4話 モンスターペアレンツ
「お嬢様はデブです。お嬢様はブスです。お嬢様はゲスです。お嬢様はクズです。ほめるところが一つもありません。そんな人に欲情するって、罰ゲームじゃないんですから、あり得ませんって」
「き、貴様……!」
僕の怒涛の罵倒に侯爵はどんどん顔を引きつらせていった。
「旦那様、このままでは将来、とんでもないことになりかねませんよ。見た目もさることながら、性格があれではどこに出しても恥ずかしいお豚様になってしまいますよ」
「言わせておけば、貴様! 取り消せ! その発言のすべてを取り消せ! エリザベートは私の宝、いや、国の、世界の、宇宙の宝だ! そのエリザベートをお豚様だと⁉ 言いがかりも甚だしいぞ! さては貴様、エリザベートの麗しい姿に嫉妬し、そのようなことをのたまっているのだな⁉ そうであろう!」
めんどくせぇなあ……。この人には言葉が通じないのか?
「違いますよ。バカですか。ただ暴言を吐くだけの贅肉の塊になるくらいなら死んだほうがマシですね。旦那様、考えてもみてください。もし他所のご令嬢が、齢八歳にして六十キロオーバーで、暴力的で、センスのかけらもない娘だったら、縁談の話を持ち掛けられて受けますか? いえいえ、そんなはずはありませんよね?」
「それは他所の令嬢の話だ! エリザベートにとってそのようなことは些細な問題でしかない!」
「いや、めっちゃ重大な問題ですよ!」
「ないったらない!」
侯爵は威厳などすべてを捨て去って子供のように僕を罵倒した。この人は自分が大人だということを忘れているのだろうか。
「このまま太らせてたらよくない病気にかかって早死にするかもしれないですよ?」
「エリザベートは神に愛されている! 病気になどならない!」
「センスがないと周りからバカにされますよ!」
「時代があの子に追いついていないだけだ!」
「性格悪いと友達もできませんよ!」
「あの子は私が守る! ゆえに友達など必要ない!」
「いや、それじゃあお嬢様がかわいそう、というか、あんたそれでも父親か!」
「間違えるな! 私はエリザベートのパパだ!」
ダメだ……。現代人だから感性が合わないとかそんなもんじゃない。会話が成立しねぇ。コンビニバイトでクレーマーに怒鳴られた時のほうがまだマシだったな。
侯爵の暴論に僕は返す言葉もなく、そこから長々とまたもエリザベートの賛美の言葉が始まる。しかし、すべて右から左に言葉はすり抜けていく。
後ろで呆然とたたずんでいる使用人たちも、また始まった、といったような風で、頭を抱え込んでいる。
その時、柱の陰から扇子を持った控えめながらも美しいドレスを着た女性が静かにこちらに歩み寄ってきた。それでもなお、侯爵はエリザベートの賛美をやめる気配はなく、むしろそれは苛烈になっているようにも見えた。そして最後に、
「もういい! 貴様を不敬罪でギロチンにかけてやる! おい、この者をとらえよ!」
「何バカなことを仰ってるんですか!」
侯爵が僕を指さし、使用人たちに命令しようとしたその瞬間、柱から歩み寄ってきた女性がその扇子で侯爵の頭をたたいた。
「なんだ! エレノア! 私は今忙しいのだ! 要件なら後に……」
「ちょっとこちらに」
エレノアと言われた女性はそのまま侯爵の襟をつかんで柱の陰まで引っ張っていってしまった。
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