第26話 黒猫店長のオススメ!
自己ベスト(『ワケあり~』の794pt)を更新しておりました。
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「みゅふふふふ……」
地下17階にチャレンジし始めて7日目が経過した。
朝も早よから夕暮れ時までしっかり戦ってきた理沙たちは、今日も全身汗だくお腹ペコペコで地下20階に無事帰還。
黒猫商店のドアをくぐった彼女たちを出迎えたのは、カウンターに座るケットシーの不気味な笑い声だった。
「どうしたの店長、何かいいことあったの?」
若干惹きつつも、礼儀として訊ねた。
聞かなくとも勝手に話してくれそうではあったけれど。
「もちろんミャ! リサにゃんにとってもいいことミャ!」
店長は立ち上がって胸を反らした。『よくぞ訊いてくれましたミャ』と全身で物語っている。
カウンターに仁王立ちなんて行儀悪いなぁと思いつつ、理沙の耳は聞き逃せない単語を捕えた。
「……アタシにとっても?」
「そうミャ! みゃ、みゃ、みゃ~んと新しい商品を入荷したのミャ!」
くるくると回転しながらポーズを決める店長。
頭大きめ背が低めのケットシーだが、バランス感覚には優れている模様。
割とどうでもいいところに感心させられる。傍では瑞希がパチパチと拍手している。
それはともかく――
「ほう、新商品とな」
一転して理沙も真顔になって、カウンターの上で踊る黒猫店長と間合いを詰める。
ここ数日の探索で、MP消費の激しさがネックになっていることは既に報告済み。
その上でこの話の展開、自信満々のダンス。期待するなという方が無理というもの。
「まさか、MPポーションを入荷したとか?」
「違うミャ。もっといいものミャ!」
違うと言われて脱力したのもつかの間、さらに聞き捨てならない言葉が耳朶を打つ。
「もっと……ですって!?」
その言葉に驚きを隠せない。
MP回復ポーションより優先度の高いアイテム、ちょっと想像がつかない。
店長がこういう時につまらない嘘はつかないことは、これまでの地下暮らしで十分に理解できている。
金髪少女はゴクリと唾を飲み込み、蒼い瞳をキラキラと輝かせた。
「……見せてもらっていい?」
「どうぞミャ。それ!」
黒猫がウインドウを操作すると、カウンター上にゴトリと黒い物体が落ちた。数は――3つ。
それぞれ重量感のある鎧のパーツに見える。あとなんかボロい布。
「では早速……チェックをば」
蒼い瞳を細めた少女は、ポップアップされたウインドウに記載されている文字を追う。
――――
『BKガントレット(R)(腕装備)』
・攻撃+10 守備+10 MP吸収(小)
――――
――――
『BKグリーブ(R)(脚装備)』
・攻撃+10 守備+10 重量軽減(小)
――――
――――
『BKマント(R)(アクセサリ)』
・攻撃+10 守備+10 魔法攻撃+5
――――
「今回の商品はウチの開発部門の最新作『BKシリーズ』ミャ!」
ケットシー店長、ドヤ顔で胸を張った。
「見た感じ前衛用っぽいけど……瑞希?」
カウンターに置かれた装備一式をチェックしていた理沙が振り向くと、相棒である黒髪の少女剣士はなぜか少し距離を開けている。
黒髪を後ろに流した瑞希の顔は、心なしか引き攣って見えた。
「どうかした?」
「いえ、その……それ、私が装備するんですか?」
カウンターに置かれた『BKシリーズ』を指さして問うてくる。
かすかに震えるその声に理沙は頷いた。金のツインテールが頭の上下に合わせて揺れる。
「えっと……その手甲の『MP吸収(小)』って、理沙に必要なんじゃないかなって」
いつもは凛としている瑞希の声は何故か上擦っており、視線は明後日の方を向いていた。
「そうミャ! これはリサにゃんが愚痴ってた『MP足りねーぜー』に対する当社からのアンサーミャ!」
――ああ、これアタシ用か……
瑞希の態度が気にならなくはないものの、ケットシー店長の言い分は凄く納得させられる。
ガントレットの詳細を見ると……敵に物理ダメージを与えた際に一定確率でMPを吸収する効果が身につくとのこと。
MP消耗に悩まされる理沙にとってはありがたい特殊効果である反面、MPを消費するスキルを持たない瑞希にとっては微妙なオプションと言える。
「う~ん……それはそうなんだけど……」
「それに、その装備、あの……何となく禍々しいような」
「それな」
おずおずと口を開いた瑞希に同意せざるを得ない。
『禍々しい』それはこの装備から受ける第一印象を的確に表している。
……それ故に理沙のソウルにビンビン反応しているのだが。
