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OSG  作者: 小太刀
情熱の刃
5/14

〝DEATH FOREST〟下

ブクマ、評価ありがとうございます。


 亜竜の森、そのEXTRA(エクストラ)AREA(エリア)BOSSボスとして君臨するのはカバとプテラノドンを掛け合わしたような頭部と蜥蜴を彷彿させる身体のバラザード。

 亜竜の名に恥じぬ強靭な肉体を持つボスモンスターと呼ぶに相応しい怪物である。


「あ……」


 目が合った。そんな気がした。

 そう思った瞬間悲劇が巻き起こった。スカートなど気にはしていられないほどの旋風が巻き起こり姿勢を崩す。

 軽い骨体を持つオスが大空へと羽ばたいた。一瞬助けようと思考が行くが残念なことに走って間に合う距離ではなくなっている。

 オスは落下時のダメージにより死亡。

 一撃でも当たってしまえばそれで死ぬ。いや、掠っただけでも亜竜と比べ雀の涙ほどしかないHPでは全損してしまうだろう。

 ただ立ち尽くし呆然と死を待ち構えることしかできないのか。巨体ではあるが、鈍足ではない亜竜から逃れれる術はないのか。

 デスペナは強制ログアウトに加えてLVの減少、現実世界時間で24時間ステータスが半減する。

 矢を番えて弦を引く。しかし亜竜(バラザード)は恐れることなく、視界を外して他の脅威なりうる存在へと向ける。


「――[神性剣]ッ!」


 リリーの声に応じその身を白く黄金に輝く光に覆われた。それはOS発動によるエフェクト。彼女が持つベータ時代に最高のスキル同士を組み合わせた最高位のOSが発動された。

 その輝きを纏った物は全て『光族』以外のすべてに特大のダメージを与える。今は効果時間は短いが一矢報いるには十分過ぎる時間使用できる。


「はぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 跳躍し逆手に持った剣を脳天目掛けて振り下ろす。


『ヴォーッ、ヴォッヴォッヴォッヴォ』


 眉間に突き刺さった剣を振り払うために頭部を振り回す。残念ながら剣を取り除くことには至らなかったが、リリーのことを吹き飛ばすことには成功した。

 木に叩きつけられたリリーは光の結晶となって消え去った。

 それからしばらくしてアーヤが押し潰されて――全員が死亡した。


   ◇


「――いや、強過ぎるでしょ」


 最もな意見だ。バラザードとの接触まで戦っていたモンスターなどMOBの中のMOBでしかない。そう思えるほどの強敵だった。


「ボスモンスターだから『ボス化』の影響を受けてるんだよ。まあ、そんなわけで強いのは当然……だけど、うん、強過ぎる気がする」


 思案を巡らすと色々とおかしな点はある。けれども、今手元にある情報だけでは結論を出すことはできない。


「まあ、当初の予定通りダンジョンアタックだよ。それから折を見てバラザードを倒すのが一番だよ」


 今の状態ではどんなに戦っても何人で挑もうともステータスの差があり過ぎる。とは言え、それは今の話し。他が倒すよりも早く強くなって倒すのは変わりない。


「ぇ、倒せるの?」


 絢音(アーヤ)は驚きを隠せない。あれほど圧倒的な力を前にした後なのに勝つだなんて世迷い言を口にする親友に対して。


「もちろん、ベータの時は試行錯誤して亜竜級を倒すのに1月掛かった……けど、今回は一週間。うん、それくらいで倒そう!」


 現実世界時間にして1週間――つまり、ゲーム内時間は3倍の3週間。それくらいの時間があればデカいトカゲ程度倒せるくらいにはなる。そう、その時間があればだが……。


「……勉強は?」


「ら、来週するから。絶対にするから!」


「……うーん、夏休み明けテストは後々反映してくるから」


 夏休みの宿題がなくなりはしたが、夏休み明けテストがなくなった訳ではない。成績に少なからず反映する。成績を少しでも良くしたい絢音自身と母親は彼女に勉強をさせたい。だから夏休みの間にも勉強をさせる。


