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番外編その1 地下にだって……休日ぐらい……ある……

せっかくの4連休なので番外編を投下!


8月4日追記

ブックマーク500件に到達しました!

みなさま、ありがとうございます!

できるだけ早く第2章を公開できるよう頑張ります!

『情報を制する者は世界を制す』


 有名に過ぎる格言を引くまでもなく、ダンジョン探索や戦闘において情報は大きな力を持つ。

 よって理沙(りさ)はスキマ時間を利用して頻繁に『Eちゃんねる』を閲覧していた。

 ……単に彼女の趣味と言ってもいいかもしれないが、それを口にする者はいなかった。


 その日も理沙たちは無事に探索を終えて黒猫商店に帰還し、お風呂に入って一日の汗と汚れを洗い流していた。

 金髪の少女は湯船につかりながら鼻歌交じりで『Eちゃんねる』のウインドウを開く。

 隣では黒髪の少女・瑞希(みずき)がお湯に溶けていた。ちょっと他人にはお見せできない姿である。

 疲れを癒しつつ匿名掲示板をチェックしていた理沙の蒼い瞳が、とあるスレを捕えた。



――――


【モンスターよりも】絶望スレPart10【人間が怖い】


 ここは地球がアップグレードされたのに人生に希望が持てない者が集まるスレです

 生きる理由が見つからない人、生きるのが辛い人、みんな仲良くマタ~リと慰め合いましょう


 前スレ

 【地球アップグレード】絶望スレPart9【俺ダウングレード】

  ○○○○


  ・

  ・

  ・


 312、名無し@毎日が日曜日

  死にたい



 313、名無し@毎日が日曜日

  イ㌔



 314、名無し@毎日が日曜日

  ナカーマ



 315、名無し@毎日が日曜日

  またひとり沼に落ちたか……



 316、名無し@毎日が日曜日

  若人よ、いったいどうした



 317、名無し@毎日が日曜日

  若人とは限らない定期



 318、名無し@毎日が日曜日

  仕事が終わらない



 319、名無し@毎日が日曜日

  仕事があるとか裏山



 320、名無し@毎日が日曜日

  最後に家に帰ったのがいつか思い出せない


 

 321、名無し@毎日が日曜日

  最後に家を出たのがいつか思い出せない俺よりマシ



 322、名無し@毎日が日曜日

  家に帰ったはずなのに記憶がない俺よりマシ



 323、名無し@毎日が日曜日

  やってもやっても仕事がなくならない

  むしろ増える一方

  胃薬も睡眠薬も増える一方


 

 324、名無し@毎日が日曜日

  仕事なんてそんなもん

  根詰めてやる奴ほど損するようにできてる



 325、名無し@毎日が日曜日

  終わりがないのが終わり

  これがゴールド・エクスペリエンス・レ



 326、名無し@毎日が日曜日

  はいはい、著作権には気を付けような



 327、名無し@毎日が日曜日

  そうだぞ、せめてエンドレスエ



 328、名無し@毎日が日曜日

  だから著作権!


