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第27話 検証、新コスプレ!

も、文字数が……多い!


『世界を越えて展開する黒猫商店を信じてほしいミャ』


 アンデッドを素材にした装備品を勧めてきた黒猫店長のお言葉である。

『BKガントレット』をはめた腕に吊るされ、びろ~んと伸びたままみゃーみゃー鳴いている。

『我々ケットシーはダンジョンを探索する皆様を心の底から応援する種族だミャ』なんて言い回しがいかがわしさ満載だった。


「なんで胴体のパーツがないのかしら?」


 ボヤく理沙(りさ)の白い肌は、いまだその大半が晒されたまま。

 胴体装備である『プチデビルビキニ』『プチデビルパンツ』の面積が小さすぎるせいだ。

 そこに武骨な『BKシリーズ』の手足が加わって、少女の外見はかなりアンバランスな様相を呈している。


「まだ開発中だからすべてのパーツが揃ってないのミャ」


「……つまり未完成品だと?」


 理沙が腕を振ると、黒いケットシーがブラブラと左右に揺れた。


「だ、大丈夫ミャ。呪いとか絶対残ってないミャ!」


「……ま、信じましょう」


 黒猫店長はアコギなところはあるものの、これまで理沙たちに対しては常に親身になってくれたし紳士的でもあった。

 たしかに、ステータス画面に表示された『デュラハン』という文字を見てヒートアップしすぎたかもしれない。

 反省した理沙は、ついでとばかりに気になっていることを尋ねた。

 