「わ、わかってるよ。でも、……ううん、もしかして。もしかしてだけど、ハマった? ハマったの!? やっぱしハマるよね!」


「嵌まってない。その前に近いっ!」


 額を両手で押し付けて近づいてくる頭を遠ざけて、胴体を足で近づいてこないように塞き止める。


「もう、照れちゃって……デレはいいよ。いいけど、もう少しデレ方を考えてよ」


「照れてないし……――デレてもない」


「はいはい。そういうことにしておくよ……今は」


 つれないがそれはそれで……と之浬(リリー)は思う。今はまだ、今のままで――いや、現状維持の方がいいのは間違いなくいい。変化を求めて変化して最良な状況なのに変わってしまうなど嫌だからだ。

 この空想に幻想に(仮想)は壊してはならない現実が隠れ潜んでいる。


   ◇


 巨人。それは簡単に言えばデカい人類。全人類の数パーセントしかいなく、巨人の英雄が建てた小さな小国――と言うよりかは部族の集合体がある以外これと言ったことがない。

 そんな数少なく別大陸で住んでいる巨人種のひとりがこの街を訪れていた。

 小巨人は平均が二メートル前半の身長。丘巨人はひとりひとりが丘と同じくらいの大きさ。あとは活火山に住まう炎巨人、砂漠や海を彷徨う旋巨人、極寒の永久凍土に住まう霜巨人なども居たりする。

 さて、ここに来たのは小巨人。地人達は少し背の高い人だと思っているだろうが、人間ではない。見間違えるのは仕方のないことだ。背以外これといった特徴がない。

 巨人族にあるはずの強靭な肉体は人間より少し丈夫で怪我の治りが早いという物のみ。


「うぃーす」


 2メートルを少し超える程度の小巨人の中でも低身長の男が片手を挙げた。その視線の先にいるのは2人の人げ――少女。


「……誰? 知り合い?」


「え、知らない知らない」


「オマエら……」


 アーヤもリリーも心当たりはない。だがしかし、彼はそうではないらしい。その特徴的な声音はどこかで聞いたことがある。

 眉を顰めて少し思案を巡らせた後、2人は記憶から何とか引っ張り出す。


「なんだ、社畜か」


「――ああ! そっか。……一瞬新手のナンパ野郎かと思った。危うく殺す所だったよ」


 リリーの後半部分は殺伐としてはいるが、それは仕方ないこと。アーヤに悪い虫でも付こうものならばそれを排除するなど当然のこと。それがゲームであれば手を下すのも……悪い手ではない。


「ポルックス、お久しぶりです。来るのは最後の最後がよかったんですが、こうして出会えたことには少なからずの……少なからずの……――と、こんな所で油を売っていないでレベリングに励みますか」


「オレ、大人だぜ? もう少し敬意をだな」


「オスさんの方が……」


「うんうん、大学生なオスよりも劣ってる」


 人は年齢を重ねていくことで成長していく。しかし、2人はポルックスは年齢が低いオスよりも劣っていると考えている。


「バカ、と言うか能天気って言うのか……まあ、ダメ人間? 悪い見本と言う意味では花丸を上げていいと思う」


「うーん、そこは将来に期待をってことでもう少し評価を上げて……銅賞はどう?」


 評価が花丸から銅賞へと上がったと言えばいいのか、下がったと言えばいいのか。何とも言えない評価変更にリリーは乗る。


「お、いいね、いいね! じゃ、銅賞ってことで」


「オマエらホント、大人をバカにしてんだな?」


 ポルックスはやはり2人の評価に納得などできない。今までの画面越しでの会話でもそれはわかっていたことだが、こうして目の前にいて話していると腹の底から沸々と湧き上がってくる感情がある。


「まさか、そんなことは……リーダーのことはもちろん、尊敬はしていますし、オスさんにも同等の敬意を捧げています」


「で、オレは?」


「社畜なのにやっとの思いで就職することができた会社に執着してるダメ男?」


「……ゴm……ゴホン、フルダイブ型ゲームでは少しは、少しは……」言葉が詰まる。記憶を巡らし少しでも尊敬できる風景を呼び起こす。「……あ、やっぱ無理。嘘を言っても傷付けるのなら、正直に言った方がいいよね」


