〝ABANDONED CASTLE〟上
ブクマ、感想ありがとうございます!
そこは古びれた城。
誰も近寄らず誰も近寄ろうともしなくなった古い城。
かつては不死の迷宮や大森林に住まう亜竜を目当てに人々が来ていた。だが、それはもう大昔のこと。
昔を知る者はもちろんのこと、今を知る者はいないと言っていいほど何もかもが風化してしまっている。
もう一度かつての賑わいを夢見て都市中には亡者達が彷徨い続けている。
だが、百年の時を経て変化が訪れた。迷宮から出て来る不死族は都市内を当てもなく歩き続けるのだが、それらを破壊する者達が現れた。
スケルトン、ゾンビ、リビングアーマー、ゴースト……同じなのは高い知性を有し最下位に位置する不死族。
だがおかしなことに、その死に覆われた地の最奥にはそんなユニークモンスター達と同等――いや、それ以上の知性を有すものがいた。
その名は大悪魔――
◇
「――亜竜は無理だし、現実的なのは迷宮の主なんだよね」
うむむ、と唸って考えごとに耽っているリリーを見て「急にどうした」と訊ねた。眉を手繰り寄せ額に集まっていた皺はアーヤの問いで弛緩して平になった。
「どうしたもなにも、亜竜を倒すのはいつくらいになるかを考えていたんだよ。それにダンジョンボスを倒したあと、マラソンするか別の街に移るかが変わってくるから」
「そもそも、勝てるの?」
どうしても亜竜のことを思い出してしまう。そうすると勝てるヴィジョンが浮かばない。敗北の光景しか視えない。
「なにを今更……あそこのLVは40。ダンジョンダンジョンがどうなってるかは知らないけど、今も変わらないんじゃない?」
「LV高いんだけど……」
「そりゃあ、そうだよ。LVが高いからって負けるとは限らないんだよ。ま、10以上も差が絶望的だけどね」
因みにデスグリズリーはだいたい20〜30。グラップラビーは10と少し程度。そして、亜竜は99。もしも職業について上限解放系スキルを取ればもっと149に一気に上がること間違いなし。
「お、う? え、じゃあ、47とか……いや、その前に少なくとも30に達していないと危ないんじゃ」
「大丈夫、大丈夫。シグマは基本後ろで付与するだけだから。遠距離来たらまずいけど、まあ、前衛ががんばればなんとかなる。カミィは……うん、大丈夫って気がしない?」
「いやいやいや! 一応痛みあるし、カミィはまだ子供なんだよ? 痛みで泣くかも……」
「痛覚軽減されてるし、遮断もできるから心配ない。〇学生だけど、ん? 〇学生だから? ……まあ、どっちでもいっか。イチャラブな映画からハードな映画まで嗜んでいるみたいだから、大丈夫だと思うよ? 刺されるとか、MR映画とかでよくあるじゃん」
「? あれって、R15とかじゃなかった?」
「……ま、まあ、うん、大丈夫。人を信じようとしないのは人としてどうかしてると思わなくもない、ような気がなくもない、ないよ」
「ごめん、どういうこと?」
「自分で言っててよくわかってない」
「えーっと、何の話をしてたっけ?」
「さあ? あ、そうそう、臨海学校そろそろじゃなかった?」
「さっきの話題と大きく外れてる気がするけど、どうせ重要なら思い出す、か……で、臨海学校が何か?」
「スク水で行くか、ビキニか、それとももっとなにかスンゴい物で行くか。どうする?」
「え、スク水は流石に……授業以外で着ようと思う?」
「見たい――なんでもない。まあ、そうだよね」
「私はビキニにパレオの予定」
「にゃにゅ……うーん、ビキニ……ビキニかぁ……いや、やっぱし、タンキニかなぁ」
「いいと思うよ」
「あ、じゃあ、今度見せ合いっこしようよ。行った先でなにか変なことがあったら大変でしょ?」
「大変なのはリリーの顔だと思うけど?」
◇
陽光が色鮮やかなステンドグラスを通り抜けて純白の神像に色を付ける。神々しいその光の使い方は職人の技術と知恵の結晶なのだろう。とは言え、それは実を結んでいるのか。
神殿を訪れる者は信心深い者はおらず、神官が扱う奇跡を頼りにやって来ている。身体が資本な者達にとって信仰心など二の次。
神殿関係者にとって彼らはお金をくれる徳を積む者達。
神殿長を任せられる者は神殿を経営するために獅子奮迅するのだが、ここはよく人々が神殿を利用するためそこまでお金に煩くならなくとも資金を得ることができる。まあ、要は暇。
今まで忙しく忙しなく働いていたのに神殿長に任命されて、この辺境の地へ異動。何をするのかと思えば毎日毎日神聖魔法で癒すのみ。
そんなある日、神より地上に遣わされた者がこの街にも訪れた。
「なんと、彼の闇に埋もれし居城へ向かわれるのですか」
死の遺跡のダンジョンを攻略にしていく、と言ったところ神殿長は驚愕に目を見開いた。
「あそこの最奥には百年前の大戦の際、魔王の眷属として参戦したハーゲンティがいます」
「? 不死の王? のこと?」
ベータ版の話を聞いているのは不死族を召喚やら作製を行う不死の王。
「百年前まではそうでした。ですが、今は違います」
「――?」
「百年前突然この地に現れた彼の総裁の悪魔。悪魔は迷宮に入ったとされています。当時迷宮管理者であった男爵は悪魔に迷宮制御が奪われてしまったらしいです」
「らしい?」
「何分古い文献でして……それと、百年前の大戦後は各地が荒れていまして正確であるか不明です。ですが、百年前同様単一国家に戻そうとした『神聖帝国』が行った遠征で不死の王ではなく、鳥の羽を持つ雄牛だったそうです」
(……あれ?説明終わり?)