  ・

  ・

  ・


――――


 ありふれた愚痴スレだった。

 書き込まれている内容は深刻なものもあったが、真偽のほどは定かではない。

 しかし――


「ヤバいわ……アタシとしたことがうっかりしてた」


「……理沙?」


 復活した瑞希が胡乱げな眼差しを向ける。

 理沙は……その視線に気づくことなく、わなわなと身体を震わせていた。



 ★



「明日はオフよ!」


 夕食の席で、理沙は宣言した。

 テーブルを挟んだ向かい側からは、瑞希が『また何かおかしなことを言いだした』的な視線を向けてくる。

 あまり真面目に聞いている様子はなかった。その証拠に黒髪の少女の手はパンをちぎっては口に運んでいる。


「明日は……オフだから!」


 あまりの反応の薄さに、理沙はもう一度同じことを口にした。

 本人的には大切なことなので二度言ったつもりだった。


「……オフって、お休みってこと?」


「YES!」


 パンを飲み込んだ瑞希が問うと、理沙は身を乗り出して頷いた。


「考えてみて。アタシたち、このダンジョンに落とされてからロクに休んでないわ」


「それはまぁ……そうかも?」


 明後日の方に目を向けながら、瑞希は曖昧な言葉を発した。


「そうよ! 月月火水木金金! これじゃ、アタシたち社畜じゃないの!」


「……そうかしら?」


 瑞希は素直に頷けない。

 彼女の感覚では、学校に通っていない現状はほとんど毎日が日曜日。

 あるいは春休みの延長なのだ。

 最大限理沙に譲歩したとしても、休日に部活動に精を出しているのと変わらない。

 血で血を洗い、命を奪い合う物騒極まりない課外活動ではあるが。


「店長もそう思うでしょ!?」


「みゃ?」


 瑞希から思うような反応を得られないことに業を煮やしたか、理沙はこの黒猫商店に暮らすもうひとりの住人を巻き込んだ。

 カウンターで洗い物をしていた二足歩行の黒猫妖精、ケットシーはいきなり話を振られて目を白黒させている。

 黒猫店長はしばらく考え込む様子を見せて、ひと言。


「みゃみゃみゃ、たまには休むのもアリなんじゃないかミャ?」


「でしょ、でしょ!」


 我が意を得たりと理沙は拳を握り締めて高く突き上げた。


「そこまで言うなら、一日ぐらいは……」


 瑞希としても、何が何でも否定したいわけでもなかった。

 ことさらに休みが欲しいわけでもなかったけれど。

『そんなに理沙が休みたいなら、まあいいかな』くらいの適当感だ。


「ようし決まり。明日は休み!」


「でも……」


 調子っぱずれの鼻歌と共に食事を再開する目の前の相棒を見やりながら、瑞希は心の中で問いかけた。


――休みって、何をするつもり?



 ★



 明けて翌日。

 カーテンの隙間から差し込む日差しを目蓋の裏に感じて、理沙はむくりと身体を起こした。

 自慢の金髪はボサボサで、蒼い瞳はボンヤリ。はしたない大あくびをひとつ。

 大きく体を伸ばして枕元に置いた懐中時計を見ると――


「せっかくの休みなのに、こんな時間に目が覚めるなんて……」


 時計は午前7時を指していた。いつもと変わらない。

 二度寝するか……とベッドに潜り込もうとしたところで、


「あ」


 大事なことを思い出した。

 慌てて髪を整え、『ギフト:コスプレ』の派生スキルである『クローゼット』から装備品を取り出す。

 身にまとうのは薄い胸と腰回りを僅かに覆うだけの『プチデビルシリーズ』だが、ダンジョン暮らしが長くなってきたせいか、当初のような羞恥心はどこかに行ってしまった。

 慣れれば別にどうということはない。付け加えるならば、このコスチュームは自分に良く似合っている。

 階段を降りると、一階では店長が朝食の用意をしていた。


「おはよ、店長」


「おはようミャ! リサにゃんは今日は休みじゃなかったかミャ?」


「そうなんだけど、ちょっと忘れてたことがあって」


 すぐに帰ってくるから。

 それだけ告げて店のドアを開けた。

 見上げると、偽りの太陽が輝く偽りの空が広がっている。

 平和で長閑な道が東西を貫く地面の彼方には、どこまでも緑の草原が続いている。


「さて、急がなきゃ」


 理沙は両手で軽く頬を叩いて走り出した。

 目指すは――地下19階。



 ★



「と言うわけで、今日は休み。わかった?」


 地下19階に足を踏み入れるなり理沙を迎えたのは、もはやおなじみとなった緑肌のモンスター、ゴブリン。

 ダンジョンに初めて落っことされた日、たまたま魅了スキルで手なずけてからの長い付き合いである。


「ぎゃ?」


「だから、休み。今日の探索はナシ!」


「ぎゃ」


 ゴブリンは理沙の言葉に律義に頷いている。

 人間の言葉を口にすることはできないが、人間の言葉を理解することはできるようだ。

 初めて出会ったときに比べてずいぶんと引き締まった身体といい、何だかあまりゴブリンらしくなくなってきている気がする。

 まぁ、理沙にとって害があるわけでもなし、気にしても仕方がない。

 探索もバトルもナシと告げられたゴブリンは残念な表情を浮かべた次の瞬間、理沙の目の前でばたりと横になり、すかさず鼻提灯を膨らませ始めた。

『今日は休み』と言う理沙の言葉を、ある意味忠実に体現している。


「……別にいいけど」


 ダンジョンの中でぐ~たら居眠りこいていても大丈夫なのだろうか?