「ところで、これお値段は?」


「ひとつ2000マネーミャ」


 3パーツで6000マネーだった。

 黒い毛玉にも似た店長の小さな身体が、さらに上下に揺らされた。


「同じレアリティなのに値段がプチデビルと全然違うんだけど!?」


『プチデビルシリーズ』はひとつ500マネー。お値段実に4倍。

 やはりこのケットシーのお店は一筋縄ではいかない。


「どうなってんのよ、いったい!?」


「新商品の方がお高いのは当たり前ミャ。最近稼いでるリサにゃんなら払えるミャ?」


「それはまぁ、そうなんだけど……」


 地下17階でホブゴブリンと戦いつつ、地下20階までの往復中にもゴブリンを狩っている。

 魔石のドロップだけでも相当なマネー収入があり、懐は温かい。

 ……足元を見られている気がしなくもない。疑念が脳裏をかすめた。

 ムムムと唸り、次いで天井を睨み、幾ばくかの時を数えてから……ほうっと息を吐き出して、店長を開放する。

 武器や防具を自前で作成できない理沙たちは、結局のところこの店の世話にならざるを得ないのだ。


「あともうひとつ、いい感じの斧ってある?」


「斧かミャ?」


 着地した店長は首を回しつつ理沙に問い返した。


「『技能・斧』が生えてきたの」


「不思議なギフトだミャ」


 カタログを捲った店長は、理沙でも扱えそうな手斧を勧めてきた。


「これとかどうかミャ?」


「そうねぇ……ちょっと試していい?」


「どうぞどうぞ。せっかくだからお外で振り回してみるといいミャ」


「お外って、地下19階で?」


「ここの外ミャ。試着で別のフロアに持ち出したらダメミャ」


「それはそうよね」


 代金を払っていない装備を身につけたまま他の階層に移動されたら、ネコババされてしまう。猫だけに。

 理沙と瑞希(みずき)しか客がいない今ならともかく、これから訪れる人が増えることを想定しているなら、そんなシステムはありえない。


「ねえ理沙、ちょっといいかしら?」


 ここまで(ほぼ)沈黙を守ってきた瑞希が口を挟んできた。


「ん? 何?」


「えっと……理沙のギフトを考えると装備品がたくさんある方が有利というのはわかるのだけれど、アイテムウインドウにそんなにたくさん入らないのではないかしら?」


 瑞希の指摘はもっともなものであった。

 ふたりの目的はダンジョンの脱出。

 そのためには長期の探索が必要と推測されており、アイテムウインドウには食料品や水、寝袋などのほか嵩張るものを優先的に入れていこうという話になっている。

 いくら『ギフト:コスプレ』の役に立つからと言って、アイテム枠の圧迫は避けるべきという瑞希の言葉には説得力がある。

 しかし――


「大丈夫よ。アタシのギフト、新しい機能が開放されたの」


「新しい機能?」


「ええ。『クローゼット』って言って……装備品専用のアイテムウインドウみたいなものね」


 ギフトがパワーアップするのは意外と言えば意外であり、当然と言えば当然とも思える。

 レベルは上がるしスキルだって強化されるのだ。ギフトだって同じように強化されても不思議ではない。


「そうなの? 本当に便利ね、理沙のギフト」


「……いいギフトが貰えたとは思ってる」


 やや沈みがちな瑞希の声。とっさに理沙は言葉を選んだ。

 瑞希の『ギフト:生存本能』はいまだ詳細な性能が明らかになっていない。

 そのことが少なからずコンプレックスになっていることには気づいていた。

 パーティを組んでいる限りでは、特に不満はないのだけれど。

 あまり気にしないようには言っているのだが、なかなか本人に納得してもらえない。


――難しいわね。


 理沙は無言で小さくため息をついた。

 左右のテールがふわりと揺れた。



 ★



 夕闇に色づく地下20階の原っぱで、新たな装備を試着した理沙のスペック検証が始まった。

 とりあえず柔軟体操。そして軽くランニング。ここまでは問題ない。

 次に店長から借りた手斧を振り回してみる。やはり問題ない。

 使ったことがない武器でも技能系のスキルがあると、その扱いに違和感がない。


「それじゃ、次はスキルの方をチェックするわ」


「はいミャ」


 理沙の言葉に瑞希と黒猫店長は少し距離を開ける。

『BKシリーズ』を装備することによって増えたスキルは4つ。

 そのうち『デュラハン』に由来する『技能・斧』と『暗黒魔法』はさて置くとして、


「問題はこっちよね……」


 唐突に表示された『コスプレ (じゃがーのーと)』を指でなぞる。


『プチデビル』+『デュラハン』=『じゃがーのーと』


 具体的な理屈は不明だが、そう言うことらしい。

 同じシリーズ装備だけでなく、複数のシリーズを組み合わせることで派生スキルが発動するとは想定外。

 RPG大好きゲーマーとしてオタクとして、こういう面白要素は大歓迎だ。ギフトに悩む瑞希には悪いがテンション上がる。

 とりあえず今は――


「この『ぶっとばすわよっ!』ってのは……」


 ウインドウを開いてスキル名をタップすると詳細が表示される。


――――

『ぶっとばすわよっ!』:最大MPの3分の1を消費して、次の一撃の威力を大幅に増大させる。物理・魔法対応。

――――


「これはまたピーキーな……」


 効果のほどはわかりやすいが、何とも頭を悩ませるスキルだ。

 呆れつつ手斧を構え、そして――叫ぶ!


『ぶっとばすわよッ!』


 スキルを発動させると、理沙の華奢な肢体に物凄い力が漲ってきた。

 熱い。身体の中に小さな太陽が生まれたと錯覚するほどのトンデモエネルギーを感じる。

 その熱に煽られるように、右手に握りしめていた斧を振りかぶり――大地に叩きつける。


 轟ッ!!!