このあたり、ふたりの趣味は正反対である。
「でも、アタシこんな重そうなもの装備できないし」
理沙にとっての問題はそこであった。装備品の重量。
これまでの戦闘スタイルは後衛寄りの中衛。
軽装で鞭を振るい、魔法やスキルを駆使して戦ってきた。
そのイメージと、目の前に陳列されている『BKシリーズ』が上手く重なってくれない。
「そこでこの『BKグリーブ』ミャ。こいつについてる『重量軽減(小)』の効果で、非力なリサにゃんにも今までと変わりない装備感をプレゼントミャ!」
「なるほど……」
黒猫店長のプレゼンテーションは巧妙だった。
理沙が必要としているMP回復手段を提示しつつ、同時に商品の問題を指摘させる。
『残念だけど……』と悔しがらせた上で『待ってました』とばかりに、欠点を克服するための手段を示して見せる。
なかなかやりおる。うまく購入意欲を引き出してくるではないか。これがケットシーの奥義か。
「商売上手ね」
「お褒めにあずかり光栄ミャ」
「ところで、このボロ布は?」
今まで話に登らなかった『BKマント』を指さす。
マントと名付けられているが、横幅は狭いし穴が開いているし……
言葉を選ぼうとはしたのだが『ボロ布』以外に表現のしようがなかった。
「それは……余り物を再利用したと言うか……」
「余り物? 再利用?」
いきなり飛び出してきた不穏なワードに、理沙は金色の眉を寄せる。
「みゃーみゃーみゃー」
バタバタと両手を振り回す店長の態度が、何と言うかもう、あからさまに誤魔化しにかかっていて……反応に困る。
「と、とにかく一度試してみてほしいミャ」
「……試着させてもらってもいい?」
思わず疑問形。口にしておいてアレだが……試着はどうなのだろう?
プチデビル装備を買ったときは、そこまで気が回らなかった。
ほかの人間はともかく『ギフト:コスプレ』を持つ理沙にしてみれば、瑞希が身につけている『バトルシリーズ』のようなスキルが追加されない装備にはあまり食指が動かない。
そのあたりが事前にバレてしまうと思われる試着は、店長側にしてみればあまりいい気がしないのではないか。そういう危惧があった。
「おっけーミャ。試着室に行くかミャ?」
ただの杞憂だった。
「んー、ここでいいわ」
装備パーツは主に腕と脚。
誰かに見られて困る部位でもない。そもそもここ地下20階には理沙と瑞希以外の人間なんていないのだが。
木製の丸椅子に腰かけて、身に纏っている『プチデビルグローブ』と『プチデビルブーツ』、そして『プチデビルチョーカー』を外す。
腕、足、そして首筋。黒いラバーから解放された肢体が明かりに照らされて輝いている。瑞希は頬を染めて顔をそっぽに向けた。
「『重量軽減(小)』があるグリーブから装備した方がいいミャ」
「了解」
一対の黒い具足を両手で抱えると、ずしりと重い。
本当にこんなものを履いて動き回れるのかと不安になるが……
白い脚を通すと、いつものようにキュッとサイズが自動的に最適化される。
「次、ガントレットミャ」
「ええ」
黒い手甲を受け取ってみて驚いた。あまり重くない。
すでに『重量軽減(小)』の効果が発揮されているらしい。
感心しながら手甲に腕を通すと、これも自動的にリサイズされる。
「へぇ」
立ち上がって両腕両脚の具合を確かめてみる。
今まで身につけていたラバーとは異なるものの、違和感はあまりない。
このあたりのガバガバさは実にファンタジー。地球アップグレード万歳。
「理沙、どう?」
「普通に動けるわね」
両腕を回してみても、その場で駆け足してみても、さっきまでと動きやすさは変わらない。
『重量軽減(小)』の効果を実感させられる。さすが店長が勧めてくれるだけのことはある。コイツは凄ぇ。
「あとはこのマントミャ」
「……これ、最大限好意的に解釈してもマフラーなんじゃ……」
「まーまー」
ツッコミをスルーしてきた店長に手ずから渡されたボロ布もといマント。
肩に纏おうとすると――勝手にするりと首に巻き付いてきた。
「ほら、やっぱりマフラーじゃん」
「商品名はマントなのミャ」
そこだけは頑として譲らない店長であった。
別に無理して言い争う場面でもない。
「さて、ステータスはどうなってるのやら」
新しい装備を手に入れると、ステータス画面をチェックするのが楽しみで仕方がない。
理沙はすっかり自分のギフトと新しい世界のルールに嵌っている。
慣れた手つきでウインドウを表示させ、鼻歌交じりにステータスをチェック。
――――
名 前:更級 理沙 (さらしな りさ)
種 族:人間
年 齢:15
職 業:女子高生(?)
