〝DEATH FOREST〟上
亜竜の森はその名の通り亜竜が住んでいる。亜竜とは最強種である竜の血を少なからず受け継いだ竜系統の劣等種。劣等種とは言われるが、単なる人が幾ら集まろうとも呆気なく蹂躙されてしまうため、畏怖を込め死の森とも呼ぶ。
加えてその森を抜けた先には不死族が跋扈する『遺跡』があるため、二重の意味を込めて死の森と呼ばれている。
そんな森の外縁部で二人は依頼をこなしている。薬草の採取、モンスターの討伐、素材の納品が主な依頼だ。
この日二人はいつもよりも奥地を訪れていた。奥に行けば行くほどモンスターの総LVやAILVが上がっていく。
草を揺らすカサカサという音と、何かが触れ合うカタカタという音が段々と近付いてくる。
そして飛び出して来たのは白骨死体――
「オスさん、こんにちわー」
ではなく言わゆるスケルトン。この一帯は負のオーラが自動不死族生成をする値に達していないため野良ではない。
「……(カタカタ)」
そのスケルトンはカタカタと肩や腕の骨を鳴らしながら振る。
「「……?」」
《プレイヤー名『Os』よりフレンド申請が届きました》
《許可しますか? YES/NO》
「「はい」」
《プレイヤー名『Os』がフレンドになりました》
《プレイヤー名『Os』よりチャットルームに招待されました》
《開きますか? YES/NO》
「「はい」」
【AryaがInしました】
【LillyがInしました】
チャットルームに入る。
オス:やっほー
「「ど、どうも……」」
オス:やっぱり、言葉が通じないからチャットで会話をお願い
「どういうこと?」
「種族で言語が違う……と言うより、不死族だからね。元が違うみたいなんだよ」
リリー:オスさん、これからどうする? 「従魔の首輪」を持ってきましたが……
オス:あ、くれる? 職業LVを上げるには「心得系」を最初にクリアしないといけないから
初期職業は『心得クエスト』をクリアしないと就くことができない。
オス:助かったよ。これで街に入れる
モンスターが街に入るための必須アイテムのひとつが『従魔の首輪』。従魔士ギルドで常時販売されている道具。
オス:デスペナ喰らわないから、トライ&エラーを繰り返してやっとこれたよ
【Os/ LV5】【BP / 0】
【種族 / LV4
不死族 / LV4
骸骨 / LV1 】
【職業 / LV0 】
【H P / X】【M P / V】【S P / Z】
【STR / X】【VIT / V】【AGI / Y】
【DEX / Z】【INT / X】【LUC / Z】
【スキル
骨体 光魔法 再生 潜伏 強打 破壊耐性 】
【OS
[死乃公] 】
【アーツ
[戦技]
[魔法] 】
【称号
魔物 不死者 】
リリー:よくこれで森を抜けれましたね…(( ̄▽ ̄;;)
オス:亜竜に遭遇したがけどあれは無理だねw
オス:それはそうと、死の遺跡について何て言われてる?
リリー:死の遺跡?
アーヤ:確か……行く意味のない所でした
アーヤ:騎士団の方が月一で見回りをする場所とだけしか……
オス:あそこが不人気な理由はアイテムが落ちないことと、装備がダメになるからだよ
リリー:と言うことは……やはり
オス:予想通りと言えばいいのか……BOSSはネクロマンサーか不死の王クラス
リリー:と言うことなら、予定通りってことで?
オス:ボス部屋までのルートは完璧
オス:あとはレベリングと特効を備えれば行けるはず
アーヤ:何も聞いていないんですが……
リリー:サプライズだよ。サプライズ!
オス:我ら『七星剣』の輝かしい伝説がこのゲームでも
リリー:β版でもしたかったんだけどね。わたしとオス、リーダーしか通らなかったから
リリー:リーダーは通ったと言うよりかは貰ったみたいだけど
オス:視聴回数を増やすためにも、一番最初にエリアボス以上を倒したいみたいだから
アーヤ:ああ、リーダーは死活問題でしたね
それからも他愛もない話が続いていく。
オス:残り四人が来るまでの予定は?
リリー:わたし達は今まで通り森と街でレベリングする予定
オス:Wiki調べながらやってるけど、どう?
