第5話 更新されたステータスを確認!
本日5話目です。
ハズレアすなわちハズレのレア。それはレアリティの高さのわりに著しく価値が低い――あるいは役に立たないレアアイテムを指す。
理沙が確率0.1%を引き当てたSSレア『ピンクハート』は、黒猫店長的にはハズレ扱いらしい。察してしまった。
「ま、まあ、実際に使ってみないとわからないし!」
理沙の声は震えている。完全に空元気である。
運営側(と呼ぶには語弊がありそうだが)の黒猫が、言葉にし難い顔を作るアイテムなのだ。
最高レアを引き当てた熱狂に火照っていた身体へ、脳天から氷水をぶちまけられたような急転直下の感覚を味合わされている。
しかし、だからと言って諦めるわけにはいかないのだ。
諦めたらそこで試合終了どころか人生終了である。
ガチャウィンドウの装備品表示に指を触れると、理沙の目の前に現物と思しきアイテムがドサッと出現した。
やけに少ない。数的な意味ではなく質量的な意味で。
「アタシ着替えるから」
「どうぞミャ」
「……一応聞いておくけど、店長ってオス? メス?」
「オスミャ」
やっぱりオスだった。
「それじゃ悪いけどあっち行って」
理沙の白い指が差した先は入り口のドアだった。
さすがに窓を指さすほど暴君ではない。
ここは商店の2階である。
「別に人間の裸なんて」
「あっち行って」
「……はいミャ」
黒猫はとぼとぼと部屋を出てドアを閉めた。
木製の廊下を足音が遠ざかるのを確認し、理沙は左右の頬を軽く叩いた。
さて、それでは――
「さぁ、着替えるわよ!」
たとえいついかなる状況であれ、コスプレ少女は新しい衣装を前にするとテンションが上がるのであった。
★
「おお、これはなかなか」
着替え終わった理沙を見て、店長は感嘆のため息を漏らした。
いまだ幼さを残す理沙の肢体(公式データでは身長149センチ。サイズは75-54-80)を覆っているのは黒のラバー製(と思われる)のビキニ。
極小面積の三角形を黒い紐でつなぎ合わせただけのシンプルなデザイン。上は首の後ろと背中、下は左右で紐が結ばれている。動き回ると色々見えてしまいそうで実に危うい。
ビキニと同じ素材のロングブーツが脚部のうち膝の下までを覆っている。ヒールが高めでダンジョン探索には少し不安が残る。
刃渡り10センチほどの飾り気のないダガーはベルト付きの鞘に納められており、理沙の程よく脂ののった右脚の太腿に括り付けられている。
人間の裸に興味はないと口にしていたが、ケットシーの店長から見ても今の理沙はかなり魅力的に映るよう……
「何と言えばいいのか……恥ずかしくないのかミャ?」
「ものすっごい恥ずかしい。ほとんど露出狂じゃないの、これ」
黒猫の問いに理沙は素直に答えた。イベント会場だったら完全にNGレベル。せめて肌色のインナーが欲しい。
……他に装備品が出てこなかったのだから仕方がないのだけれど。
この装備、身につけると勝手にサイズを補正してくれたのは凄いと感心させられた。さすがファンタジー!
でも……白いお尻に食い込むボトムはピチピチ。どうなってるの? 仕様ガバ過ぎない?
ただでさえ布地の面積が小さいのに……ぶっちゃけ理沙自身から見てもエロい。
人差し指を差し入れて食い込みを直そうとすると、パチンと瑞々しい音が室内に響いた。
「ねえ、300マネーで上に羽織るものを売ってくれない?」
「それは別に構わんけど、ウチの宿泊料は一泊100マネーミャ」
「うげ……」
店長の親切なアドバイスに呻き声が漏れた。
理沙の手持ちはガチャから排出された300マネー。
素肌を晒すのは恥ずかしいが、上着を買ったら宿を追い出されてしまう。嫌な二択だった。
「まぁ……このままでも3日しか泊まれないみたいだけど」
「マネーを稼いで来ないとそうなるミャ」
残酷な店長の言葉。一銭たりとも負ける気はないようだ。
とはいえ、このフロアは安全地帯らしいので野宿という手もなくはないのだろうが……
それは本当に最後の手段としたいところ。理沙は一応現代日本に生きる文明人なのだから。
野宿はアレとかコレとか色々と問題が山積み過ぎるのだ。都会住まいの女子高生(仮)には厳しい。
「ところでコレなんだけど……」
理沙の人差し指の先にピンクの光がぼんやりと輝いている。
問題のSSレア装備『ピンクハート』であった。
「どうやって装備すればいいの?」
「えっとミャ、そういうアイテムは『装備するミャ!』と念じればいいミャ!」
店長の言葉を信じるならば『ステータスオープン』と同じような仕様らしい。
「ふ~ん、それじゃ『装備』!」
理沙の言葉に反応するかの如く『ピンクハート』は輝きを増し、理沙の白い肌に飛びかかってきた。
「え、ちょ、コレ……」
理沙の唇から戸惑いの声が漏れた。
見れば、大胆に露出された白い肌にピンク色のハートマークが描かれていた。
場所は――少女の下腹部。やけに生々しいデザインを形作って怪しい輝きを放っている。
「コレ、何かイヤらしい!」
「外したいならそう念じればいいミャ」
「……ホントだ」
『解除』と念じると理沙の柔らかい肌に存在を主張していた桃色の光は、主から離れて中空に浮かんでいる。
ふわふわと揺れるその光を見つめていると、なんだかとても悪いことをしてしまったように思えてくる。
「やっぱもう一度『装備』」
理沙の声に再びピンクの輝きは先ほどと同じ場所に定着。
明滅を繰り返すその光からは何らかの意思らしきものが垣間見られる。
今は――とても嬉しそうであると理沙には感じられた。
「どう見ても淫紋なんだけど……まぁいいわ。『ステータスオープン』」
その筋の人間にとってはお馴染みの用語でSSレアアイテムを表現しつつ、ステータスを再確認。
――――
名 前:更級 理沙 (さらしな りさ)
種 族:人間
年 齢:15
職 業:女子高生(?)
