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第11話 方針を決めよう!

本日更新分1話目です。


「ん……んぅ」


 頬に暖かい光を感じた。

 目蓋をゆっくりと開くと、そこは見慣れた自分の部屋ではなかった。

 武骨な石壁に粗末な木のテーブル。霞みがかった頭に段々と記憶がよみがえってくる。

 地球アップグレード、ダンジョン出現……そして理沙(りさ)がいるのは地下20階の黒猫商店。


「やっぱり、夢じゃなかった」


 気だるさ半分、喜び半分の呟き。

 上体を起こすとサラサラと金色の髪が流れ落ちる。

 ステータスを表示させると、別のウインドウがポップアップされてコメントが添付されている。


『黒猫店長に預けていた装備品が返還されました』


 そう言えば……昨日ゴブリンの血をしこたま浴びて汚れた装備の洗濯サービスをお願いしていた。

 表示されたアイテム名を指でなぞると、黒ラバー製の装備がシーツの上に出現する。

 寝間着を脱いで上下のビキニを装着。紐を結ぶとキュッと肢体にフィットする。ファンタジーだ。

 ベッドに腰かけたままブーツに足を通し、立ち上がって大きく背伸び。

 備え付けのブラシで髪をツインテールに整えてゴムで留める。



――――


 名 前:更級 理沙 (さらしな りさ)

 種 族:人間

 年 齢:15

 職 業:女子高生(?)


 身 長:149センチ

 体 重:41キログラム

 体 型:75-54-80


 ギフト:コスプレ (プチデビル)

 スキル:魅了 (プチデビル)


 レベル:2

 H P:25/25

 M P:25/15(+10)


 攻撃力 :5~7

 守備力 :5~7(+20)

 素早さ :7~10

 魔法攻撃:5~10(+50)

 魔法防御:5~10(+50)

 運   :10~15


 装備品:身   体:プチデビルビキニ

     脚   部:プチデビルブーツ

     アクセサリ:ピンクハート

     武   器:ダガー(攻撃力+10)


 特殊効果:魅了補正(大)


――――

 