リリー:順調……とは言えない……プレイヤーの数が少ない
オス:適性レベルが違うからね
◇
「――さて、オスが職業のLVをしている間、わたし達は種族のLV上げをしよう」
職業に就くには既にその職業に就いている者に教えてもらうか、職業情報と呼ばれるアイテムがなくてはならない。
そのためオスとは別行動をすることになった。
「『おお!』とか言ってさ。こう、これから頑張るぞって意思表示をして欲しいというか……うーん、やる気を、ね?」
「はぁ……おお」
「…………次回に期待するね!」
ウィンクをしてリリーは今後に期待を寄せる。
「それで今までと変わらない気がするけど?」
溜息を吐きながら話を進めるよう促す。
「全然違うよ? 今まではギルドの依頼を受けるついでにレベリングをしていたけど、今日からはガチ。ただモンスターを倒すのみ」
今まではギルドにある依頼で小銭を稼ぎながら経験値獲得も行っていた。効率としてはあまりよくはないが、ドロップアイテムを売るよりかはお金が手に入るし地人の評価やギルド貢献度が上がるため悪いことばかりではない。
「あ、因みに接敵してすぐ一撃死させていくと『魔物殺し』や『蹂躙者』と言ったステータスに補正が掛かる称号を手に入れれるからそれを目指したい」
その2つは比較的簡単に取れる称号ということで人気がある。ベータの時、戦闘職ならばほとんどの者が取っていた必須称号とも呼べる物。
「総LVによってその数は変わってくるから殺るなら早い内がいいから、アーツの試射ついでに皆殺ししていこう!」
獲得条件は自身の最高LVと同等以上のモンスターを一定数倒すこと。これが後々になっていくと獲得し辛くなり獲得できなくなっていく。一撃死なんていう物は序盤ぐらいしかできるわけがない。
「……あ」リリーに見られていることに気がついて「――おお!」と微妙な声を挙げた。
「うーん、まあ、いっか……アーヤはお色気担当でおねしゃす!」
「は?」
「お、おう……ジョーダンだよ……なら、何役?」
「役なんて要らないでしょ?」
「え? いるよ。RPGだよ? 一応何者にでもなれるんだよ? なのに、それをやらないなんて……」
◇
「――『パワー・ショット』」
重力を物ともせず飛来する鉄の矢尻が付いた矢は真っすぐと突き進みゴブリンの脳天に突き刺さった。そのままHPが0に到達して光の結晶となりて消え去る。耐久値が残った矢は地面へと落下しドロップアイテム――小鬼肉の上へと乗る。
いつもは外縁部でのお仕事で懐を温めLVを上げていた。しかし、今回は少し森の中に進む。
現れるのはゴブリンや動物系。ゴブリンはただ木の棒やら石のナイフを振り回すような脆弱なモンスターではなくなっているし、二足兎と呼ばれる二足歩行を行い武闘家の職を得たグラップラビの姿も目にする。
職業に就きある程度の武器を有して戦闘を行うことができるほどのAILVが与えられたモンスター。
「強くない?」
グラップラビに接近を許してしまったため、護身用の短剣が武具破壊が籠った打撃によって破壊されてしまった。ステータスは高くないのだが、耐久値が低い装備品であったため一撃でも入れば壊れてしまう。
「ぜんーーっぜん! 強くないよ! というか雑魚!」
「冗談下手くそ」
「いや、冗談じゃないから……アーヤも普通に倒してるじゃん。余裕だって」
一度だけ上手く矢が当たらなくHPが残ってしまい攻撃を受けてしまった。それ以外ヘッドショットボーナスや武技の使用により一撃死させていた。
それを考えれば余裕と言って過言ではない。普通ならタッグではなくパーティーで倒して行くような
「外縁部との強さが違い過ぎない?」
昨日までとは違う。スキルなんて使っていなかったし、ステータスも明らかに低かった。
「? そりゃあ、そうだよ。もしも、この街を最初に選択して兎狩りやら雑用に飽きて来たら森を進むんじゃなくて北進するのが当たり前だよ。平原を馬車で3日掛かるけど、隣領の端の村に辿り着くから」
そもそもの話が最初の街は別の所を選ぶのが当たり前。こんな進めるのが大変な場所を選ぶなんてことはしないのが当たり前。
「……?」
「わかるよ。言いたいことはなんとなくね。だから言おうとしてる言葉は胸の中に仕舞っておいて。聞きたくないから」
言葉にしてはいないが言いたいことが理解できてしまう。だから聞きたくない。聞きたいなんて思うほどM気質がある訳でもない。
コホンと咳払いをしてから続ける。
「理由を説明するけど、まずわたし達はここから一番近くにあるダンジョンに向かおうと思う」
