〝LOG OUT〟上
今回は少なめです
使徒の蘇生先は登録した街など。蘇生できるまでに時間が掛かるため、ドロップアイテムについては全員が復活してからになっている。
さて、ボス戦を乗り越えたアーヤとリリーは死都を歩き森を突き抜けていた。
2人での帰還となるが、その道程に敵と呼べるような空いては皆無。まあ、エリアボスのあの竜が出てくれば一瞬で終わる紙装甲ではあるが。
「あの剣ってどうしたの?」
アーヤはふと思い出したことを口にした。[神性剣]はあくまでも神性属性を得るOSであったはずなのに、剣を召喚した。
「ベータの時に使ってた剣だよ」
星影之剣はベータ版の時に愛用していた武器。斬れ味は落ちることなく、欠けることなどありえない至高の武器――そのひとつ。
「はぁ……なんか微妙だよね。ゲーム的にどうしても勝たせかったのか、それともあの終わり方が仕様なのか……」
色々と納得できていなかった。それは当然なことだ。確かに、あそこで『聖戦士』を獲得していなければ敗北していた。
仮にもしも、ゲームの進行上ここでの勝利が必須であれば一体何があるのか。いや、そもそも『魔王』が誕生していなければ『聖戦士』の獲得はありえない。
「ああーーー!! もう、わかんない! さっさと街に戻ろ!」
ドツボにハマっていく思考に嫌気を指したリリーは走った。
考えるのが面倒なため、逃げた。
「あ」
出遅れたアーヤは呆然とその背を見送った。
布袋(大)にドロップアイテムを詰め込んでおり、走るにはどうしても邪魔になってしまう。純粋な敏捷値ならアーヤの方が高いが、荷物ありとなると筋力値もなくてはならない。
そんな訳で遠ざかっていく背を呆然と見ていた。
◇
「――なんと!? あの邪悪なる根源、その尖兵を倒したのですか!?」
クエスト報告のため神殿長を訪ねたアーヤは気圧されていた。
どうしてそこまで興奮するのかわからないアーヤは顔を引き攣らせていた。
「あのナントカかはわかりませんが、彼の地を跋扈していた不死族達は消えていきました」
ハーゲンティ討伐後、ダンジョン内と死都を跋扈していたほとんどの不死族達は消えた。ハーゲンティが召喚もしくは製作――使役していた物が大半だったからだ。
時間経過で不死族達はリスポーンするだろうが、そのLVは大きく下がるに違いない。
それを聴いた神殿長を両手を握り締めて感謝を口にする。
「これも何もこう見えて様のお導き。ありがとうございました」
光明神はモンスターを神敵としている。モンスター討伐を推奨しているため、それを成した者達へは報酬が支払われる。
モンスターが住まう森を拓き都を築いた者にはその地を統べる権利を與え、モンスターと戦う術を生んだ賢者には永遠の寿命を授け、そしてモンスターを倒した者にはそれ相応の報酬を与える。
「ああ、そうでした」恍惚していた神殿長は何かを思い出し、背後に控えていた聖職者達に目を向ける。「冒険者の方にはこちらを」
金色の盆に乗っているのは巻物と2つの本、そして竜金貨が二十枚重ねられている。
《権利書によって土地を獲得しました》
《一定以上条件を満たしました》
《職業『支配者』が解放されました》
《職業『執政者』が解放されました》
「? 何?」
「権利書でございます」
巻物は土地の権利書。
「彼の地を治めていた伯爵閣下があの邪悪を滅ぼした者に託すようにと遺言を遺し、それが神により認められました」
次は2つの本。
「それとこちらが転生書でございます」
職業『支配者』と職業『執政者』へとなるための物。使用することにより、職業を就くことができる。売却可能アイテムではあるが、職業を解放していない場合は使用できない。
因みに、一度きりの消費アイテム。
「あなたこそが彼の地の正当なる保有者でございます。神もそれを望まれていることでしょう」
「……あ、はい」
その次は竜金貨。
「こちらは伯爵が遺した竜の呪いが刻まれた金貨でございます」
「……え? 呪い!?」
「はい。竜の呪いは最高の魔法媒体と呼ばれている物です。何か呪術を行う際にご使用ください」
「あ、はい……」
アーヤの中で竜金貨を売却しようと思った。それからは何故か形容し難い強力な匂いがするためだ。
◇
神殿長からクエスト報酬を受け取ったアーヤは待ち合わせをしていたリリーの所に向かった。
「あれ? アーヤ遅かったね」
リリーは仕分けを終えてドロップアイテムの詳細鑑定を行っていた。
てっきり直ぐに終わるかと思っていたが、想像を越える長さだった。
「え? あ、うん……」
「なにかあった?」
「う、ううん、何も……平気……大丈夫」
今は疲れているため、あの話しをするのは辞めることにした。このまま放置すれば、何もなかったことになるのでは、と少し思ったからでもある。
「流石に疲れたから帰る」
「え!? まだ夕食時じゃないよ!」
現実世界では15時辺り。時短に時短を加えて更に時短すれば、十数分で作れる。
そう考えれば時間はまだまだあるし、夕飯なんて有り合わせで何とかなる。カップ麺やらインスタント食品でも腹は膨れる。
「いや、普通に家に帰る。夏休みの宿題も終わったし、一週間以上も家を空けてるし」
流石にこれ以上居座る気にはなれない。
別にこれで今生の別れとなる訳では無い。歩いて行ける距離なのだし、いつでも会うことはできる。
「どうして捨てるの!? おいしいごは――は! 次はアーヤの家でお泊り会ってこと!」
「あー、はいはい。それで、いいから。じゃ、帰る」
若干リリーに引いたが、家に帰りたいアーヤは頷く。
妄想をダダ漏れする親友を他所にアーヤはさっさとログアウトをクリックする。
データが更新され仮想世界との接続が遮断されて意識が現実世界に引き戻される。
◇
寄り道はせずに自宅へ向かったため、早く着くことができた。その代わり汗は酷く、服は嫌悪の塊と化している。
「ふぅ、やっと家に着いた……それより、最近日に日に暑くなってるよね」
扇風機だけでは夏を越せないと言われるほどに熱くて暑い。
まあ、冷房装置が進化しているため、外出しなければ暑さなど敵ではない。
それはそう、絢音は家に到着した。門を開けて中に入る。
玄関扉にあるカメラに顔を近づかせてカメラを見るが、解錠する際の音が鳴らない。
虹彩認証によって開くはずの鍵が開かない。発売当初は開かないことは誤認により他人でも開くことはあった。だが、今どき開かないのは明らかにおかしい。
「おや?」
もう一度試してみるが、やっぱり開かない。
アナログ式の鍵も一応あるが、それは自宅内。自動式なため鍵は持ち歩かないのが普通。
とは言え、そういう時の対策は幾つかある。
「壊れたのかな……まあ、いっか」
カメラの下にある板に手を乗っけるとガチャリと解錠した音が聞こえ少し扉が開く。
指紋認証も備え付けているため解錠された。
「ただいま」と言うが、何も返ってくることはない。
これからも秋庭綾音の日常は続く。
ブクマ、評価ありがとうございます( ˶ˆ꒳ˆ˵ )
年末年始も投稿する予定ですので、たとえ暇潰しでも読んでくだされば光栄です