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第23話 瑞希のレベルを上げよう!


 一夜明けて翌日、午前7時に目を覚ました少女たちは早々に朝食を摂った。ふたりともちゃんと残さず食べた。

 理沙(りさ)はダンジョン暮らしを始めてからは朝8時に起きるようにしているのだが、今日に限っては興奮気味の瑞希(みずき)に急かされた形だ。

 あくびを噛み殺しつつウォーミングアップを十分にこなし、準備万端整えてから地下19階に足を踏み入れた。


 瑞希の装備品についてはどうするか、少し迷った。

 今でこそ財布の中身は心許ないけれど、数日すればレア装備一式を整える程度には稼げるはずだった。

 これは、ここ数日の経験と黒猫商店のカタログを照らし合わせた判断であり、別に大言壮語というわけではない。

 しかし、理沙たちはこの慎重案を退けた。最大の理由は――瑞希のモチベーション。

 戦うと決めた彼女だが、レア装備が揃うまで宿に待たせてしまうと、その間に心変わりを起こすかもしれない。

 不安定な環境に置かれた人間の心の移り変わりについて責めることはできないだろう。ほかならぬ瑞希自身が誰よりもそのことを危惧していた。

 即日バトルの急展開、手持ちの資金で揃えることができたのはノーマルレアリティの装備品のみ。

 それでも『頭』『上半身』『下半身』『腕部』『脚部』を購入すれば500マネーが吹っ飛んで、残金はまたもやスッカラカンに逆戻り。

 しかもレア装備に買い替えてしまえば、このノーマル装備はお役御免となる。

 

「もったいなくないですか?」


「いいのよ、別に」


 いかにもルーキーと言わんばかりの初心者装備に身を包んだ瑞希が控えめに意見を述べたが、理沙は特に気にしなかった。

 たった500マネーと侮るつもりはないけれど、昨日は1日軽く流しただけで1000マネー近い収入があった。

 せっかく戦う気になった瑞希の意思を尊重するためならば、500マネーは先行投資として十分に元が取れるという計算である。

 革の鞭を買うことを渋ったあの頃とは状況が違う。理沙は稼げる女に進化していた。

 

 地下19階に足を踏み入れるや否や、いつものゴブリンが理沙たちを出迎えた。

 これまたいつものように『ピンクシュート』を打ち込む理沙の後ろで、ひゅっと喉を鳴らす音が聞こえた。

 後ろを振り返ると――瑞希が緊張した面持ちで『魔剣ストームバイト』を構えている。既に鞘から抜き放たれていた魔剣の刃が闇に煌めいている。


「大丈夫よ。こいつは味方だから」


「味方……これが、味方?」


 理沙に向けられる眼差しは、露骨に不審な気配を漂わせている。少しずつ獲得してきた信頼が一気に台無しになりかねない雰囲気だ。

 モンスターを仲間にするというのはゲーム的ルールならばあり得ることなのだが、この箱入り娘はそのあたりの事情に詳しくない。

 これはゲーマー的感覚に慣れ過ぎていた理沙が迂闊だった。なるたけ丁寧にこれまでの経緯を説明すると、


「そういうことでしたら……私は理沙を信じます」


 セリフとは裏腹に口調は硬く、表情はぎこちない。

 内心思うところはあるものの、瑞希の気持ちもまったく理解できないわけではない。

 だから、大切な情報を付け足しておく。


「アンタを追いかけてたホブゴブリンを倒してくれたのも、コイツだから」


「そうなんですか……それはどうも、ありがとうございます」


 丁寧に頭を下げる新顔に、大棍棒ゴブリンは奇妙なダンスで応えた。傍から見て怪しすぎる挙動であった。

 せっかくフォローしてやったのに……理沙に向けられる瑞希の視線が微妙過ぎる。気付かないふりをした。

 