「? ダンジョン? 聞いてないけど」
それはリリーからと言うのもあるが、地人からも含まれている。後者の方が意味合いが強い。
「ベータ版の時にもそこまで話題には挙がってなかったから耳にする機会はないって言っていいと思う。ベータ版の時は発見されるのが遅過ぎてレベリングするなら他にいいのがいっぱいあって記念に挑むくらいしかやらなかったから」
記念にダンジョンに潜る。
もしかしたら隠し通路やらなにかがあるかもしれないと一度くらいは物は試しに入る。が、中はアンデッドで溢れ返りLVも低い。
わざわざダンジョンに入らなくとも死者が闊歩する平原が『光の国』と『闇の国』の狭間にあり、そこの方が報奨金やらが貰えるためそちらの方が何倍もいい。
そんな訳で特に話題に挙げられることなく、そんなダンジョンもあったな、と言われる程度の代物と成り果てた。
「もしかしたら変更されてるかな、って思ったけど、ダンジョンが大きくなった以外特に変化はないっぽい」
「ふーん、――それでダンジョンってなに?」
ダンジョン。何となくは流石にわかる。しかし、アーヤはこのゲームにおけるダンジョンとは何なのかが全くわかっていない。
攻略本を読むことはないし、攻略サイトを漁ることも掲示板を観ることもしない。
そんな訳でそろそろ聞く時だろうと考え尋ねた。
「え? ダンジョンはダンジョンだよ」
リリーにとってアーヤの疑問は理解できない。ダンジョンはダンジョンであるから、ダンジョンと呼ばれダンジョンと親しまれている。
「あー、うん……で、ダンジョンはなにができて何ができない?」
「仕方ないなぁー……ダンジョンとは――」
リリーの説明を簡単にすると、ダンジョンにはダンジョンマスターと呼ばれる存在がおりそのモノがダンジョンの管理を行っている。そして、ダンジョンボスを倒すと金銀財宝、能力書物、魔法巻物などが手に入る。
そしてダンジョンを攻略するとそのダンジョンの支配権を獲得しダンジョンマスターとなる。
あとはダンジョンマスター後の特典などが語られた。
「正教国の建国者もダンジョンマスターだったんだよ」
「へー」
ベータ時代に建国された国は今でもまだ残っている。どんな体制なのかは不明だが、名前があるのは間違いない。
「ダンジョンマスターとその地の支配者を兼任がほとんどなんだよ。だってさ。自分の支配域に第三者とは言え味方ではない武力なんて留めておく理由なんてなしね」
ダンジョンマスターの全てが生み出したモンスターを操ることはできないが、モンスターを増やし尽くせば何れ外に出るモンスターが現れる。それは雪崩のように。
「まあ、確かに。じゃ、今度行こうとしてる所は?」
「うーん、ベータの時には都市があったからね。その一族なんだけど……わからない。下手したらマスターなしかもだし。因みに使徒じゃない者がダンジョンマスターだった場合、死亡すれば支配者無しになるから獲りやすいんだよね」
「ダンジョンマスターになりたい?」
「そりゃあ、そうだよ! ダンジョンマスターだよ? DPでユニーク武器を創れるし、モンスターを好きなだけ創れるんだよ? なったら直ぐに召喚士の職業を取るね」
「なんか、色々とあるんだ。魔法剣士? だっけ? それを目指していなかった?」
魔法師と剣士を納め魔法と剣術を修得して就くことのできる複合職もしくは上位職と呼ばれる『魔法剣士』。
リリーはそれを目指していたはず。
「はぁー、トップを目指しているんだよ? 方法を調べるくらい普通だよ」
「頑張って」
「アーヤもだよ? 一緒にトップになろうよ! 明確な基準がないから『あ、この人凄い』と思わせるくらいアーヤなら楽勝。と言うか、LVはベータクラスかもしれないし」
「そうなの?」
「そうだよ。1stがLV最大なのはベータでやってた人くらい。あと、PSはアーヤ高いからベータ組以外だとかなり上だと思うよ」
一番上とは言わないのは始まりの地点をもっとLV上げをし易い所があるからだ。掲示板などの書き込みをすることはできるのだが、全ての者が詳細に書き込んでいるようなことはない。
だから、断定は避けて無難な所を口にした。
「ほー、と言うことは頑張りはおしまいで?」
「そんな訳ないよ。これからどんどん強くなっていくんだよ? 自分にあった職業に出会い、順応適応してくOS……」
序盤での差は自分に合っていない職業やらをしている者。だが、次第に成長したOSはその人の確かな力となる。
「――いつでも全力前進だよ!」