 人のことを思っての嘘なら吐いてもいいとは言うが、やはりその人のことを思えば真実を伝える方がいい。


「……どこがダメなんだ?」


 SAN値が擦切ったポルックスは聞くことにした。一度も春が訪れない人生に少しでも春の日差しが差し込んでくるのも期待して。


「女性との会話でしょう。恋愛対象に対する会話が……悪過ぎます」


「お、おう……」


 見た目で勝負ができないのなら舌で勝負。相手が興味を持つ話題だとしても恋愛対象としてするような内容でなければならない。


「私達とのように会話は……まあ、無理でしょうから。少しは女性が気になる話題を調べてみては? ひとりひとり趣味は違います。ドラマやアニメ、話題の映画の内容と俳優や声優のことを知っておけば?」


「ぉぅ……」


 テレビはよく観るが、観るだけで最近話題な俳優もその来歴を知ろうとしたことなんてない。そもそもそんなことを覚えれる気がしない。


「わかりやすくレクチャーするのもいいと思うよ。このゲーム深い所は深いから……あ、でもその時未成年者に手を出すようなことは……警察沙汰になるのはさすがにめんごだから」


「いや流石に未成年以下を口説くようなことはしない。そこまで追い詰められていない」


 と言うのも職場のマドンナ(未婚、独身)と1日1度挨拶をしている。


「「いや、ないない」」


 声が漏れていたことに気がついたが時すでに遅し。


「オマエらお子様にはわからねぇんだよ! 大人な恋愛ってモンはだな――」


 年齢=彼女いない歴、童貞で社畜な男の持論が語り出された。何の根拠もない言葉を繋いだ願望でしかなかったが、皆しっかりと聞いていた。


(((大変だった……これからも希望だけは持って……)))


   ◇


「――さて、『壁』(ポルックス)『弓』(アーヤ)『回復』(オス)、それと『遊撃』(わたし)がいるけど……うん、とりあえずは遺跡に向かおう!」


「……お、おぉ「「ぉおお」」」


「はーい、ありがとう。これからもみんな盛り上がっていこう!」


「「「ぉ、おう」」」


 リリーのペースに未だ付いていけないアーヤ。オスとポルックスにはこれからに期待を込めて今回ばかりは許す。

 だがしかし、とリリーはアーヤを見る。

 どれくらい見ていたのか。それはわからないが、ひとつわかったことはある。


「ダメだこりゃ」


 気持ちでは合わないが、心は合うだろう、と思いリリーは3人を率いて森の中へと突き進む。

『気配察知』を持つアーヤが先頭を歩く訳でも、盾役であるポルックスが初撃を受け止めるために先頭にいる訳でなく、何故か察知系もヘイトを稼ぐスキルもないリリーを先頭にモンスターを狩っていく。

 この森は亜竜が塒にしているから死の森と言われるのではない。その森の半分以上が、死によって汚染されている。その元凶は目的地であるオスの故郷――旧都市ベランチェスである。

