77話 目撃
「? なんだよ」
「話を聞く限りだと、フレデリック殿下はエリザベートと婚約破棄するために動いてるのよね?」
「まあ、おそらくは」
「なら、いっそエリザベートのことはあきらめて、殿下を説得するのはどうかしら?」
「どうやって?」
「これは……まあ、私の予想なんだけど、殿下ってたぶん、あの子を除いて、ほかの女の子には興味がないというか、そもそも眼中にないと思うのよ」
「あの子って?」
あの子に該当する人物に僕は大方の予想はついた。しかし、ここで僕が彼女の名を口にするのはいささか不自然であるため、あえて僕はそんなことを言った。
「アリーシャ・フローレンスよ」
やはり、予想通りであった。
エリザベートのことで頭がいっぱいだったため、肝心のアリーシャのほうを監視するのを忘れていた僕の落ち度ではあるが、やはり、攻略対象である殿下とアリーシャの関係ははたから見てもわかるほどに進行していたのだ。
「身分的にはあり得ないけど、どうもあの子に対しては殿下も心を開いてるみたいなのよね。正直、あの子の何がいいかはわからないけど」
普段のフレデリック王子はとにかく冷静で、あまり感情を表に出すタイプではない。とにかく周囲のことに興味のない、しかし、それが犯しがたい魅力を醸し出す、完璧な人間といった印象を受ける人物だった。
しかし、そんな氷のような表面を持つ反面、謀略的な内面をかき乱されることに弱く、表裏のない主人公に無意識に攻め込まれて、気づいたら主人公のことを好きになっていた、というような流れだったと思う。
「ニーナはそのフローレンスさんとは話したことあんの?」
「少しだけね。正直、あんまり好きなタイプじゃないわね。無礼だし、無駄に顔もいいし。でも男ってああいう、ちょっとドジでぽわぽわした感じの子に目を奪われちゃうのかしらね。私には関係ないけど、あれは絶対、女子受けはよくないわね」
「そ、そうすか……。で、仮に殿下がフローレンスさんに心を開いてるとして、それと殿下の説得に何の関係があるんだ」
「さっきも言ったでしょ? 殿下はあの子以外は眼中にないのよ」
「?」
「鈍いわね。殿下はあの子が離れれば女なんて誰でもいいのよ。だからエリザベートなんてゲテモノを婚約者にできたのよ」
「根拠は?」
「ないわ。まあ、しいて言うなら少なくとも殿下は顔で判断する人じゃないわね。私を見ても顔色一つ変えないもの」
「遠回しに自慢話か」
「事実を言ったまでよ。べストールだって再会したときは私に見とれてたでしょ?」
「ああ……あれは一時の気の迷いみたいなもんだ」
「もしかしなくてもケンカを売っているのかしら?」
「……まあ、ニーナの言い分はよくわかった。でも、その作戦の場合、フローレンスさんを殿下から、はがさなきゃいけないわけだけど、その辺はどうするのさ」
「フッ、大丈夫よ」
なぜか少しだけ得意げにニーナはそういった。予想通りの質問だったのだろう。
「あの子をほかの人とくっつけちゃえばいいのよ」
「ほかの人って? 一応、ライバルが殿下なんだからそう簡単にいくとは思えないけど……」
その言葉を口にしたとき、ふと僕の頭にも思い当たる人物がいた。
「ガーラン殿下か、ヘンリー殿下か」
「正解。よくわかったわね」
なるほど、やっぱり僕が知らないだけでアリーシャはちゃっかりと攻略対象全員と仲良くなっているらしい。
逆ハーレムでも目指してるのかと疑いたくはなるが、おそらく無自覚のうちにそうなっているのだろう。作中のアリーシャ・フローレンスとはそういう人物である。
「あの二人も多分、あの子のことを憎からず思ってるはずよ。二人ともあの子と話すときは表情が違うわ」
「そんなに違うのか」
「ええ。ガーラン殿下は私には作り笑いしかしないくせに、あの子の前では完全に素の表情が出てる。ヘンリー王子もいつも私と話すときは仏頂面のくせにあの子と話してるときは、やさし気な表情を見せるわ」
「それはもはやお前が嫌われてるだけなんじゃないのか……」
少し心配になってくるわ。
「と、とにかく、二人ともあの子といるときは態度が全然違うのよ!」
ニーナは少し表情を引きつらせてそういった。なんとも説得力のないしめくくりである。
まあ、言っている内容に嘘がないことを知っている僕は疑いはしないが。
僕は苦笑いを返して気まずくなり、視線を窓の外に移した。
その時、僕の目には信じられないものが映っていた。
あまりの衝撃に顔面が硬直する。
そんな僕の様子に異常を感じたのか、ニーナも僕の視線の先を追った。そして僕と同じ反応を見せた。
そこにはまるで狙いすましたかのように、アリーシャと、フレデリック王子が二人で楽し気にデートをしていたのだ。
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