〝LOG OUT〟下
今日はクリスマス♪♪
今のところ真っ白なお髭を伸ばし鮮血を見に纏った盗人はまだ現れていません
まあ、この年ですし、父も母もグースカピーなので……(_.ω.)_:∵
「――幕内さん! これを見てください!!」
若さが滲み出ている男が声を張り上げて簡易仕切りで別けられた部屋――隙間に入り込んだ。
「ん? どうした……? それより、声出すな。昼寝の妨害をするな」
「昼寝って……今は夕方――って冗談言ってる場合じゃないですよ!!」
半分ツッコミかかったが、そんなボケに構っている暇はないと思い踏み留まった男はモニターを見せる。
「なん、だと……」
作画崩壊の男――幕内は愕然とその画面を見詰めた。この世の悪夢にでも直面したかのような面をしだした。
「はぁ、ようやく事態の深刻さに気が付きましたか」
事態の重大さに早く気づいてくれた幕内に安堵を覚えた。
「ああ、サンキュ。さて、定時になったし、飲みに行くか」
「おい! しっかり見ろよ!」
サムズアップして飲みに誘う幕内の顔面にモニターを押しつける。
「んだよ……定時帰宅絶対だろ? 一秒でも残業すると、ブラックになる、とか何とかでバケツを両手で持って廊下に立たされるんだぞ」
「いつの時代の話しですか……てか、それ体罰じゃないですか。パワハラですよ。パワハラ」
「だろ? だからさ、帰ろうぜ!」
パワハラなんて物が外部に漏れ出ればどんな大企業でも経営の危機に追い込まれる。それが、中小ならば閉めるしかあるまい。
「いや、帰りませんよ?」と真顔で言うが、幕内は鼻の穴から宝を掘り当てる。「ああ!! いいですよ!! じゃあ、これを明日するんですね!?」
「……AIは労働法に当てはまらないだろ? そっちに回しておけ」
「…………確かに当てはまりませんが、バグの修正は人間がしないといけないんですよ。あと人権問題で煩いですから外では言わないでくださいね」
自律型AIにも人権はある、と豪語する者達が十余年前の家事から急増している。そんな輩に聞かれれでもすれば、誰も仕事に身が入らなくなる。
「あ? ……待てよ。AI自体にバグがあんのか!?」
「そうですよ。画面に……時間しか見ていなかったんですね」
「おい! バグとか……仕事とか……ないよな!? そんなものないよな!?」
「ありますよ。バグも仕事も」
「AIによる自動修正やら自動生成でもどうにもなんないのかよ!」
「なりませんって! だから、しっかりと見てください。このログを」
押し付けられたモニターからログを適当に流し読む。最初は面倒くさそうに見ていたが、次第に食い入るように見ている。
「……は? 待て待て待て待て。どうしてもう、魔王陛下がいっらしゃるんだよ!」
「さあ? 何故かいます」
「先代さんは農業を勤しんでいるんだよな」
「はい、こちらで開始と共に農業を。プレイヤーと関わったりしていますが、基本的にボッチプレイをしています」
「おいおい、ボッチって……ここに美人さんがいるだろ? 何故かLVが高いが」
「それはNPCです。因みに、魔王の副官でした。先日辞表を出したらしく今は……ニートです」
『魔王』の補助役として生成されたNPCがニートになるなんて誰が予想しただろうか。
「……」
なんて言えばいいのか。
「AIに制限を掛けますか?」
「……いや、無理だ……SNSを見てみろよ……絶賛の嵐だぞ? リアリティが高いって、これがR指定だったら……とか何とかヤバいのもあるが」
「確認済みです。ですから大変でしょう?」
「ん? なんか妙に慌ててないな……ああ、なるほど。君のことだ。打開策の千や万はあるんだろ?」
「ハハハ、責任者はあなたです。私は上司に報告を――と。ああ、大変です。もう、帰宅をしないと上司に怒られてしまいます」
「あ、おい! 待て貴様!! 共に首になろうぜ!」
「イヤですよ! 今どきゲームを作れるなんて早々ないんですよ! どんな思いしてゲームに携わる会社に入ったと思ってるんですか!?」
「ッテメェーー! 直接俺に言ってきたのは死にたくないからか!」
「ええ! そうですよ!!」
「俺はメディアにも露出してんだぞ!! この件が漏れたりしたら……この国からおさらばするしか……」
「頑張ってください」
「俺の英語力知ってるだろ!? 数字もロクに言えないんだぞ!」
「翻訳器持って行けばいいじゃないですか」