 自分で言い出しておいて、何だか不安になってくる。

 しかしゴブリンは安全な地下20階には連れていけないので、仕方がない。

 理沙は無理やり自分を納得させて、再び階段を降りて行った。


 

 ★



 宿に戻ると、ちょうど瑞希が顔を出していた。

 艶めいた黒髪は濡れていて、近寄るとふんわりと石鹸の香りがした。


「おはよ、瑞希。お風呂入ってたの?」


「え……あ、うん。おはよう。理沙こそどこに行ってたの?」


「アタシは地下19階。アイツに今日は休みだって言うの忘れてたから」


「ああ、それで」


 理沙が『アイツ』と呼ぶのはひとりもとい一匹しかいない。

 瑞希は得心がいった風だった。


「お風呂が沸いてるんならアタシも入ってこようかな。ちょっと汗かいちゃったし」


「朝ご飯の準備をしておくから、入ってくるといいミャ」


 店長の言葉に甘えて、理沙も朝風呂に入ることにした。

 その蒼い瞳の背後で、瑞希と店長が胸を撫で下ろしていることには気づかなかった。



 ★



 今日は休むと自ら決めた。

 しかしダンジョン探索に慣れた身体は勝手に早く目が覚めてしまった。勿体ない。

 さて、これからいかに過ごすべきか?

 朝食を口に運びつつ、地上での休日は何をしていたか過去の記憶を掘り返してみる。

 思い出されるのは……ゲーム、インターネット、買い物、コスプレなどのイベントなどなど。

 どれもこれもダンジョンではできない事ばかりだった。

 あえて言うなら、地球アップグレードと共に使用可能となった匿名掲示板『Eちゃんねる』や動画投稿システム『E-tube』の巡回くらいか。あと二度寝。

 ……別に休みでなくてもできることだし、一日中部屋に籠ってやるべきことでもなさそうだった。

 意外と時間を持て余してしまいそうであるという事実に、今さらながら気づかされてしまった。


「理沙、ひょっとして暇なの?」


 朝食のテーブルを挟んで瑞希から問いかけられた言葉は、何気ないものだった。

 

「べ、べべべ別にそんなことないし?」


 できるだけ平静を装うとして失敗した。

 思いっきり図星を突かれてしまったから。

 でも、自分から休むと言いだしておいてこの体たらくは、かなりみっともない。

 だから、素直に答えることができなかった。


「リサにゃんもミーにゃんも、たまにはハイキングにでも行ってくるといいミャ」


 若干気まずい空気が下りたテーブルに、横合いから声がかけられる。

 大きめのバスケットを抱えた黒猫店長がそんなことを提案してきたのだ。


「ハイキング? どこに?」


「別にどこでもいいミャ。この地下20階はモンスターも出ないから、ゆっくり羽を伸ばしてくるといいミャ」


「ハイキング……楽しそうね」


 瑞希は店長に同調した。

 理沙は……


――この階層って、ずっと原っぱよね。やることなくない?


