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7話 豚令嬢の憂鬱

「そ、その暴力に訴えるのも最悪です!」


 血反吐を吐くように僕がそう呻くとエリザベートはボロボロと大粒の涙を流しながらこちらをにらみつける。


「あんたに何がわかんのよ!」


 あ、ヒスりだした。


「暴力に訴えて何が悪いのよ⁉ 性格が悪いとか余計なお世話よ! あたしのセンスが悪いですって? あんたのセンスがあたしに追いついてないだけよ! あたしが臭いとかデタラメ言ってんじゃないわよ! フローラルな香りがするわ! あと! あたしはデブじゃない‼」


 そう言って最後にもう一度エリザベートは僕を踏んずけて走り去っていった。


 僕はというと踏んずけられた痛みで立ち上がることができず、その場にうずくまってヒューヒューと呼吸をするのみであった。


 か、完全に失敗した。さすがにしょっぱなからいろいろ言いすぎたな。今さらながら自分の言葉を思い出し、反省する。


 まだ大して仲がいいわけでもないのだからもっと手順を踏むべきだった。クッ、これからどうしたものか……。


 僕がそう思っていると食堂の扉が開く。

「おはよう。ベストール君」


 扉の向こうから聞こえる透き通るような女性の声。奥方だ。


「お、おはようございます」


 地面にうずくまる僕を奥方はニコニコとしながら眺めていた。


「ずいぶん苦しそうね」


「ええ、まあ、はい」


「娘の説得は失敗かしら」


「あはは……まあ、そうですね」


 乾いた笑い声とともに僕は目をそらしながらそう答える。


「立てる?」


「な、なんとか」


 僕は踏みつけられた個所を抑えながらなんとか立ち上がり、奥方を見上げる。


「ちょっと私についてきてくれるかしら?」


「……? わかりました」


 奥方は僕に笑いかけて、僕が立ち上がると泉に向かった。そう、忌々しきあの噴水の泉である。


 しかも奥方はちょうど僕が生死をさまよった位置で立ち止まった。


「昨日、エリザベートもここに来ていたのよ」


 奥方は泉をのぞき込み、ふいに口を開く。


 その言葉に、エリザベートが昨日、泉をのぞき込んでいたことを思い出す。


「ねえ、ベストール君、あなたは泉をのぞき込んだことはあるかしら?」


「そりゃ、まあ、ありますけど……」


 僕は奥方の質問の真意がいまいちわからず、とりあえず泉をのぞき込む。すると、水面にはっきりと自分の姿が映し出される。それ以外にも特に変わったところはない。普通のきれいな水である。


「あなたは、かわいい顔をしてるわね」


 またもふいに奥方が口を開く。


「え、急にどうなされたんですか?」


 そりゃ、八歳の子供の顔なんて大人から見ればみんなかわいいもんでしょう。いや、エリザベートは別だよ?


「わからないかしら」


「申し訳ありません。何がでしょうか?」


 尋ねるも奥方は微笑むばかりで答えてはくれなかった。仕方なく僕は水面を見直し、今までの会話を思い出す。


「……あ」


 その時、僕は泉を見つめるエリザベートの憂鬱な表情を思い出した。泉を見つめる、すなわち、自分の姿を見てエリザベートはため息をついていたのだ。


「わかったかしら。あの子も女の子なのよ。あなたの言い分は正しいのかもしれないけど、そんなことはあの子自身が一番よくわかってるのよ」


「なんていえばよかったんですかね……」


 僕は前世でも女の子とはあまりかかわりがなかった。いや、男相手でもなかなか最低なこと言ってるけど、それにしたって女の子にどんな言葉をかけるべきなのかわからない。


「少なくとも、さっきみたいなのはダメね。私だって怒るわ」


「……」


 黙り込む僕をしり目に奥方はため息をつく。


「私が少し話してみるわ。そこから先はあなた次第よ」


「……はい」


 自信なさげに返事を返すと奥方はスタスタとエリザベートの部屋に向かっていった。僕もそれについてエリザベートの部屋の前までくる。


 部屋の中にはさすがに入れてもらえず、奥方は「ここでまってて」と言って扉の前に僕を置き去りにした。



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