「俺の持ってる物の規格は日本でのみ使用可能だ。それに海外で使えば俺の貯金が一瞬で溶けるほど金が掛かるんだそ!!」
セールで安くなっていたため、買ってみたら海外から繋げようとすると万札を湯水の如く浪費しないとならない代物だった。因みに、国内は無料で翻訳してくれる(英語のみ[一般会話レベル以下のみ]それより先は課金制)。
「はっ! 精々泥水で渇きを誤魔化すことですね!」
「くっ、こうなれば……マリア! 部屋の鍵を施錠しろ!!」
『申請を受理しました』
「はははっ! これで俺よりも権限が高い奴が来ない限りお前は出られない。っと、そうだな。マリア、この部屋の通信をブロックしろ」
『申請を受理しました』
「――っ……あんたって人は……とんだクズ野郎だな!!」
「へっ、逝く時は一緒だぜ」
◇
殴り合いには流石に発展しなかったが、醜い言い争いは行われた。互いに思いの丈を言い合った後、友情を育んだのか共に背をくっつけ床に座っていた。
「はぁ、それで幕内さん。これからどうするんですか」
「この件が漏れでもしたらヤバイよな」
「ええ、流石に配信されたばかりでこれから人口も増えるはずなのにストーリー完結は……」
今の問題点はストーリーが終わってしまうこと。いや、正確には終わりはしない。LVなどの関係上、ストーリーの完結にはまだまだ先のこととなる。
だが、完結間近の状態からスタートとなると新規のプレイヤーはどう思うだろうか。
簡単だ。
『アトランテイスに行こう』だ。
『アトランテイス』は1ヶ月無料で、月々金を払いゲームをする月額定額制。その値段は安く小学生の少ないお小遣いでも十分に楽しむことができる。加えて、自分達で一から道具を集め価格を決めるそうで……楽しい。
二人共敵情視察するためにやっており、嵌っていたりする。
「だよな。マリア、ストーリーの進行状況はどれくらいだ?」
『「勇者」の誕生を除き14の鍵が解放されています』
「……最悪NPCを殺すしかないですよね」
「まあ、それは最後の手段だな。今の状況が最悪ではないのはプレイヤーの保有者が少ないって所だ」
「ええ、最悪NPCから取り上げて侵入不可の『神殿』に置ける所ですね」
「ああ、その通りだ。『聖戦士』が誕生したが、まあ、うん、これは……仕方ないとしか言えないよな」
「……はい。これはどうしようもないです。『魔王』側は魔将がいて仮に『勇者』が現れてもバランスは成り立ちますからね」
「『聖戦士』に制限を掛けたいな」
「ですね。このままだと剣さんによって神話級のレイドボスが倒されていきますよ」
「そん時は前のように『龍』を動かす……」
「また、文句言われますよ。ベータで物語が終わるのを避けるために仕方なかったとは言え、使うには早すぎます」
「いやいや、『龍』とはそういうものだろ? 汚いと言われたとしても俺たちは売上を上げるしかないんだよ!」
「……マリア、『龍』を未知空間に派遣して」
『申請を受理しました』
「は?! お、おい!! マリア、中止だ!!」
『申請が棄却されました』
「ッテメェ」
「ハハハ、これで強制リセットはできませんよ」
「マリア! イベントはどうなってる!!」
『「闘王選抜試験」は最終段階に進んでいます。「星海之槍選定の儀」は難航しており、目的地に到着するのは不可能です』
「『星海之槍選定の儀』のイベはどこでもできますし、進めては?」
「おい貴様……それをやってはあと一つで鍵が揃うだろ?」
「ええ、ですからイベの影で回収するんですよ。神器をすり替えるのもいいとは思いませんか」
「?」
「鍵の回収と共に人々の目をストーリーから逸らすんですよ」
「あ、ああ、うむ、なるほど、な……それならば……うむ、いけ、うむ……できるよな?」
「ええ、大丈夫でしょう。同時進行するイベ……2つに参加できないと愚痴る人々……何とかなりますよ」
「……ええいままよ! マリア、イベントの告知を開始してくれ!」
『申請を受理しました』
「そう言えばバグはどうなった?」
「これで負荷も減りますし様子見でいいんじゃないですか? 許容範囲とは言え、処理が多過ぎたから起きたバグの可能性もありますし」
「……貴様がそう言うのなら……やっぱり技術班に『マリア』を見せた方がいいんじゃないか?」
「中はブラックボックスですよ。上がこれでゲームを作ると言った以上、何が起きても実行するしかないんですよ」
「……八千代先輩の亡霊でも出てきそうだな」
「八千代博士は死んでませんよ」