 訝しみはしたものの、このまま店の中にいてもやることは別になかった。

 元々インドア派の理沙ではあるが、たまにはそういう趣向もアリかもしれないと思えてきた。

 室内に閉じこもってじっとしているよりはマシだろう。身も蓋もなかった。


「それじゃ、今日はハイキングってことで」


「行ってらっしゃいミャ!」


 黒猫店長に見送られて、ふたりは店を後にする。

 晴れ渡る偽りの空のもと、少女たちは草原を歩き始めた。



 ★



 地下20階は広かった。

 より正確に表現するならば、どれくらい広いかはわからなかった。

 歩けど歩けど草原の果てなど見えはしないし、空の様子も太陽を除けばまるで変化がない。


「理沙、そろそろ」


「そうね」


 しばらく歩いてから、店長から借りたシートを敷いた。

 ブーツを脱いで腰を下ろし、そのまま身体を横たえた。

 ポカポカ太陽と草の香りが穏やかな休日を演出してくれる。


――優雅ねぇ~


「理沙、はいこれ」


「ありがと」


 バスケットから水筒を取り出した瑞希が、中の果実水をコップに注いで渡してくれる。

 ほかにも店長お手製のサンドウイッチやら何やら、様々な料理が詰め込まれている。

 日頃のダンジョンで食べる弁当よりもグレードが高いし量も多めだ。


「あ、美味しい」


「ほんと。店長ってお料理上手よね」


「ね~」


 弁当に舌鼓を打ち、ごろごろと寝っ転がる。

 目を閉じると、大胆に露出した肌を心地よい風が撫でた。

 ふと、違和感を覚えた。


「そっか」


「……どうしたの、理沙?」


「ん~、ここ、虫がいないんだなって」


「そう言えば、鳥もいないね」


 虫の鳴き声、鳥の羽ばたき。

 平和な自然を構成する『音』の要素が欠落している。

 文句を言い立てるつもりはないが、ここはやはり地下20階。

 地上ではないのだと改めて思い知らされる。はるかに遠い日常に恋しさが募る。


「……早く地上に戻りたいね」


「そうね……」


 決意と呼ぶには穏やかに過ぎる、そんな言葉を交わしながら、ふたりはうとうとと目蓋を閉じた。



 ★



 明けて翌日、理沙はいつものとおり起床。枕元の懐中時計は午前7時を指している。

 昨日はハイキングに出かけて昼食を食べ、そのまま居眠り。

 夕暮れ時になって瑞希に身体を揺すられて目を覚まし、黒猫商店に帰還。

 お風呂に入って夕食をいただき、店長たちと何気ない雑談を交わしてベッドにダイブ。そして現在に至る。

 特に何かをしたというわけではなかった。ほとんど寝てばっかりだったような気もする

 しかし――今、理沙の小さな身体には活力が満ち溢れている。


「ようし、今日も頑張るわよ!」


 気合を入れて寝間着を脱いだ。

 一糸まとわぬ生まれたままの姿になって『プチデビルシリーズ』一式を装備する。

 ステータスウインドウを開いて数値をチェック。昨日と全く同じ値を示してはいるが、今日は何だか身体が軽い。

 突発的な思い付きではあったものの、一日ゆっくり休んだ甲斐はあったようだ。

 階段を降りると、そこにはすでに瑞希と店長の姿があった。


「おはよ、瑞希、店長」


「おはよう、理沙」


「りーにゃん、おはようだミャ」


 挨拶を交わして席に座ると、程なくして朝食が運ばれてきた。

 美味しそうな匂いが鼻をくすぐり、ぐ~っと腹が鳴った。


「今日からまたダンジョンだミャ? しっかり食べるといいミャ!」


「そ、そうね。それじゃ、いただきます!」


「いただきます」


 笑いを堪える瑞希と店長をスルーして、千切ったパンを口に運ぶ。

 香ばしい香りと味わいが広がって、更にもうひと口と手が伸びる。

 今日も元気で朝飯が美味い。朝食が美味しいとテンションがアガる。

 みるみる間に食事を平らげて、優雅に食後のコーヒーを啜る。ホッとひと息。


「さて……今日はどうするの、理沙?」


「もちろん、探索よ」


 目指すは地上。

 果てしなく遠いその道のりも、一歩ずつ進めばいずれたどり着く。

 そう信じてやってきた。そして、これからもやっていく。


「了解」


 少女たちは微笑みを交わした。

 いつもと変わらない探索と闘いの日々が、再び幕を開ける。

 ただ――理沙の脳裏にはひとつだけ疑問が残った。


――店長って、いつ休んでるのかしら?


 にゃんにゃん歌いながらふたりを見送ってくれる黒猫をチラリと見つめて、そんなことを想った。

第2章は現在色々手直し中です。

予想以上に時間はかかりそうですが、気長にお待ちいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] めちゃくちゃ面白いです!! これからも更新再開待ってます!!
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