった。寮にある服とかも全部ね。そういう契約でやってたから仕方ないけど、惜しいなぁ」

「まあ、ある程度は補えるだろ。お気に入りの服は残念だな。まあ、新しいお気に入りを見つければいいさ」

「神田…」

 躊躇なく札を出すと言った神田の良心に感動した小豆は外出するにあたってこのようなことを言い出した。

「服とか売るような店に行くならあんた、少しはいいカッコしたほうがいいよ。眉毛整えるとか、髭剃るとか…あとジャージで行ったら笑われるからね」

「ム、そうなのか…高校の頃親が買ってくれた服でも着ていくか。全然着慣れないけど」

 髭を剃り、眉毛を整え、服を着替えると、揃って家を出た。玄関ドアについては、入ってすぐのところに脱衣所のドアがあり全開にすれば殆どを塞ぐことができるため、応急処置としてやっておいた。


 駅ビルの中には多くのブランドショップがあり、神田はどれが正しいのか分からずに惑っていた。この場所に詳しくないはずの小豆が率先して店に入ると、それに続いて入っていった。服を見始めて程なくして店員が声をかけてきたので、小豆はオススメの服をいくつか持って試着をした。

「彼女さん、スタイルいいですから何でも似合うと思いますよぉ」

 猫なで声は自分の気分を良くするためのものかと疑いながらも、本質を捉えて返事を出す。

「彼女じゃないっす。たしかにスタイルはいいかもしれませんね。オススメと、こいつに似合う服って違うでしょう?」

 服飾に精通していそうなギャルの店員に尋ねると、彼女は頷いてド素人の神田に説明をしてくれた。

「お召しになっていたお洋服のように活発なイメージを出すものがいいと思います。これから夏になりますし…より活発な感じにするならデニムをユーズド感のあるものにするとか、思い切った露出のアウターにするとかですかね。今のは見せブラが狭いので、もっと大胆にいければより魅力が増すと思いますよぉ」

 なるほどと頷いた神田だが、説明の半分を理解していない。ただ、露出が多くなれば素敵だというのを聞いていたので、どんどん勧めてほしいと素直に言った。

「手足を見る限り鍛えてらっしゃるみたいなので、へそ見せっていうのもアリですかね。短めのを絞って、涼しげにね…」

「ほぉーん…いいっすね、爽やかで…ちなみにこれいくら…」

 値札を見た神田は数秒絶句したが、手に負えない額ではなかったし、素敵な小豆を見られるなら安いと思って正気に戻った。

「丈夫にできてますからねー。うちのところは有名なデザイナーさんがやってて、海外でも高い評価を得てるんですよ」

 神田はすべてを受け入れることにして、試着室から出てきた小豆に言った。

「それ全部買おう。お前が服に困らないように」

「いいの!?」

 神田の英断によって10万円が財布から離れたが、神田は隣を歩く小豆の嬉しそうな顔にそれ以上の価値を置くことで残念を消すことに成功した。

 次に入った店は少し子供っぽいテイストの服を多く扱っていて、無邪気な小豆には合いそうだ。筆記体がカッコ良いTシャツや星の刺繍が可愛いハーフパンツ、リボンとフリルが女の子らしいワンピースなどがあり、神田は目を奪われた。

「神田はどういうのが好きなの?」

「女の子らしいのがいいかな。男が絶対に着られなさそうなやつ。こういうのとか…」

 腰の大きなリボンが特徴的なゴシック調のワンピースを手に取ると、小豆は表情を曇らせた。

「凝ってて素敵だけどあたしに似合うかなぁ?」

 さっきの店のお姉さんが小豆には何でも似合うと言っていたことを思い出した神田が背中を押すと、小豆はそれを着て神田に見せた。なんとでも褒められる可愛さと美しさを兼ね備える美少女がいたので、神田は口を開けたまま見蕩れた。

「神田?」

「買おう。お前が嫌ならいいけど、俺はすごく好きだ」

「そう。まあ持ってて損はないし、たまに着るのはいいかも…」

 気分に合う服があるというのが重要なので、今の気分に合わなくても買うことが時として正解になる。他の服を見ても今の服に勝てそうなものがなかったので一品だけ買い、次なる店に向かった。ただしそこは神田にとって試練の場であった。


 ランジェリー・ショップ…聖域である。男が1人で立ち入れば爪弾きに遭い、女と一緒に入れば間違いなく恋人と間違われる、そんな場所だ。神田は後者だが、本当の恋人ではない。居心地の悪そうにする神田に対し、キラキラした目で下着と向き合うのが小豆だ。いろとりどり、デザインも様々で目移りするという。