身 長:149センチ
体 重:41キログラム
体 型:75-54-80
ギフト:コスプレ(プチデビル) NEW
スキル:魅了 (プチデビル) NEW
レベル:1
H P:20/20
M P:20/10(+10)
攻撃力 :5
守備力 :5(+20)
素早さ :7
魔法攻撃:5(+50)
魔法防御:5(+50)
運 :10
装備品:身 体:プチデビルビキニ NEW
脚 部:プチデビルブーツ NEW
アクセサリ:ピンクハート NEW
武 器:ダガー(攻撃力+10) NEW
特殊効果:魅了補正(大) NEW
――――
「おお……」
数値の変化を見て理沙は声を上げた。さっきまでと比べると、ほんの僅かだが声に明るさが感じられる。
このステータス……おそらくカッコ内の数値が装備品による能力補正だと推測される。
理沙本人(レベル1)の値と比較すると、主に魔法関係の数値が想像以上に補正されている。
「ちなみにアンタどうなってんの?」
理沙の腹で怪しい輝きを放つハートマークを撫でると、新しいウィンドウがポップアップされる。
――――
『ピンクハート(アクセサリ)』
・守備力+10 魔法攻撃+30 魔法防御+30 MP+10 魅了補正(大)
・愛欲の情動を熾す光。魂に刻み込まれる至高の快楽。
――――
「……やるじゃない」
補正数値の半分以上が、この淫……紋章らしきモノ由来だった。
ツンツンと腹をつつくと、ハートは誇らしげに脈動と明滅を繰り返す。
凄いエロい。見ているだけで頭がクラクラしてくる。
「フレーバーテキストが怪しいけど……アタシにまで影響出ないわよね?」
テキストは不安だが性能面では優れている。
外してしまうとステータスが半減してしまう現状、生存戦略的な観点からも、これを捨てるなんてとんでもない。
呪いのアイテムではなさそうだから、どうしてもマズい状況になったら……その時に考えればよかろう。
次に気になるのは……『ギフト:コスプレ(プチデビル)』か。
表示されている文字に思考を集中させると、
――――
『ギフト:コスプレ(プチデビル)』
・シリーズ装備をふたつ身につけたため、スキルが発動します。
――――
「なるほど、このギフトはジョブチェンジみたいなものか」
理沙はようやくこのファンタジー世界に真っ向から反逆しているように見える己のギフトの性能を理解した。
ステータス欄を見る限り、システム的にはレベル制とスキル制が採用されており、RPGではおなじみのジョブ(職業)システムは採用されていない。
しかし、理沙の場合は『着替え=ジョブチェンジ』という能力が与えられているようだ。
状況に応じて装備品を使い分ければ、ひとりで複数のジョブの役割を担うことができると言うわけで、これはちょっとした……いや、かなりのチートではなかろうか。
更に――
――――
『スキル:魅了(レベル1)』:対象を魅了し、魂を奪うスキル。
・ピンクシュート:消費MP5:ターゲット1体を『魅了』状態にする。射程5メートル。
――――
「ふむ……」
理沙は顎に手を当てて考え込んだ。
こうしてステータスやスキルが可視化されると、新しい世界における自分の戦い方が明確になる。
攻撃力や素早さが補正されていない理沙は、魅了スキルを駆使して敵を同士討ちさせるスタイルを取るべきだろう。他の戦法は思いつかない。
そして『ピンクハート』に付与されている『魅了補正(大)』は、この戦法にとてもよく噛み合っている。
――これ、悪くないんじゃないの?
内心で疑問に思いつつ理沙は黒猫店長を見つめた。
このケットシーは『ピンクハート』をハズレ扱いしていたが……何か落とし穴でもあるのだろうか。
――考えられるとすれば……状態異常スキルそのものが微妙とか、あるいは効かないモンスターが多いとか?
状態異常の仕様はゲームによって(今は現実だけど)かなり異なるものだ。
バトルを左右するほど強力だったり、存在意義を疑われるほどカスだったり。
こればかりは試してみないとわからないけれど……21階で理沙を追いかけ回してくれたオークはあっさり引っかかってくれそうに思える。
……欲望に塗れた形相の豚人間の姿を思い出して、理沙の背筋に寒気が走った。
「まずは上で確かめるべきよね」
ダンジョン脱出を目的とするならば、基本的に下に降りる必要はない。
ハズレアを引かされたと絶望していた理沙の妙に力強い呟きを耳にして、黒猫は地上からやってきた金髪少女に不思議なものを見るような眼差しを向けた。