「これがその際【鑑定】で得られたステータス情報です」
彼の居城、その最奥に住まうもののステータスを時の賢者が鑑定結果を書き記した巻物をアーヤに見せる。
【Haagenti / LV50(200)】
【種族 / LV30(100)
大悪魔 / LV10
悪魔総裁 / LV5(10)
闇の支配者 / LV5(10)
魔王の配下 / LV5(10)
闇の眷属 / LV5(10) 】
【職業 / LV20(100)
錬金術士 / LV5(10)
死霊術士 / LV5(10)
指揮官 / LV5(10)
操軍師 / LV5 】
【H P / W(D)】【M P / Q(A)】【S P / W(E)】
【STR / W(C)】【VIT / V(B)】【AGI / W(E)】
【DEX / W(C)】【INT / U(A)】【LUC / W(E)】
【スキル
錬金術 錬成陣 錬成 魔力増強 魔力超増強 精神体 物質体化
死霊術 死霊召喚 死霊降誕
軍団強化 眷属強化
魔人化
限界突破 臨界突破 極限突破 天上解放 etc 】
【アーツ
[戦技
ブラスト スターバースト ライデック スラバルト
バニッシュ シュート ショット オーバードライブ etc ]
[魔法
サモン・アンデッドアーミー etc ] 】
【称号
闇の眷属 信仰の眠り etc 】
「……LV50――え、ん? 200?」
「加護を失うと呪いとしてその身を蝕むとされています。光の英雄達もLVが半減してしまったりと神の眠りにより喪失は凄まじかったそうです」
◇
「――これは言わゆるデートですか?」
「はいはい」
カミーリャの『召喚士』と召喚体のLV上げをするためにやってきた。
「あ、南に向かうと湖があって“湖の乙女”に会えるかもしれないって聞いたんですけど、行きません?」
「残念、ベータ版で正皇に連れて行かれましたーー」
カミィとアーヤの間に割り込み、話題を変えていくリリー。
話題は『召喚士』の残虐性について。
「え……瀕死に追い込んで魔法〈ロック・シール〉を唱えて規定値に達するとそれを召喚できるようになると……」
『召喚士』専用武器――ではなく、装備品の『本』にモンスターを封印する。瀕死に追い込むのはそっちの方が抵抗の勢いが弱くなり封印成功率が高くなる。
「あと、召喚士はよく従魔士に狙われることが多々発生するだよね」
「え? 何で?」
その二つは似て非なる職業。そして、思想は全く違う。
「それは……召喚士はギッタギタにしないとモンスターを手に入れることができないんですが……もふもふ可愛い〜〜とか言うんです。それをどう思いますか?」
「? 別に趣味は人それぞれじゃ……」
「モフりたいのなら従魔士になれって話し」
「つまり、殺しておきながらモフろうとはモフリストの風上にもおけないってこと?」
「そう! そうなんだよ。でも、さ。従魔だと費用が掛かるんだよ。従魔の方がAILVは高く設定されているけど、食事をあげなかったり遊んでいなかったりすると好感度がだだ下がり」
「でも、お姉様。動物がいたら愛でたいですよね!?」
「え、ああ、うん……そう、だね?」
動物園に行かなくても動物と触れ合える場所は多くある。喫茶店にいたり、大きい公園であれば小動物がいる。
――が、親が動物を好まなかったし学校以外はほとんど家にいたため、動物と触れ合おうなんて思いは抱きもしなかった。そして、今も抱いてはいない。
「まあ、人それぞれだし、さ」
「なぜだか、お姉様におかしな子認定された気がします。そんなことありませんよね? ね? ね?」
アーヤはカミィの頭を優しく撫でる。
「いい子、いい子」
「え、へへへへ」
「ダメだこりゃ」
◇
動物系狼型モンスター牙狼が同じく動物系狼型モンスターである森狼を「グルゥゥゥウウ」と低い唸り声を上げて互いに牽制を行い合う。それを上から見るのは小さな小鳥――レッサーバード。
「――カク、スケ、殺ってしまいなさい」
さて、アーヤとリリーはボーっとその光景を見ていた。
カミィの声を発するのと共にファングゥルフが種族名に含まれる牙を見せつけるように口を大きく開き、フォレストウルフに飛び掛かる。