 気を取り直して、ダンジョン探索を開始する。

 前からゴブリン、理沙、そして瑞希。

 一行が通路を歩いていると、程なくしてゴブリンが理沙のもとに戻ってくる。

 ゴブリンはひょうきんなジェスチャーで通路の奥を指さしている。


「……いた!」


 人差し指を唇に当てつつ瑞希を手招きする。

 偵察役を兼ねているゴブリンの指先を辿ると……一匹の小さな人影。

 こちらもまた、ゴブリン。武器は無し。最弱のターゲットだ。


「えっと、私、どうしたら……」


 緊張が天元突破してパニックに陥りかけた瑞希がすがるような眼差しを向けてくる。

 理沙は自信満々に薄い胸を張り、軽い口調で応えた。


「アタシがアイツを縛るから、それからその剣でやっちゃって」


 アンタは警戒よろしく。

 足元のゴブリンに命令すると、ハートマークを瞳に浮かべながら小鬼は何度も頷いた。


「本当に理沙の言うことに従うんですね……それで、縛るって?」


「こうする。『シャドウバインド』!」


 理沙が敵ゴブリンを指さして叫ぶと、ゴブリンの影から何本もの黒色の鎖が飛び出して、その矮躯に絡みついた。


――――

『シャドウバインド』:消費MP5:ターゲットの影から鎖を射出しその動きを封じる。射程距離10メートル。

――――


 ホブゴブリンとの戦いを経て新たに習得した『暗黒魔法』である。

 昨日のうちに何度か試しておいたのだが、使い勝手が微妙だった『ブラインド』に比べて、こちらはわかりやすく有用であった。

 理沙の言葉どおり影に縛られたゴブリンは声を荒げて暴れ回っているけれど、小さな身体で多少足掻いたところで魔法の拘束は外れない。


「さ、今のうちよ」


「……なんだか酷い気がします」


 実は理沙もそんな気がしていた。絵面が悪すぎる。


「そんなこと言ってる場合かっての!」


「……ですよね」


 魔剣を握りしめてじわじわと間合いを詰める瑞希。

 その姿を視界に収めつつ、念のため鞭を構える理沙。

『シャドウバインド』は永遠にターゲットを縛り続けることができるわけではない。

 瑞希が仕損じてゴブリンが襲いかかってくるようなら、危険が及ぶ前に自分が始末しなければならない。


――見てるだけって、楽じゃないわね。 


 自分が戦う時よりも息苦しい。鞭を握る右手に力が籠る。

 理沙の思いを余所に、少女剣士は動けなくなっているゴブリンの目の前で足を止め、剣を高く掲げた。

 黒い瞳とモンスターの濁った瞳が交錯する。

 そして――


「えいっ!」


 掛け声とともに振り下ろされた剣は、ゴブリンの肩口から胸に向かって深く切り裂いた。

 傷口から紫色の液体を噴き出しながら、モンスターは光となって消失。

 足元に転がる小さな魔石を拾い上げた瑞希は、


「やりました!」


 小さくガッツポーズを決めて見せた。

 写真を撮りたくなるくらいの、実にいい笑顔だった。

 

「おめでと。この調子でガンガン行くわよ!」


「ええ!」



 ★



 しばらく戦ってみて気が付いた。

 瑞希はゴブリンを殺すことに躊躇いがない。

 何故だろうと考えてみたが……よくよく思い出してみれば、彼女はダンジョンに放り込まれて一週間もの間ゴブリンたちの脅威にさらされ続け、最後には追い回されて殺されかけたのである。

 いくら戦闘経験がなかったからと言って、今さらそんな温いことを口走ることなどない。『殺らなきゃ殺られる』弱肉強食の理を身を持って体験しているのだから。


「何とかやっていけそうね」


「ええ。私、頑張ります」


 翌日からは地下18階まで足を延ばしてゴブリンを狩りまくった。

 地下に蠢く小鬼たちにとっての天敵がひとり増えてしまった結果が、この有様である。


――――


 名 前:更級 理沙 (さらしな りさ)

 種 族:人間

 年 齢:15

 職 業:女子高生(?)