「できればさっさと選んでね…」

 下腹部の辺りに血の溜まりを感じるからと急かした神田だが、女子の買い物は得てして長いもので、決まる気配がない。

「神田ぁ、あんたは何色がいい?」

 同じデザインでも多色あり、小豆はブラジャーとは無縁に生きてきた神田に助言を求めた。小豆はやはり元気娘らしい色が似合うので明るいものがいいと雑に答えると、彼女は候補を絞ってもう一回訊いてきた。

「じゃあ…うーん…」

 神田は真剣に選んだ。ライトグリーン、空色、オレンジ…デザインとの相性も考えて判断すると、小豆は短く礼を言って次の下着を選び始めた。神田は手に持つかごの中に入ったブラジャーを見つめ、深い考察に入った。どうしてブラジャーとは斯くも女性の魅力を引き出すことに長けているのか。それは間違いなく意匠によるもので、デザイナーのこだわりが実現させたものである。主眼はそこにはなく、どうして男性はブラジャーに惹かれてしまうのかということにある。

「男の所持品には滅多にないからかなぁ…」

「かーんだ」

 にこっと笑んだ小豆が今度はショーツを持ってきた。これは上下セットではなく単品で売られているもので、やはり色もデザインも様々だ。小豆が持ってきたのは白のレース付き、水色ベースに黒の薔薇、赤と緑のチェック。好きなものを選ぶことを奨めた神田は、小豆にこう諭された。

「自分だけで決めきれないときに他の人、とくに自分の下着をよく見る人の意見が重要になるの。あんたは毎日あたしの服を洗って干すんだから、少しは関係しているんだよ?」 

 確かに下着は物干しのモチベーションを左右する。それならば自分がここではっきりと意見を述べておくメリットはある。神田は素直な気持ち―ロジックに基づかないセンスだけの意見を述べた。

「チェックのが可愛くていいかな。他の色はないの?」

 シックなブラウンのチェックもあったので、それもかごに入れるように言った。但し、チェック柄だけだと飽きるという予想があったので、違うデザインのものもあるべきと言った。そこで小豆はサテンから離れ、子供っぽい綿のショーツを探り始めた。

「聞く話によると男の人は女の人の下着にこだわりがあって、いざ見たときに喜憂するとかしないとか」

「俺は知らんな。幅広いほうがその時の気分に対応できるってだけだ」

「ふぅーん…」

 しばらくすると、小豆がまたいくつか持ってきた。ピンクに黒のバックプリント、フロントリボンのついた白、花柄の入った水色。

「子供っぽいね」

「可愛いでしょ?こういうのもあたしは好きだよ。気分が変わりやすいから、いろんなの持ってた」

「なら全部買っとけ。いっぱいあって損はしねぇよ」

「そうだねー。いやぁ、なんか悪いね、いっぱい買ってもらっちゃって」

 小豆はお金を払ってもらっていることを忘れておらず、購入を渋らない神田に感謝を伝えた。これで気分を良くした神田がさらに多くの下着を買うように勧めたので、小豆はかなりの枚数を持つことになった。


 結局神田は13万円ほどを支払って小豆の生活用品をすべて揃えた。彼は使っていないカラーボックスを小豆に譲り、小豆はそこにタオルと下着を入れることを奨めた。

「本当に助かったよ。無職は敵だと思って止まなかったけど、あんたみたいないい奴がいることを知った。もうあんたのこと馬鹿にしない」

「そりゃよかった。但し洗濯はお前もやってよ」

 下着専門店で言われたことが引っかかっていたようだ。その頼みはすぐに受け入れられ、小豆は早速洗濯機にたまっていた神田の服を洗濯した。

「なんかすっかり神田のこと信頼してる。こんなによくしてもらって恩返しの一つもしないあたしじゃないから、近いうちにあんたの服を選んであげるよ」

「それはありがたいねぇ。いやぁ、楽しくなりそうだ」

 神田もすっかり小豆のことを受け入れており、殺されかけたことを忘れていた。彼は夕飯の買い出しを小豆に任せると、本来の自分を損なわないようにゲームに復帰した。

「おおぃ神田くぅん、一体どこで何をしたらそんな長いこと空けられるんだいぃ」

 誰かのモノマネで咎められた神田はいつもの淡々とした声色ではなく、心底嬉しそうにして、こう言うのだった。


「楽しいこと」

毎回ここにコメントを書こうと思います。この作品は本来『女のめんどくせぇ部分にフォーカスした作品』を標榜して書かれていましたが、作者の女性経験の乏しさ故に殆どネタがないので単に女の子と仲良く暮らす話になりました。でも多少はめんどくせぇと思う部分があると思います。

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