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43話 会議


「なんか、思ってたよりも静かですね」


「初日から殺し合いになると思ったか? 実際の戦争はこんなもんさ。最初のうちは前線でちょこちょこ小競り合いをやって、その間に情報をできる限り収集して、勝てると思ったタイミングで勝負に出る。ある意味、博打みたいなもんさ」


「掛け金は僕らの命ですか」


「不本意だがお偉いさん方はそれをお望みだ。べストール、後方だからと言って気を抜くな」


 開戦からやく一月近く立つ。が、目立った変化は今のところなにもない。今が戦争中であることなど何かの冗談なのではないかと思われるほど平和なものだった。


 国境の向こう側に陣取る敵は何もしてくる様子もなければ、もちろん守り手のこちらから打って出るようなこともない。


 しかしだからこそ、僕は他人以上に気を張っていた。


 もしかすると、敵は僕たちを確実に殺すための準備を整えているのかもしれない。あるいは、情報が入っていないだけで、すでに西側からこの国は攻略されているのかもしれない。


 そんな考えが脳裏をよぎってはなれないのだ。


 こんなものは僕の勝手な予想でしかないのは重々承知している。しかし、それでもどうしても思考がそういう風に僕を誘導するのだ。


「気を抜くなと言っても深刻に考えろと言うわけじゃない」


「は、はい」


「顔でも洗ってこい。会議までにはその顔を直してこい」


 無意識のうちに表情に不安が現れていたらしく、エドモンドさんに一喝されてしまった。


 これではいけないと思い、僕は深呼吸をして自分の両ほほをたたいた。


「よし!」


 少しはまともな表情になったと思い、会議室に向かった。


 ここでは毎日隊長格が集まり、今後の方針を話し合っている。しかし、最近は敵が攻めてこないせいか、緊張感に少し欠ける。


 エドモンドさんの後ろで議事録をとる僕はそんな風に思っていた。


「奴さん方、ずいぶん慎重みたいだが、どう見る、団長」


 メンバーがそろうと、アーギュが足を組みながら特に真剣に考える様子もなくそう言った。


「兵たちもずいぶん退屈してるぜ。何も俺たちは兵にタダ飯を食わせるために来たわけじゃない。早いとこ何とかしてくれないとむやみに兵糧を消費するだけだぞ」


 続けざまに、二番隊の隊長、ハラルドが口を開いた。


「こちらから打って出るようなことはできるだけ避けたい。だが、さすがに一月近くもあの大軍を用意しておいて何もしてこないのは不可解だ」


 エドモンドさんはもっともなことを口にするが、何かいい案があるというわけもないようだった。


「俺たちの物資が尽きるのを待ってるんじゃねーのか?」


「退路を断たれているのならそれもありえるが、今回はその線は薄いだろう。運送経路はしっかり確保されてるし、何より連中のほうが数は多い。帝国からすれば採算があわん」


「なら、カロリス山脈から挟撃しに来てるとか」


「ありえんとは言い切れんが……今のところ伝令からはそういう話は上がっていない。第一、あの山脈をこの時期に踏破するのは至難の業だ。軍隊規模であればなおさら無理があるだろう」


 次から次へと意見は飛び交うもどれも信ぴょう性に欠けるものばかりであり話は一向に進むことがなかった。


 大体いつもこうなのだ。昨日も結局結論らしい結論も出ないまま解散であった。


 僕は記入中の議事録で口元を隠し、静かにあくびをした。戦争中で気が張っているとはいえ、長々とおっさんの会議に付き合っていればあくびの一つも出るというものだ。


 僕があくびをしてから数分で意見が出尽くしたのか、一同はだんまりを決め込んだ。そのタイミングで僕は議事録にまとめられた内容を改めて目を通す。


 あらゆる可能性が考慮されているが、やはりどれも信ぴょう性に欠ける。本当に帝国側の考えが読めない。


 こういう時、僕が物語の主人公とかだったら妙案の一つでも浮かぶのだろうが、まったくそんなものは思いつかない。


 どうしたもんかなぁ……そういえば、日本にいたころに読んだ漫画にもこんな状況があったなぁ。


 あの漫画じゃ、確か膠着状態が長いこと続いて敵が油断してる隙に敵の隣の領地を懐柔して挟み撃ち、なんて展開だった。


「挟み撃ちかぁ……」ご都合主義満載のあの漫画でなきゃできっこないんだろうなぁ。歴史上でもそんなことができたのって、ハンニバル並みの天才くらいなものだ。


 僕は深くため息をつき、前を向きなおした。


 すると、なぜかみんながこちらをじっと見ていた。


「え、あの、どうしたんですか」


「今お前、なんていった?」


「え?」


「挟み撃ちとかいってただろう」


 どうやら無意識のうちに口から出ていたらしい。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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