5-1
ゲームセンターから去り際に、再びマニュアスとすれ違った。奴は液晶が粉々になり無残な姿と成り果てたゾンビゲームの筐体の前にしゃがんで、部品を回収しているようだった。
「バラしたらいくらか金になると思うんだよね」
まったく、したたかなことだ。
「あれ、結局あの襲撃者を取り逃しちゃったの? らしくないねぇ」
ほっとけ。
「すみません、私のせいなんです」
「どうだっていい。今から行方を追うところだ」
「ふうん。だったら、たった今入った耳よりの情報を教えてあげようか」
マニュアスが人を食った笑みになる。
「浮遊鉱石窃盗犯の行方を探るために、フィーファイが十数人、下町入りしたってさ」
いよいよ状況は混沌としてきた。整理してみる。
武力が皆無に等しかったレジスタンスは、フェライトコア社になんらかの圧力をかけようともくろむ『無国籍マフィア』の援助を受けている。それによって、浮遊鉱石を使った新兵器、ハンドガンという武力を手に入れつつある。
レジスタンスは、浮遊鉱石を弾丸に加工するために旧芝地区の生産工場から盗みを働いた。それを追っていた警察官ミラと上司のマインは、レジスタンスのホバーと接触事故を起こし、俺の目の前で胴体着陸をする。マインは命に別状こそないものの、油断できない怪我を負っている。
俺とミラはマインを病院に送り届けるために、レジスタンスの男が乗っていたホバーカーを手に入れたい。また、フェライトコア社の私警察『フィーファイ』も、浮遊鉱石窃盗犯を捕まえるために下町入りを果たしている。
だがフィーファイは、たかが窃盗犯を捕まえるためにわざわざここまで追って来たのか? いや、違う。やつらも逃げる時にハンドガンを見ているはずだ。おそらく、あれを脅威とみなして、どの組織が製造に関わっているのか調査して摘発するために来たとしか思えない。
俺はホバーカーさえ手に入れられて隠れ家から人がいなくなってくれれば一件落着だが、そうは問屋がおろさないということだ。
ホバーカーを手に入れるために動くということは、このおおごとに自ら首をつっこむということに他ならない。そんなことに付き合い続けるなんて、我ながら阿呆の所業としか言いようがなかった。
「これから、どうしましょう? ゲームセンターで手がかりを持っている男を取り逃がしてしまって、正直手詰まりです」
ミラが控えめに言った。俺が考え事をしながら道を歩いていたせいか、長い沈黙にとうとう耐えかねたらしい。相手も俺が状況を整理していることは薄々感じ取ってくれているのか、次の行動の説明も受けずに辛抱強く待っていたのは大きな進歩というべきか。
だが、ミラの言うほど状況は手詰まりというわけではない。
「言っただろう。ただ俺が闇雲に危険を冒して、ホバーカーの正面に立って自前の銃をぶっ放したと思うのか」
「違うのですか?」ミラが心の底からの疑問符を俺に投げつけて来た。俺が闇雲に危険を犯したように見えていたらしい。
ミラのおめでたさには心底悲しみが湧いてくる。
「これを見ろ」
俺はジャケットからスマホ型の端末を取り出して、画面をミラに見せた。地図の上に赤いポイントが点滅している。
「これは、発信機ですか?」
「俺の腰に挿している銃に、殺傷能力はない。本物の拳銃に似せて精巧に作られたポインターだ。発射した弾丸がそのまま発信機になって━━」ミラの持っている端末を指で叩く。「ここに現在地を示してくれる」
俺が撃った弾丸はレジスタンスの乗ったホバーカーのナンバープレートにのめり込んだ。つまりその赤い点滅が示す場所はホバーカーの停車場所ということになる。もしかしたら、レジスタンスの拠点かもしれない。
改めて俺は背中に収めている拳銃型の発信機を見た。何かあった時のために常に携帯はしていたが、使ったのは今日が始めてだ。
「まぁ、こんな妙なものを作るか仕入れるかしたマニュアスの酔狂も、たまには役に立つな」
「素晴らしいです、ロクスさん」
ミラは丁寧な手つきで端末を俺に返しながら感嘆した。
「こうなることを見越してホバーカーに発信器を打ち込んだのですね。状況はゴタゴタしていたというのに、とても冷静な判断です」
ここまでまっすぐに賞賛を受けてしまうと痒くなる。
「先輩を処置した時の手際といい、レジスタンスを組み伏せる格闘の腕といい、ロクスさん、あなたは一体何者ですか? 下町は長いとおっしゃっていましたが、どうも山ノ手の事情にもお詳しいようです」
「どうだかな」
俺が何者かなど答える義理はない。改めて液晶端末に視線を落とした。
「ホバーカーは旧北千住車庫前か。いかにもな場所だな」
幸い、ここからさほど離れていないかった。
「じゃあさっそく、敵の本拠地に乗り込みとしゃれこもうか」




