156話 鉄砲VS狂戦士 その1
「前進、開始!」
霧が晴れ、お互いにその姿を目視したその瞬間、帝国側は進軍を開始した。そして、それに続き、ガーラン王子からの合図がはなたれ、僕は全力で開戦の檄を飛ばした。
作戦はいたってシンプルである。重装歩兵が守り、銃兵隊が攻め、タイミングを見計らって騎馬隊が強襲を仕掛ける。
重装歩兵は隊列を組み、着実に一歩一歩進軍する。そして、ある程度の距離を進軍したタイミングで停止し、手に持つ大盾を構えた。そして、お互いの身を寄せ、一枚の大岩のように強固な守りの姿勢を形成する。
しかし、盾と盾の隙間に若干の隙間を形成していた。
その隙間から銃兵隊の銃口が顔をのぞかせる。たとえるのであれば、これは正しく、人間戦車だ。
大量に縦の隙間から飛び出す筒に帝国兵はそれほど警戒する様子もなく、平原を駆け抜ける。
そして、アルベインが敵の距離を見極める。
「…………」
まだなのだ。まだ少し早い。当然だ。敵との距離はまだ十二分にある。目視では何メートルあるのか、わからないほどに距離はある。しかし、それほどの距離を開けなければならないのだ。
それほどの距離があろうとも——
「放て!」
それほどの距離があろうとも、僕らの攻撃は敵の命を刈り取るのに十分なのだ。
アルベインの号令とともに戦場に轟音が響き渡る。弓では到底届くはずもない距離。そこから放たれる鉛の塊は最前線の帝国軍兵士に命中し、一度の攻撃でバタリ、バタリと一人、また一人、地面にふしていく。
その光景に隣で待機する王国の貴族たちは戦慄した。そして、最前線で倒れていく味方を目にして帝国兵も動揺をかくせていなかった。
しかし、進軍は止まらない。
(思ったよりも勇敢だな)
今の第一射でかなりの人間が被害を受けた。おまけに射撃武器の性質上、近ければ近いほど命中率は高くなる。
つまり、最前線に立って突撃してくる人間はほとんどが肉の壁のような役割しか果たせないのである。
そのような状況で国のために命をささげる覚悟ができている人間はごくわずかなはずなのだが、一向に進軍がやむ気配はなかった。
しかし、そんな勇敢な兵士たちには悪いが、これは戦争である。
(悪くは思うなよ)
アルベインは第二射、第三射と、一定の間隔でひっきりなしに敵の命を刈り取っていく。
それでも敵の進軍は止まらなかった。
(結構死んだはずなのに、すごいな……帝国の兵って、こんなに士気が高いのか?)
僕はその時、なんだか嫌な予感がした。
その時、戦場の霧は次第に晴れていき、ようやく帝国軍の全貌が明らかとなった。
帝国は何とも奇妙な陣形を組んでおり、エインベルズの前の部分のみ、異様に長い隊列を組んでいた。その隊列の長さはエインベルズの三倍ほどにも及ぶ。
「なんだ、あの奇妙な陣形は?」
あんないびつな陣形は見たことがなかった。そして、その瞬間、帝国側が何を考えているのかを考える。
わざわざエインベルズの前に長い隊列を組んだということは疑いようもなく、あそこが本命の部隊なのだろう。
しかし、なぜ総大将の王子二人の前ではなく、ここなのか。
僕が不思議に思っている間も敵はじわりじわりと進軍してくる。その進み方は本命と思われる縦長隊列に続けてゆっくりと前に進むもので、縦長隊列以外は、それほど戦う意思がないように見えた。
その時、僕は最悪の結論に至る。
(最悪だな……)
まったく同じ作戦。一点突破を帝国も目論んでいるのだ。しかも、僕にとっては最悪なことに、敵の狙いは王子の首じゃない。エインベルズの壊滅だ。
今回の戦争で連中にとって勝ち負けは関係ない。単純に僕らを潰しに来ているのだ。僕らを潰した後にゆっくりと王子の首を取りに行けばいいとでも考えているのだろう。
僕らの銃兵隊の代わりに敵は三倍の兵でこちらを押しつぶすつもりだ。
(銃兵隊でどこまで敵の兵を削ることができるかにかかってるな)
その危惧は最悪なことにおそらく的中していた。敵は死をいとわず、否、死ぬことを前提としてエインベルズに肉薄してきたのだ。
たどり着かれるのはもはや時間の問題だ。
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