身 長:149センチ
体 重:41キログラム
体 型:75-54-80
ギフト:コスプレ (じゃがーのーと) NEW
スキル:魅了 (プチデビル)
・ピンクシュート
・ピンクライト
・ピンクシルエット
・魅了補正(小)
技能・鞭 (プチデビル)
技能・斧 (デュラハン) NEW
暗黒魔法 (デュラハン)
・ブラインド
・シャドウバインド
ぶっとばすわよっ! (じゃがーのーと) NEW
だれもあたしをとめられないっ! (じゃがーのーと) NEW
レベル:9
H P:60/60
M P:60/50(+10)
攻撃力 :5~24(+30)
守備力 :5~23(+45)
素早さ :7~26
魔法攻撃:5~40(+65)
魔法防御:5~40(+60)
運 :10~35
装備品:頭 部:プチデビルリボン
上 半 身:プチデビルビキニ
下 半 身:プチデビルパンツ
腕 部:BKガントレット NEW
脚 部:BKグリーブ NEW
アクセサリ:BKマント NEW
アクセサリ:ピンクハート
武 器:ブラックウィップ(攻撃力+30)
武 器:ダガー(攻撃力+10)
魅了補正(大)
重量軽減(小)
MP吸収(小)
――――
「……ねぇ店長?」
「どうかしたかミャ?」
「この『BKシリーズ』の『BK』ってどういう意味かしら?」
尋ねずにはいられなかった。
「『ブラックナイト』ミャ!」
対する黒猫店長は即答であった。
『Black Knight(黒騎士)』の頭文字のようだ。
「へぇ……じゃあ、もうひとついいかしら?」
「どうぞどうぞミャ!」
ニコニコ笑顔で先を促してくる。
「この『BKシリーズ』って……いったい何からできてるのかしら?」
急速冷凍された理沙の声に、黒ケットシーはふさふさの体毛を逆立たせる。
ダラダラと汗を流し、視線を逸らせ、下手な口笛を吹こうと試みる。その仕草は前に見た。誤魔化したい時の奴。
金髪のツインテールを弄りながら更に温度を感じさせない視線をぶつけ続けた結果――黒猫店長は諦めたようにポツリと呟いた。
「……ユニークギフト持ちのお客さんは厄介だミャ」
「デュラハンって――アンデッドじゃないのよ!」
激昂した理沙は武骨な手甲に包まれた両手で、黒猫をネックハンギングツリー!
デュラハン。
元々はアイルランドに伝わる妖精の一種。
首無し馬にまたがり、自分の首を小脇に抱えて死を告げる者
……ただし日本のゲーム等では、主にアンデッドとして扱われるモンスターである。
「アンデッドってなんですか?」
ゲームに詳しくない相棒がのほほんと尋ねてきた。
「ゾンビとか幽霊とかそっち系!」
「ひいっ!」
絶叫する理沙の後ろで、瑞希が小さく悲鳴を上げた。
コスプレなんて能力を主人公に与えておきながら、26話まで来てようやく新しい装備品が出てくるという……