 身 長:149センチ

 体 重:41キログラム

 体 型:75-54-80


 ギフト:コスプレ (プチデビル)

 スキル:魅了 (プチデビル)

     ・ピンクシュート

     ・ピンクライト 

     ・ピンクシルエット

     ・魅了補正(小)  

     技能・鞭 (プチデビル)

     暗黒魔法 (プチデビル)

     ・ブラインド

     ・シャドウバインド


 レベル:7

 H P:50/50

 M P:50/40(+10)


 攻撃力 :5~20

 守備力 :5~20(+40)

 素早さ :7~22

 魔法攻撃:5~35(+90)

 魔法防御:5~35(+90)

 運   :10~30


 装備品:頭   部:プチデビルリボン

     上 半 身:プチデビルビキニ

     下 半 身:プチデビルパンツ

     腕   部:プチデビルグローブ 

     脚   部:プチデビルブーツ

     アクセサリ:プチデビルチョーカー

     アクセサリ:ピンクハート

     武   器:ブラックウィップ(攻撃力+30)

     武   器:ダガー(攻撃力+10)


――――


――――


 名 前:鷹森 瑞希 (たかもり みずき)

 種 族:人間

 年 齢:15

 職 業:女子高生(?)


 身 長:164センチ

 体 重:51キログラム

 体 型:89-56-85


 ギフト:生存本能

 スキル:技能・剣


 レベル:5

 H P:50/50

 M P:20/20


 攻撃力 :7~25(+40)

 守備力 :7~22(+50)

 素早さ :6~20(+10)

 魔法攻撃:3~14

 魔法防御:5~24

 運   :8~15


 装備品:頭   部:バトルサークレット

     上 半 身:バトルレザーアーマー

     下 半 身:バトルレザーパンツ

     腕   部:バトルガントレット

     脚   部:バトルブーツ

     アクセサリ:パワーリング

     アクセサリ:ガードリング

     武   器:魔剣ストームバイト(攻撃力+50)

     武   器:ダガー(攻撃力+10)


――――


 理沙は魅了スキルのレベルが上がり、『魅了補正(小)』を習得した。

 効果は魅了全般の性能アップ。

 魅了に大きく依存している理沙としてはありがたいスキルだが、『ピンクハート』の『魅了補正(大)』と被ってしまっている。

 店長曰くこの場合、両方のスキルの補正効果が合算されるらしいのだが……体感できるほどの差はなかった。


 瑞希は『技能・剣』を早々に取得し、アタッカーとして好調な滑り出しを見せた。

 艶やかなストレートの黒髪を後ろでポニーテールに纏め、下僕ゴブリンと共にモンスターに襲いかかる。

 最初は重そうに扱っていた魔剣にもほんの数日ですっかり慣れて、今では手足のように自在に振り回すことができるようになった。

 ふたりと一匹の冒険譚を聞くたびに黒猫店長はヨヨヨと泣き崩れた。よほど魔剣が欲しかったらしい。

 なお、瑞希が装備している『バトルシリーズ』は革製の鎧の要所を金属で補強した前衛用の定番装備とのこと。

 レアリティは全てRだが、理沙が装備してみても『ギフト:コスプレ』に反応はなかった。

『ギフト:コスプレ』と装備品のレアリティはあまり関係ないらしい。


 基本的なステータスを見る限りでは、理沙は魔法系の後衛に適性があり、瑞希は前衛に向いている。

 状況に迫られて結成したパーティだが、相性は悪くない。


「最初は楽しそうにしてた理沙のことを不謹慎だと思っていたけど、私もちょっと面白いかもって思えてきました」


 ある日、瑞希は唐突に理沙にペコリと頭を下げた。

 理沙は特に気にすることはなかったけれど、本人が納得するのならと笑って許した。

 レベルを上げて装備を整えたふたりは、さらなるパワーアップを求めて日々戦い続けている。

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