表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/166

22話 カレン・エインベルズ

「やっほー」


 僕はがらにもなく門番にそんな挨拶をしてしまう。


「おう、ベストール。なんかいいことでもあったのか?」


「まあね」


 そう言って特に立ち止まることなく僕は門を通過した。本来、屋敷に入るにはそれなりに身体チェックを受けるのだが、もはや僕は顔パス状態である。


「ん?」


 これでもかというほど能天気に宿舎に向かっていると、途中、気になるものが目に入った。


 伯爵との再婚相手。新たらしい奥方である。


 その他にもあまり見慣れない三つ編みの少女と、ニーナがいる。中庭で優雅に午後のティータイムといったところだろうか。


 そういえば、新しい奥方には妾時代に作った伯爵との娘がいるって話だっけ。あの子のことだろうか。


 僕はエドモンドさんから聞いていた新しいお嬢様の特徴を思い出した。


 年齢は十三歳、背丈はニーナよりもやや高め。栗毛の三つ編みと顔には少しばかりのそばかす。上唇は少し裏返っていて、髪もほかの貴族の女性と比較すればそこまで美しいものではない。つまるところ、あまり美人な部類ではない。


 うん、遠目からだから確証はないけど、たぶんあの子だ。名前は確か、カレンだ。


 今まで、カレンが作中に登場することはなかったため、特に気にすることもなかった。


 それに、再婚してから一月くらいたつけど、今まで一度も見たことがなかった。まあ、僕が忙しかったってのもあるんだけど。


 初めて目にするカレンの印象は、とにかく普通の女の子といったものだった。もともと平民として育ってきたからというのも一因なのだろうが、やはり、隣にニーナや奥方がいると見劣りしてしまう。


 奥方は伯爵夫人らしく化粧や衣装で着飾っており、華やかな印象を受ける。


 ニーナも又、全身から育ちの良さがにじみ出ており、奥方のような華やかさはないものの、静かな儚さから来る独特の魅力を発していた。


 この二人に囲まれているカレンははたから見れば何とも滑稽に見えた。


 だというのに、あの場にいる誰よりもカレンは楽しそうにしていた。対して、ニーナは無表情。


 おそらく、あの二人はそこまで仲が良くないのだろう。


 僕は心の中で小さくそう思うとそそくさと宿舎に走って行った。


 今思えば、この時少しでもニーナの変化に気づいて、行動を起こすべきだった。


 翌日からその時間帯になると毎日三人は庭に出て紅茶を楽しむようになった。その姿は訓練中でも、見ることができ、飽きもせずよくやるものだと思っていた。


 僕は作中において大きな影響を及ぼす予定のニーナから目を離すことができず、訓練中はよく茶会の方角を眺めていた。


 中にはニーナに気があるのではないかと茶化してくる兵もいたが、適当にあしらっていた。


 人の目があるからか、ニーナは驚くほど静かなものだった。最初はまだ少しではあるが三人でちゃんと会話が回っていたように見えた。


 しかし、次第にニーナとカレンの間で会話がなくなっていった。いうなれば奥方の伝言ゲーム状態である。


 そんな状態がしばらく続き、今ではニーナはほとんど口を開いていない。対照的にカレンは日に日に笑顔が増しているような気がする。


 さすがに何かおかしい。そうは思うものの、特に何か行動を起こすことなく僕は毎日飽きもせず訓練に励んでいた。


 そんなある日のことだった。とうとう、ニーナが茶会に姿を現さなくなった。それでも僕は何もしなかった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


ブックマークや、評価していただけると作者のモチベーションにつながります!


よろしくおねがいいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