「……まあ、そうだな。でも、亡くなった聖愛ちゃんの名前を付けるほどだからな」
「いや、ですから死んでませんって! 仮に出て来ても本物ですからね」
「幽体離脱とかあるだろ?」
「幕内さんって信じる派なんですか?」
「ったりめーよ! 科学では証明できないことが世の中たくさんあるだろ?!」
「あー、はい。さっさと帰りませんか? 彼女が待ってるんで」
「……お前、彼女いたのか?」
「え? あ、はい。お金が溜まり次第盛大に式を挙げたいと言われて……まだ籍は入っていませんが」
「――ッソヤロー! 独身同士かと思っていたのに!」
「独身同士じゃないですか」
「そういう意味じゃねぇーよ!!」
「幕内さんも一応異性と同じ屋根の下で過ごしてるじゃないですか」
「かあーちゃんだよ! お袋とだよ!!」
「いいじゃないですか。家に帰れば温かい飯が食えるだけ」
「? そう言えばそうだったな。よく飲みについて来るよな」
「彼女、料理なんてしたことないらしく、以前缶詰めをそのまま渡されました」
「は? 今どき料理出来ないとか……どういう脳みそしてんだ?」
「AIキットに任せればいいのに、彼女、アレンジ好きでして……若いっていいですよね。ほんと……」
「若いって……ん? は? お前今年で二十歳になったんだよな? それより若いって……」
「あ、幕内さん! 警察呼ばないでくださいね! しっかりと親御さんに許可を頂いていますので!!」
「いや、流石にそれは嘘だろ? ロリコンとか見損なったぞ。それも法に触れるなんてなっ」
「いや、ですから! 法には触れてませんって!! 親友の妹で、幼い頃から一緒にいて」
「ロリコンじゃねぇーか!!」
「もう、今じゃ育っち育って!!」
どうにかこうにか喚き散らす幕内を羽交い締めにして懐から取り出した携帯情報端末から親友とその妹が写っている写真を引っ張り出す。
「……ロリ、じゃないな」
「言ったじゃないですか」
「俺としてはこっちの方が好みだな」
「ああ、彼女ですか」
「――!? 知ってるのか!?」
「いえ、特には……この写真を撮った日にたまたま来てたらしく……それで写真に映ったとかなんとか」
「ん? これって竹中か!? 行けば――」
「はい、犯罪。幕内さん、警察呼びますよ。彼女まだ中学生だったはずですから言い訳できませんよ」
「じょ、冗談だよ……。俺としてはもっと出るところは出ていてくれないと……ああ、引っ込む所は引っ込んでないとな」
「幕内さんは爆乳好きでしたね」
「おう。巨乳なんて生温い。爆を知らないからこそ幼稚な見た目に騙される。爆はいいぞー。あ、そうだ。カワエエ娘が新しく入った店があるんだが、行くか?」
「行きませんよ。そういうの辞めてください。義父さんに殺されるんで……割とマジな話しで」
『告。一定条件を満たしました。■■を魔神へと変質……完了しました。Wクエストの発生を確認』
「あ?」
「幕内さん、魔神ですって」
「おう、そうだな。……そう言えば、疲れていないか? 疲れてるよな?」
「そう、ですね」
「この際だ。彼女に任せてはどうだ?」
「彼女、ですか」
「ああ、せっかくスカウトして給料だって払ってるんだし、時間外労働くらい構わないだろ」
「いいと思いますよ。まあ、彼女はこれからもそして今までもゲーム世界にいますけどね」
2人は逃げることにした。AIを導入したのだって、業務の効率化よりも仕事をしないため。
曰く付きで安くなってるから、と上を頷かせたと言っても、購入したのは経営陣。
「よーし、明日は有給を使って休みにしよう」
「あ、いいっすね。今ちょうど夏休みらしいんで、どこか夢の国にでも行って楽しんできます」
「おう! どうせなら、泊まりがけで有給使い切れ!」
「それは流石に……もっとヤバくなった時に残しておきます」
「まあ、そうだな……って言ってもそういうヤバい時は自宅で仕事になるからな」
「……あの制度、ですか」
「ま、まあ、さっさと帰りたまえ、若者よ」
「はい、幕内さん。達者で」
2人は手を握りしめ熱い抱擁を交わしたあと、各々の帰路に着いた。
「ふっ、今夜はボトルを開けるか」
これにて第一章閉幕です
閑話をひとつあげたら、新章突入です!
ゥワ━ヾ【喜・∀・】ノ━ィ!!
その名も
☾ 不完全な足並み ☽
です
これからも『OSG』をよろしくお願いします┏○ペコ
(꒪ཀ꒪)アトランテイスは異世界に行きました((/∀≦\)てへっ♪♪)