 爆発音が耳を通じて脳を貫き、激しい振動が長閑な地下20階を揺らす。


「こほっ……煙い……」


 もうもうたる土煙が晴れると、そこには人がすっぽり収まってしまいそうな大穴が開けられていて。


――なるほど、これは確かに『凄まじい力』だわ……


 理沙は声に出すことなく独り言ちた。

『ジャガーノート』という呼称には何となく聞き覚えがあったが、詳細まで知悉しているわけではなかった。

 念のため瑞希と店長にも尋ねてみたが、ふたりとも首を横に振った。

 現代文明の利器たるスマートフォンが失われて久しい地下生活では、知らないことがあっても簡単には検索できない。

 少し悩んでから『Eちゃんねる』でそれとなく聞いてみたところ、『凄まじい力』的な意味があるらしいと教えられた。元ネタはインド神話とのこと。

 理沙の場合は『じゃがーのーと』とひらがなで微妙にコミカルになっていたものの……結果はご覧のとおり。


「あわわわわ……」


 遠くで泡を吹いている瑞希の声が耳朶を打ち……頭がクラっと来た。

 ゾッとする寒気と共に、その場に尻もち。白い肌が大胆に露出したお尻を地面にペタンと付いてしまう。

 そんなことを気にしている場合ではなかった。とてもではないが立っていられない。

 震える指先でウインドウを開くと、確かに最大MPの3分の1が消費されている。

 理沙が普段使っている魔法は大体消費MPは5ぐらいで、発動時にはスーッと力が抜ける感じなのだが、今回はその4倍近い値を一気に持って行かれて軽い貧血状態のよう。


「大丈夫かミャ?」


「……ちょっとくるわね」


 強がり気味に笑みを作るも、頭はフラフラ。

 MPが回復してくるまでの間、ぼんやりと遠くを見つめていると、魔法で作られた(らしい)偽りの地平線に、これまた偽りの太陽が沈みこもうとしている。

 地下20階に夜の闇が訪れようとしている。


「くしゅ」


 冷や汗びっしょりの身体が風に吹かれて小さなくしゃみ。

 余り悠長に待ってはいられないと、瑞希の肩を借りて立ち上がる。

 お尻についた土を振り払い、再び斧を構える。


「フロアに穴開けちゃってごめん」


「気にすることないミャ、こんなの明日になったら元どおりミャ」


「そうなの? 誰が直してるのか聞いてもいい?」


「ダンジョン七不思議のひとつミャ。考えても無駄ミャ」


「あっそ」


 黒猫店長も知らない。あるいは語ることを許されていない。

 いずれにせよ、あまり気にする必要はないということだろう。

 ダンジョンの普請を心配していたら、大威力の魔法なんて使えなくなってしまう。


「それにしても……一発きりとは言え、この威力は……間抜けな名前のわりにやるわね」


「みゃーみゃー」


「でも……一発だけってことは、軽い武器よりも重い武器の方がいいのかしら?」


 これまで理沙がメインで使ってきたのは鞭とダガー。どちらも一撃必殺とは無縁の武器だ。

 最大MPの3分の1も消費するのに一撃分しか効果が発動しないのであれば、もっと威力が出るヘヴィな武器を選択した方が良いのだろうか。

 ……今のままでも十分な性能があるようにも見えるだけに悩ましい。


「こっちの『バトルアックス』も試してみるかミャ?」


 店長が示してきたカタログのページには、理沙の背丈ほどもある大きな斧が描かれている。

 ファンタジーRPGにありがちな、見栄えの良いドデカイ奴。

『実用性? そんな奴は置いてきた。これからの地球には着いて来れない』とその姿が雄弁に語りかけてくる。

 物は試し。理沙が頷くと、ふたりの目の前で巨大な斧が実体化。迫力ある。

 黒いガントレットに包まれた両手でその柄を握り、構える。


「どうミャ?」


「……いけそうね」


 非力な自分には無理かもとも思ったが、『BKグリーブ』の『重量軽減(小)』がいい仕事をしている。

 凶悪な刃の戦斧を振り回し、振り下ろし……黄金のツインテールと首に巻いたマフラーがくるくると回る。

 透きとおるような白い肌と、肢体を僅かに覆う黒を軸とした破壊の旋風が闇迫る大地に踊る。

 

――これなら前衛も出来そうね。


 今までは魔法やスキルと鞭を使って瑞希やゴブリンの後ろから支援を中心に戦ってきた。

 その役割分担に不満を抱いたことはない。自分と瑞希とゴブリン、それぞれのスペックを鑑みた適材適所であることは間違いないのだ。

 でも……漫画やアニメの主人公のように、デカい武器でガンガンアタックすることに憧れがなかったわけではない。


「それじゃあ、もうひとつの方も……」


 バトルアックスを地面に降ろして再びウインドウを開く。


――――

『だれもアタシをとめられないッ!』:最大MPの3分の1を消費して全ステータスを向上させる。効果時間5分。物理・魔法対応。

――――


「また最大MPの3分の1消費かい」


 思わず虚空にツッコミを入れてしまった。

 MP吸収を期待して身につけた装備から派生したコスプレ効果が、やたらMPを持って行く。

 その矛盾には苦笑せざるを得ない。


「まぁ、とりあえず使ってみましょう。『だれもアタシをとめられないッ!』」


 スキル発動と共に、先ほどのように身体の内側、理沙の中心あたりから全身にエネルギーが満ち満ちていく。

 身体だけでなく精神的にも強い昂りを覚えるが、『ぶっとばすわよッ!』の時とは異なり、爆発的な力を持て余すような感覚はない。

 再び戦斧を構えて――


「ハアあああああッ!」


 漲ってくる力の赴くままに戦斧を振り回す。小柄にして軽量な身体のわりに、バトルアックスの重量に引っ張られることなく上手く扱えている。

『技能・斧』と『だれもアタシをとめられないッ!』の効果が発揮されているおかげだろう。

 自身に欠けていた一撃の破壊力が上手く補われそうな予感がある。ヘヴィでパワフルなアタック、未経験の爽快感に心が躍った。

 しばらく戦斧を振り回していると、あっという間に5分が経過。『ぶっとばすわよッ!』の時と同じくMPを一気に消費して足元が覚束なくなり……地面に尻もち。


「ぷはぁ……ハァッ、はあはあ、はぁ……」


 背中の後ろに手をついて小さな身体を支える。

 モンスターにいつ襲われるともしれないダンジョンで、この消耗はリスクが高すぎるのではないかと言う恐怖がある。

 しかし……ダンジョンに大穴をあけるほどのパワー、これを捨てるのは惜しい。惜しすぎる。

 最悪『じゃがーのーと』のスキルは使わずにおくという手もある。選択肢の幅は広い方が良い。

 ダンジョンの探索では、何が起こるかわかったものではないのだから。まだ見ぬ強敵とのバトルを思えば猶更だ。

 ゆえに――呼吸を乱し大きく胸を上下させる理沙を不安そうに見つめてくる瑞希と店長に向かって、


「うん、気に入った。『BKシリーズ』3つと、このバトルアックス頂くわ」


 火照った身体を撫でる風の心地よさに目を細めながら、金髪ツインテールのプチデビル改めじゃがーのーとは艶然と微笑みかけた。

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