13 妖怪コミュ力
翌日、学校へ登校した俺は朝から考えていた。
どうしたら新浪を元気付けられるのか、を。
無論、そんなことは余計なお節介であることをわかってはいたが、昨日あんな話をされてハイそうですかで終われるほど人間できちゃいない。
そもそも「また明日」なんていうLINEを送ってしまっているため、逆に絡まないときまずい気がする。
既読無視されたけど……。
結局、何も浮かばぬまま教室に入れば、何故だか周囲から強い視線を感じた。
というか、俺が入った途端に会話が止まなかったか?
そんな空気に困惑している時だった。
「きた!」
つかつかと歩いてきたのは林道。
その勢いに気圧されながらも「おはよう」と弱気に声をあげる。
「黒井、昨日あれからどうしたの!?」
「あれから……?」
「追いかけたあと! 追い付いたの?」
あぁ、そういえばそうだった。
今さら喫茶店での事を思いだし納得。
……この異様な空気はお前のせいか。
「追い付いた」
「謝ったの?」
「あー……一応」
「一応?」
なんとなく、聞き返した言葉には刺があるように感じる。
俺が曖昧な返事をしてしまったのは、その謝罪が林道が考えてる謝罪理由とは違ったからだろう。
「もしかして……怒ってる?」
「怒ってない。けど、さすがに呆れたわ」
「呆れる?」
「女の子に、その……そんなことストレートに聞くなんて、いや、でも止めるのは確かに良いことなのかもしれないけど、でもでも……」
何かゴニョゴニョと口走ったあとにズビシと指を俺に向ける林道。
「とりあえず!! 黒井くんは新浪さんにちゃんと謝るべきよ!」
「いや、一応謝ったって」
「一応じゃダメ。ちゃんと謝るの」
「ちゃんとって……」
「ほら、私もついてってあげるから」
ガシリと掴まれた手首。
へ? などと声を出す前にグンッと引っ張られる。
「は? おい、どこに」
「新浪さんの教室。もう登校してるはずだし!」
「はぁ!? 今から!?」
「今から!」
さすがは部活動をしているだけはある。林道は男の俺をぐんぐん引っ張って廊下を走っていく。
「よぉ、薫」
そんな廊下の先で、たった今登校してきたのであろう四島がいた。
「今急いでるから」
そんな四島に目もくれず隣を通りすぎる林道。
くっ!
なんとか林道の勢いを止めようと俺は空いてる手で四島の襟を掴む。
「ぐえっ!?」
だが、林道が止まることはなかった。
俺と四島二人分の重さをものともせずズンズンと廊下を駆けていく。
四島は首もとに両手を添えて暴れていたが、諦めたのかぐったりとしてしまった。
「……はぁ、はぁ。重いと思ったら四島を巻き込んでるんじゃないわよ!」
「いや、お前すごいな」
ようやく止まった林道が怒鳴る。
そんな彼女に素直な驚嘆をおくった。
「なんで四島は寝てるわけ?」
「さぁ」
「まぁ、いいわ。ほら行くわよ」
「え?」
言って彼女は目の前の扉を開いた。
どうやら、既に新浪の教室についていたらしい。
というか、俺は彼女のクラスを初めて知った。
「新浪さんいる?」
平然と声を張り上げる林道。
その姿が勇ましく見えるのは、きっと俺にはそんなことできないからだ。
まるで友達でも訪ねるように、彼女は簡単に新浪を呼んだ。
そして、その質問に誰が答えたわけでもないのに、林道は教室内に新浪を見つけたらしく再び俺をひっ掴むといざ行かんとばかりに進行を始めた。
できるなら、この扉の取ってを掴んで駄々をこねたい。
今顔を合わせたところで、なんとなく気まずい気がした。
それでも林道は許してくれなかった。
俺は引っ張られるがまま教室へ入り、そして……ふと見れば、机に座って本を読む新浪の姿を確認してしまう。
「新浪さん、昨日ごめんね!」
ようやく俺の手首を離すと、パチンと音をたてて両手を合わせる林道。
その言葉の先には新浪がいて、彼女は突然現れた妖怪コミュ力に困惑している。
それはそうだろう。
そして、そんな妖怪の後ろに佇む俺と目が合い、あっ……と反応。
「よ、よう」
なんて。とりあえず挨拶を決めてみた。
「黒井くん……」
「ほら、ちゃんと謝ろう?」
「あー……いや、昨日はすまなかった」
「頭をさげる!」
後頭部を掴まれて無理やり頭を下げさせられた。
なんというか、親に連れられて友達の家に謝罪に来たみたい。
新浪から言葉はない。
そりゃそうだろう。彼女は、林道と俺がなぜ謝っているのかを知らないのだから。
それでも、新浪は何か言わなければ事態が動かないことを察したのか。
「大丈夫。気にしてない、から」
と、当たり障りない回答がポロリ。
「お詫びに今度学食奢るから! もちろんコイツが」
「おい」
「悪いのはアンタでしょ?」
勝手な約束を取り付けられたので反論しようとしたら、なんか正論パンチされた。
……正論じゃないけど。というか、そもそも林道に教えたのは真実を誤魔化すための嘘なんだけど。
「というか新浪さん今日一緒にお昼食べようよ」
「え……」
林道が唐突に新浪を誘った。俺はもう後ろで戦々恐々するばかり。
「もしかして、一緒に食べる友達いる?」
おい、ばか! それは地雷だ!
「いないけど……」
「あっ」
途端に自分がしでかしたことに気づく林道。
……もう遅い。
これまでとは違った気まずさが流れ、ここまで勢いのあった林道が途端に減速した。
もう事故である。というか自爆テロに近い。
新浪も気まずそうに、林道を見ながらチラチラと俺に視線を向けてきた。
「黒井くんは……?」
「……俺?」
「うん」
「なにが?」
「いや、その……お昼」
あぁ、そういうことか。
確かに、こんな妖怪コミュ力と二人だけで飯食べたら疲れそうだもんな。
「俺も参加しよっかな……」
「そ、そっか。じゃあ、私も参加しようかな……」
じゃあ、て。誘った林道完全に要らない子じゃん。
だが、彼女はそんなことおかまいもせず。
「じゃー昼にまたくるね! 邪魔してごめんねっ」
なんて明るく言った。
「ほら、黒井戻るわよ」
「お、おう」
謝罪と約束を鮮やかに取り付けた林道は、来たときと同じように颯爽と教室から出ていく。
慌ててそれを追いかけようとしたら、不意に袖口を掴まれた。
なんだ?
振り返ると、椅子から立ち上がった新浪の顔がすぐ近くにあって。
「昨日のLINEありがとう」
そっと囁かれた。
「その……直接言いたかったから」
照れたようにはにかむ新浪。
いや、そこは既読無視してごめんじゃ――。
「黒井ー! もうチャイム鳴りそう! 急いで!」
離された袖口。俺は仕方なく「おう」とだけ答えて教室を出る。
廊下に出ると林道の後ろ姿は既に遠くなっていて、俺もそれを追いかける。
途端、何かにつまずいて転んだ。
だが、ちょうどその時に授業開始のチャイムが鳴ったため急いで立ち上がると自教室へ駆け出す。
俺が朝から悩んでいたことをあっさりとやりとげてしまった林道。
そんな彼女の強引さに苦笑いしながらも、少しだけ感謝をしつつ、俺たちは朝の廊下を駆けた。




