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21話 鍛冶屋

 町の中央にある小汚い鍛冶屋。


 中に入ると武器や鎧があちらこちらに並べられており、店の奥は工房になっているようだった。


 雰囲気はあまりきれいとは言い難いが、このやぼったさが逆に中世の鍛冶場そのものを体現しているようで、僕にはむしろこちらのほうが好ましくすらあった。


「いらっしゃい……ってガキか。おい、坊主、冷やかしなら出ていきな」


 髭づら(髭面)の店主はしっしと手を振って悪態をついた。


「ここって、特注品の作成とかってできる?」


「? できないことはないが……金は持ってんのか?」


「あんまり大きな声では言えないけどね。ちょっといいかな?」


 十一歳の子供が大金を持っているなど、大声で言おうものなら追剥にみぐるみをはがされる。運が悪ければ人さらいに連れ去られて奴隷だ。


 僕はそういうと、稚拙な設計図を店主に見せた。


「こいつは?」


「鉄砲っていう、ものすごい速度で球を発射させる武器だよ。ただ、素人の設計だから正確性に欠けるから設計図を書き上げるのと、製品を作るための金型づくりを手伝ってほしいんだ。できる?」


「……」


 店主は興味深そうに口元を抑えながらしばらくの間、まじまじと僕のなんちゃって設計図を見ていた。


「ずいぶん複雑な構造物だが……お前がこれを書いたのか?」


「まあね」


「さしずめ、持ち運び可能な大砲ってとこか。発射の機構がいまいちわからんな。ええと、引き金、か、こいつを引いて、そのあとどうなるんだ」


「ああ、えっとここは……」


 僕は店主からくる質問に丁寧に答える。そのたびに何度も店主は疑問をぶつけてきて、さすがに僕もすべてを答えることはできなかった。


 ただ、ある程度の構造を店主も理解したようで、納得がいったというように大きく息を吐いて腕を組んだ。


「お前、名前はなんつうんだ」


「ベストール。ベストール・ウォレンだよ」


「そうか。ベストール。お前、こんなもんを作ってどうするつもりだ?」


 商売目的。……ではあるが、十一歳の子供がそんな事を言うのは不自然である。ここは自分の立場を最大限に活用するとしよう。


「ここだけの話、実は僕、エインベルズ兵団の団長のペイジなんだ」


「ほう、そりゃまた、ずいぶんなビックネームじゃないか。団長っつうとエドモンドの旦那か」


「エドモンドさんを知ってるの?」


「ああ。贔屓にしてもらってるよ」


 考えてみれば当たり前の話である。屋敷から一番近い鍛冶屋で武器や鎧の調達、調整をするのは当然だ。


「そのエドモンドさんのペイジなんだけど、まあ、僕も将来は騎士になる予定なんだけどさ、その時、戦場で少しでも役に立つものが欲しいんだ」


「それで、こいつが欲しいのか」


「うん。それで、僕がそれを戦場で使って、役に立てば兵団から資金が出て量産って流れまで狙ってる。運がよかったらおじさんにも仕事がいっぱい舞い込むかもね」


「弩じゃダメなのか? 一からの開発だとかなり値が張るぞ」


「全然ダメだね。弩じゃそこまでの威力はないし、第一、それには威力以上に大きなものがある」


「なんだそりゃ」


「発砲音だよ。大砲でもあの音が聞こえるとその場にいる全員が警戒する。当たれば確実な死が待ってるからね。みんな生き残るのに必死だよ。だからこそ、そこに効果があるんだ」


 僕は昔漫画で読んだようなセリフを嬉々として語る。後々恥ずかしくて転げまわることになるが、そんなものは今は知ったことではない。


「俺がアイディアをとっちまうとは思わねぇのか」


 店主がアイディアその物に価値を感じている、ということはそれなりに鉄砲に興味を持ってくれたのだろう。


「別に取るなら取るでその時々だよ。ただ、先に言っておくけど、僕は団長のペイジだ。その辺、覚えておいてよ」


 僕がそういうと店主は眉を引くつかせる。


 明言こそしないものの、団長のペイジというのは、深く解釈すれば団長の跡取りと解釈できなくもない。


 実際にそうなるかは不明であるが、少なくとも騎士として貴族の仲間入りをする僕に敵対するのはあまりいいことではない。暗にそれを店主に伝えたのだ。


「……わかった。ただし、この仕事はかなり厄介だ。予算は?」


「銀貨五十枚」


「話にならん。二百だ」


 新製品の一からの開発だ。何か月かかるかわからない。店主の人件費が月三十から四十枚と考えると、これでも安いと言える。


 だが、さすがにそこまでの予算はない。僕の財産はそこまで潤沢ではない。


「ぼったくらないでくれよ。先行投資のつもりでさ。七十五枚」


「こっちも商売だ。こいつの作成にいったいどれだけかかるかわかったもんじゃない。百五十」


「こいつは将来確実に世界の主流の武器になるよ。そんでもっておじさんは製作の第一人者になれるわけだ。それだけでも十分な価値だとは思わない? 八十五枚でどう?」


「……百枚だ。これ以上は引けん」


「わかった。それでいいよ。七日に一回、ここに来させてもらうから、その時はよろしく」


「ったく……次来た時に金を持ってこい。話はそれからだ。この設計図はどうする?」


「預かっといて。できればある程度構造の把握とか、改良点とかも考えててくれたらうれしいかな。それじゃ、頼んだよ」


 そう言って僕は鍛冶屋から出ていった。


 大儲けである。誰も考えていない鉄砲の開発を銀貨百枚で請け負ってもらえるのだから、こんなにおいしい話はない。


 加えて、鉄砲が世界中で売れることはほぼ間違いなく確約されているようなものだ。地球の歴史がすでに証明している。


 異世界のくせに魔法の一つもないのだから、地球で売れたものがこの世界で売れない通りはない。


 とはいえ、さすがに銀貨百枚の出費は痛い。いざというときにためてある貯金の半分を使ってしまったのだ。またためなおさなければ。


 僕は未来への期待に胸を膨らませ、スキップなんかしながら、はた目からも陽気な顔をして屋敷へと帰っていくのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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