157話 鉄砲VS狂戦士 その2
両脇の敵軍はやはり攻め込む気はないらしく、こちらの貴族たちを牽制するのみであった。
「クソったれ……」
敵の士気の高さに思わず僕はそんなことを口走った。
いったい、どんな手品を使ったんだ? 死ぬこと前提の作戦に兵士を駆り出させるなんて、いかなる恐怖でもそう簡単なことではない。
僕ら、エインベルズの兵であっても、そうそうできることではないし、大敗を喫したあの日も、兵が多数死ぬことは会議参加者以外は知らされていなかった。
だから大量の敗走者を出して、攻めきれずに終わったのだ。
だというのに、敵は銃兵隊の発射数に応じて相当な被害が出ているというのに一歩も引いていかない。
その姿は正しく狂戦士である。
その時であった。
「報告いたします! 東方より敵軍騎馬隊の接近を確認いたしました!」
「放っておけ。王子たちが対応する」
(まいったなぁ……完全に読み違えた)
僕の作戦では銃兵隊による攻撃で敵の出鼻をくじき、ある程度、接近されたところで騎馬隊で強襲を仕掛け、時間を稼いている間に、重装歩兵と銃兵隊を後退させ、もう一度同じ戦法で攻撃を仕掛けるつもりだった。
しかし、敵の士気の高さから見て、騎馬隊を出しても無理やり押し通られる可能性がある。
それでは後退中に後ろをつかれて僕らの負けだ。僕は手詰まりの状況に頭を悩ませた。
「どうやってあんな兵をかき集めたんだ? 死ぬことが怖くないのか?」
「同感ね。頭のねじでも外れてるんじゃないの?」
隣で待機するリンネは不機嫌そうにそういった。
「頭のねじ、ねぇ」
頭のねじか、確かに外れていそうだ。死ねと命令されて死にに行ける奴なんてそう多くはない。それをあれだけの数で用意するのは明らかに異質だ。何か普通では考えられないような手段を使ったとしか考えられない。
(普通ではない手段?)
その時、僕の脳裏に嫌な予感が走り、ひそかに開発させていた望遠鏡で最前線に目を向ける。
ああ、なんてことだ。最悪だ。なんでこういうことに限って予想通りになるのかなぁ。
「あながち間違いでもなさそうだぞ」
「え、」
僕はおどろくリンネに望遠鏡を手渡し、敵兵の表情をのぞかせた。
「連中、薬物中毒者みたいな顔をしてやがる。文字通り、頭のねじが外れてるかもな」
僕が冷徹にそういうと、まさかここまで非道なことを帝国がするとは思わなかっため、その場にいる人間は言葉を失う。
「下種め……」
おそらくは霧が最初から晴れていれば、薬を焚く煙が見えたことだろうと想像すると、敵ながら哀れな話だと思うのであった。
「計画変更だ。銃兵隊は後方に下げ、重装歩兵による足止めに移行する。ファランクスだ。攻撃することは考えるな。ただ、守りに徹しろ。アルベインにも伝えておいてくれ」
「了解だ」
そういってアーギュは前線に向かっていった。
「騎馬隊は待機だ。まだその時じゃない」
「了解よ」
そういってリンネは今まで通り、出撃のタイミングを待つのであった。
そして、僕は次第に狂いつつある自分の計画に不安を覚えずにはいられなかった。この先の計画も狂えばそれこそ敗北である。
(まだなのか、皇子様)
僕は切にそう思うのであった。そんなことを思いながら戦況をぐるりと眺めた。その時、気がかりなものが目に映る。
自軍後方に待機する騎馬隊だ。
(あそこはダドリー子爵の持ち場だったよな……)
もう騎馬兵の出撃命令は出ているはずだというのに、まるで動く気配がない。そしてその様子とは正反対に、正規軍の騎馬隊がずいぶんあわただしくしていた。
その様子に僕は冷や汗をかく。
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