 死の遺跡へと短距離で行くために真っすぐと進んでいたが、リリーは足を止めて歓喜を挙げる。


「クマだよ! クマ!」白黒でなく白色に土の茶色が付着するポルックスより少し高いクマがそこにいた。「――って、アーヤなにしてるの!?」


 後ろを振り向いてこの嬉しさを分かち合おうとするが、背後で奇行を行っていた親友に驚いた。


「死んだフリ……LVをチラ見したけど、勝てない」


 斥候役を担う職で必要なのは敵を相手よりも見つける能力。そして相手の力量を見定める能力。その2つは最低でも持っていなければならない。


「うーん……いや、闘おう。お互いの連携を少しでも知るためにもここは闘う。それと、アーヤはラストアタックに注力して」


「了解」


 アーヤはスキル『解体』がある。これはラストアタックを決めた際手に入るドロップアイテム量が増える、という物。それと、『料理』の補助スキルでもある。


   ◇


 デスグリズリー。死のオーラをその身に溜め込み生者ながら死の力を有するモンスター。

 低い確率で『腐食』『毒』『麻痺』といった状態異常を引き起こす。これは接触時のみではない。さらに低い確率となるが、近くにいるだけでも弱い状態異常が起きる。

 オスはポルックスに状態異常を回復させる〈レッサー・キュア〉をいつでも掛けれるように準備を行い、HPが半分に下回る前に回復を行う。

 ポルックスがデスグリズリーを引き付けているためリリーは一撃一撃しっかりと弱点箇所に当て少しずつではあるが着実にHPを減らしていく。[神性剣]を使いたい所ではあるが、1度使用すると現実世界時間で5日再使用が行えない。


「ウガーーッ!」


 デスグリズリーが立ち上がった。今までは四足を地面に付けて動き回っていたのだが、後脚で立ちその巨腕を地面に思いっ切り叩きつけた。


「――待避! 待避ぃい!」


 リリーの焦った声が透き通る。


「ぐ――っ」


 鉄の盾がひしゃげ、爪がポルックスの体に練り込まれる。

 そして直ぐさま〈レッサー・キュア〉と〈レッサー・ヒール〉の癒しの燐光がポルックスから放たれる。


「アーヤ!」


「了解っ!」


 リリーがアーヤの名前を呼ぶとアーヤは頭を縦に振った。長年共に育ってきた二人の意思疎通は簡単にできる。

 デスグリズリーの右眼に一本の矢が突き刺さった。


「――キュ、ヴガァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛!」


 部位破壊によりヘイトがポルックスより上回りアーヤへと向く。しかし、その姿を視界に収めることはできておらず、四方八方を見回る。その間にも顔面、手足、背中――至る所に矢が飛んで来る。

[空間跳躍]により空間を跨いでいるため、ただ攻撃が向かってきた方を直ぐに見たとしても意味がない。あまりにも遅すぎる。

 ある程度離れることができたことを見たアーヤは深く踏み込んでその地に跳ぶ。


「? 逃げるんじゃ……」


 逃亡するのかと思いきやリリーは闘う雰囲気を纏っている。


「なにを言ってるの? 逃げるわけないじゃん。ここまで減らしたんだよ? 逃げたら勿体ない」


 そう勿体ないのだ。消耗品を少なからず消費したのに、それなのに逃げるなんてことは勿体なさ過ぎる。


「お、おう」


オス:どうする? あれは恐らく『狂化』の類い。ここでモタモタしているとやって来るのは目に見えて

オス:来た


 デスグリズリーは四足歩行で向かってきている。


「うーん……罠系は持ってないし……アーヤ、『狂化』になったら防御力がダダ下がりになるからとにかく矢を射って」


「リリーは?」


「ポルックスを残して回復に回る。二人でやれば何とかいけるはず」


『狂化』によって攻撃力が上昇しているが、2人が回復に回れば全損になることは遠い。防具が破壊されて生身に攻撃が来れば回復が間に合わないだろうが、それまでに倒せばいい。


   ◇


「――何とか倒せた……」


 矢を回収しながら射ったため全ての矢は破損してしまい光の結晶となって消えた。そのため終盤は腰に差していた細剣でヒット&アウェイを繰り返して縦横無尽に駆け回った。


「けど、『気配察知』に似た気配がいるけど?」


 安堵して落ち着きたいが、ついつい発動してしまったスキルが気配を見つけてしまう。それも近い所で。


「そりゃあ、そうだよ。だって、ここのMOBの一匹だし。序盤のエリア級がラスボス前だとそれより強いのがMOBでいるのは当たり前じゃん?」


「確かにそうだけど……」


 ああも一生懸命に倒したのがMOBでしかないと何だか釈然としない。


「おい、逃げんぞ!」


 消耗品を使ってまで倒したが、それは一匹で限界。

 アーヤは地面に落ちたアイテムを『収納』にしまい込み戦略的撤退をしていく面々の後を追った。


そろそろ『仮想研究部(仮)』が書き終わりそうですので、お楽しみを…

最終章である『From the New World』までの準備は着々と出来上がっております/)`;ω;´)

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