共に互いの首筋に牙を刺し込むが、噛み合いにはカクの方が勝る。それはカクが常時発動型スキルを有しているからである。そもそも、フォレストウルフは種族柄集団戦を得意とする。『連携』スキルや『統率』スキルや『群れ』の称号を有すことからもそれはわかる。
「アゥォォォオオオン――ッ!」
フォレストウルフは最期の力を振り絞り遠吠えを上げる。それはスキルの効果が上乗せされてこの地を縄張りとしているフォレストウルフに届いたはず。
「あ、やばい」
「わかるよ。わかるよ、アーヤ。さすが〇学生。やることがえげつない」
「こんなことするなら、私達いらなくない?」
「2nd職が武闘家ってのを考えれば予想はできたよ」
「でも、LVが」
「たぶん、スキルで召喚体が倒した経験値を獲得するのでLV上げをしていたからじゃない? そしてOSは恐らく近接戦闘系と見た」
「釈然としませんが、その通りです。召喚体のレベリングもしないといけないので、わたし自身のLVは低めです」
「そうなんだ」とアーヤは頷いてからカクとスケのLVを視る。「31と27か」
2人よりLVは高くはないが、カミィよりは高い。
「父が拳法が一番いいっていってたので拳法系を組み合わせた結果[崩波拳]になりました」
カクとスケへとは向かわずにやって来たフォレストウルフの顎を殴り……その頭を消した。
「ミト、お願い」
愛兎のミトを召喚しドロップアイテムを回収させる。
ミトは小さな手を前足を上げて「キュ!」と鳴いてからそこら中に落ちているアイテムの回収を開始する。
「『帰還/カク』」減少したHPとMPを回復させるために『本』に戻し「スケは周囲の警戒」と指示を出し発展途上の胸を張る。
「どうでしたか?」
それはリリーへと向けられた言葉。
「まあまあ」
召喚士や従魔士はほとんどが戦闘を行えない者が就く後衛職。これからダンジョンに共に潜るのに自衛を行えない者は不要。足手まといにしかならない。
『付与士』のシグマは戦闘能力は高くないが、他の部分で補っているため文句を言うつもりはない。
「でも、アーヤの護衛にはならない。シグマのことを守って」
「なんでですか!? たしかに、あなたよりは弱いかもしれません! ですが、わたしがお姉様を護れないとでも思っているのですか!?」
本来ならば複数パーティーで挑むべき相手なのだが、7人+1。この+1は召喚体である。従魔も召喚体もひとりにつきパーティー枠をひとつ埋める。
数の上では最大パーティー人数となるが、正攻法での勝利などまず無理だろう。確かに、ベータ版では1パーティーやソロでのダンジョン攻略は行われたことはある。しかしそれは、LVが200を超えた使徒がダンジョンボスのLVが40程度で相性弱点を知り尽くされ攻略法が確立した場合のみである。
ジャイアントキリングはまず起こらない。数々の奇跡が起きたらその限りではないが、奇跡は観測上の勘違いでしかないため絶望的だ。
「いや、アーヤは自衛できるし、下手すると……」リリーはアーヤを見る。そして首を振って考えを振るい落とす。「いや、なんでもない。ともかく、アーヤは自衛できるし、[空間跳躍]があるから逆に邪魔になりかねない」
空間を飛び越えることのできるOS。逃げに徹すればステータスの差があったとしても、掴まえることなんてできない。
「え、お姉様、後衛ですよね?」
一応カミィも後衛職なのだが、彼女は前衛をこなしている。
「うん? まあ、そうなるのか、な?」
「ああ、もう! どういうことなんですか!」
訳分からない。
アーヤは『上級弓士』『盗賊』『見習い商人』の職。『盗賊』は敏捷に補正が掛かるため、回避盾の者は就いているかもしれない。しかし、しかしだ。最も補正の掛かる1st職は『上級弓士』。後衛以外何がある。
3rdは『見習い商人』なのだし、これは生産職だ。
「さすアヤ」
「はい?」
「さすアヤ」
「さす、アヤ」
「そう、さすアヤ」
「「さすアヤ」」
2人は犬猿の仲のように見えるが、こういう所では息が合う。喧嘩するほど仲がいいとはよく言ったものだ。
「……何だかよくわからないけれど、2人が仲良さそうで、嬉しいよ」
スキル90個、アーツ60個になるように増やし…たい( ´ཫ` )