「あら?」


 表示されたデータに目を通して、理沙は疑問の声を上げた。

 レベルが2に上がっているのはわかる。昨日ゴブリンを倒した経験値が入ったのだろう。経験値が表示されてないけど。

 HPとMPが上昇しているのもわかる。

 でも……


「このステータスの幅みたいなのは何かしら?」


 幾つものゲームをプレイしてきた理沙にとっても、あまり見覚えのない表記だった。

 おそらくこの新しい世界の仕様だとは思うのだが……


「店長に聞いてみよ」



 ★



「おはようミャ。よく眠れたかミャ?」


 黒猫店長は食堂でフライパンを振るっていた。


「おかげさまでぐっすりよ」


 壁に掛けられた時計を見ると、朝の7時過ぎ。

 時計がないと不便だな、と脳内メモに書き込んだ。


「朝ご飯はすぐできるから、座って待っててほしいミャ」


「は~い」


 ほかに客がいない黒猫商店は実質的に理沙の貸し切り状態。

 広い食堂のど真ん中……ではなくカウンターに腰を下ろす。

 目の前には忙しそうに動き回る黒猫。鼻をくすぐるのはパチパチと弾ける油の匂い。


「もっと広いテーブルに座ればいいミャ?」


「ここがいいの」


 カウンターを挟んで店長の真正面。

 にっこりと笑顔を浮かべた初めての客を前に、黒猫の妖精も悪い気分ではない模様。

 献立は半熟ハムエッグとサラダ、謎の野菜ジュースに焼きたてのパン。

 朝食は軽めに済ませる理沙だったが、状況が状況だけにゆっくりと時間をかけてすべてお腹に収めた。

 ここはダンジョンで今日から戦いの日々が始まるのだ。腹が減っては戦はできぬ。


「ところで、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」


 最後のパンを口に放り込み、爽やかな野菜ジュースで喉に流し込んでから、先ほど気になっていたステータス表記の幅について尋ねてみる。

 店長曰く、数値の低い方が最低限保証されたもので、大きい値が成長限界とのこと。

 単にレベルが上がったからと言っていきなり体が作り替わるわけではなく、自分で鍛えていかないと意味はないらしい。

 言われてみれば、なるほどと頷かされる。

 理沙のレベルが上がったのが昨日のゴブリン討伐によるとするならば、この店に戻ってきたときにはすでにレベル2になっていたはず。

 あの時点でステータスが上がっていたのなら、身体に何かしら違和感を覚えていたはずだが……実際にはそんなことはなかった。


「単にレベルを上げるだけじゃダメってことね」


「そういうことになるミャ」


 あと、レベル上げに必要なのは経験値ではなかった。

 討伐したモンスターからマナを吸収する必要があるとのこと。

 ただ、討伐からのマナ吸収は自動的に行われるそうなので、認識としては経験値と同じようなものだった。

 ケットシーの言葉に頷きつつ、理沙は別のことを考えている。


――装備品のステータス補正はかなり重要ね。


 身につけさえすれば即座に数値が反映される。

 さらに理沙には『ギフト:コスプレ』がある。

 装備品に対する依存度は他の人間よりも大きくなるだろう。

 今後の方針を決めるにあたって、そのあたりも考慮する必要がある。

 いきなり地下に放り込まれた理沙は、ハードモードな日常を攻略すべく知恵を絞る。

 今まで培ってきたオタク知識が活躍の場を得て、金髪少女の脳内でフル回転を開始した。



 ★



 食後のコーヒーを頂きつつ、『これから自分はいかにしてダンジョンで過ごすべきか』について考える。

 最大の目標はもちろんダンジョン脱出。これは譲れない。15歳にしてダンジョンに引きこもるつもりはなかった。

 しかし、ここは地下20階で理沙はまだレベル2の雑魚に過ぎない。ゴブリン相手にも苦戦するよわよわである。

 よって当面の活動指針は――


「まず第一の目標は1日あたり100マネー稼ぐこと」


 右手の人差し指をピンと立てる。

 これが達成できないと、黒猫商店に宿泊することができない。

 100マネーはゴブリンの魔石5匹分だから、決して不可能ではないはず。

 昨日の戦いはいろいろとヤバかった。思い出すとかなりヒヤヒヤものだ。

 でも、レベルだって上がっているのだから、昨日よりはバトルも楽になる……と思うのだ。


「次にレベルを上げつつ装備を整えること」


 次に中指を立てた。

 第一目標を安定してクリアできるようになったら、すぐにでも取り掛かりたい。

 拠点確保からのレベル上げと装備の充実。RPGの基本中の基本である。

 そして――このふたつの目標は同時並行が可能と思われる。

 装備品に関しては『ギフト:コスプレ』を考慮してプチデビルシリーズの収集に努める。

 店長に見せてもらったカタログによると、レアリティRのプチデビル装備は1パーツに付き500マネー。頭、上半身、下半身、腕、足、アクセサリの6箇所となる。

 現在身につけているビキニは本来上半身装備の扱いで、これとは別に下半身にパンツが存在するとのこと。

 なお、理沙の下腹部で光を放っている『ピンクハート』はシリーズに含まれていない。


「ビキニとブーツがあるからあと4パーツ。合計2000マネーね」


 ゴブリン換算で100匹分。

 小鬼の群れを想像すると背筋に寒いものが走るが……少しずつ貯めていくしかないだろう。


「それから……アイテムの調達」


 続いて薬指が伸ばされた。

 アイテムウインドウに保存できるアイテムは全部で10個。

 ネット小説の主人公のチートにありがちなアイテムボックスと見ることもできるが、いかんせん容量が少ない。地上への長い旅路を思えば全然足りない。

 別途リュックサックのような大容量の鞄が必要だろう。

 

「水と食料と……あと何がいるのかしら?」


 左手で指折り数えて――いきなり止まってしまった。

 長旅に必要なものと言われても、とっさに思いつかない。

 とりあえず化粧品の類が含まれないのはわかるのだけれど……


「ケガした時のためにポーションもいるミャ」


「それはそうね」


「途中で寝るつもりなら寝袋。薄暗いダンジョンを照らす明かりも欲しいミャ」


「……なるほど」


 サバイバルにも探索にも詳しくない女子高生(?)、黒猫店長のありがたいアドバイスを拝聴する。


「ま、その辺はレベル上げて装備を揃えてからぼちぼち行きましょ」


「気負わずにゆっくりやるといいミャ」


 店長のその言葉に裏はないと信じたい。

 現在唯一の客である理沙がリタイアしてしまうと、この店の売り上げがゼロになってしまうという話を聞いた気がする。

 お互いにWIN-WINの関係を築いていければ理想的だ。


「……来週から高校だけど、それどころじゃないか」


 やるべきことを列挙していくと……どう考えても一週間では無理そうだ。

 一か月以上、下手したら年単位の時間が必要な案件だった。

『仕方がない、仕方がないわ』と何度も自分に言い聞かせている。

 笑みを浮かべながらの言い訳臭い語り口に、目の前で黒猫が呆れていた。


「何はともあれ『千里の道も一歩から』って言うしね。小さなことからコツコツやっていきましょ」


 様々なゲームを嗜んできた理沙だったが、『一番好きなジャンルは?』と問われればきっとRPGと答える。

『なぜ?』と問われても困るのだけれど……あえて答えるならば『性に合うから』だろうか。

 レベルを上げて装備を整えて、少しずつ強くなって行動範囲を広げて。

 理沙はひとつひとつ積み重ねていく過程を楽しむことができる少女であった。

 だから――これからのダンジョン暮らしが、実は少し楽しみなのだった。

 命が懸かっているとわかっていても、不謹慎であると思っていても。

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