151話 若き指揮官 その1
(国王陛下直々の呼び出しかぁ……。気が重いなぁ)
ヘンリーが学園から去り一か月近くが過ぎた。
そろそろ帝国側から何かしらのうごきがあるころだろうと予想はしていたが、まさか陛下から直接呼出しが来るとは思っていなかった。十中八九、戦争開始の知らせであろう。
それに、もう一点、気がかりな部分もある。
「おーい、ベストール」
陛下の自室に向かっていると、部屋の前でフレデリック王子がこちらに手を振ってくる。その隣にはガーラン王子もいる。
そう、今回の呼び出しは、僕一人ではなく、この二人もセットなのである。何故かは僕にもわからない。
「来たか、ベストール」
「遅れてしまい、申し訳ありません」
「別に遅れてないさ。行こうか」
ガーラン王子はそういうとノックをし、陛下の部屋の扉を開いた。
久方ぶりに見る陛下は随分とやせ細っており、依然見たときよりも格段に老け込んでいるように見えた。
そして、立つことさえも億劫なのか、床にふせていた。
「父上、ガーランとフレデリック、そして、騎士ベストール・ウォレンが参りました」
ガーラン王子がそういうと、陛下はガーラン、フレデリックを見た後、最後に僕に対して笑いかけた。
「お久しぶりです国王陛下」
「ああ、息災で何よりだ、我が国の英雄よ。そなたが姿を消したと聞いた時は王国もついに終わりの時が来たのだと気が気ではなかったぞ」
「私の不手際で陛下にご心労をおかけしたこと、深くお詫び申し上げます」
「よい。そうかしこまるな。そなたは生きていた。それだけで十分ではないか」
「ですが……」
「ベストール。父上はもういいといっているのだ。それ以上は言うな」
「申し訳ございません」
僕は一礼すると、それ以上、そのことに対して言及することはなかった。僕自身、形式上かしこまっておかなければならないため、これ以上言及するつもりもなかった。
「ところで父上、俺たちに話というのは……」
「ああ、そうであったな」
そういって陛下は大きなため息をつく。
「帝国より宣戦布告の連絡があった。帝国の第四皇子がこの国で悪逆非道な洗脳を受けて帰ってきた、などとのたまってな」
「「!」」
陛下の言葉を受け、王子たちは目を見開く。無理もない。初耳なのだから。
ただ、僕一人だけ平然としているというのも不自然であるため、同じように驚いたふりをするのであった。
「なるべく開戦を引き延ばすよう尽力はするが、奴等にとっては開戦の理由などは何であってもよい。この国を侵略することが目的なのだから。ゆえに、近いうちにまた戦が始まることになるであろう」
「…………」
王子たちはただただ絶句した。
つい最近終結したばかりの戦争が早くも蒸し返されようとしているというその事実に、言葉も出ないのだ。
「しかし、ワシはもうこの通り自由に体を動かすこともままならぬ。よって、此度の戦の総指揮をガーラン、フレデリック。お前たちに任せたい」
陛下のその言葉を受け、一瞬、二人の時間が止まったように、硬直する。そして、ようやく言葉を理解したかのように信じられないといったような表情をあらわにした。
というか、僕も驚いている。
(実戦経験ゼロの王子様二人が総指揮官って……)
はっきり言って正気じゃない。普通に考えてまずありえない。であれば、普通でない考えがあるのだろう。そうでなくては困る。
「俺たちに……軍の指揮官をやれというのですか……?」
「無茶です! 僕らはいまだ若輩の身であり、そのような大役を果たせるだけの器量はございません!」
当然、二人はすぐさま否定した。しかし、陛下はこの反応には十分予想がついていたのか、全く驚くそぶりもなかった。
「ガーラン、フレデリック、お前たちの不安もわかる。そして、今のお前たちではいまだ実力不足であることも重々承知しておる」
「ではなぜ!」
「我が息子たちよ。この国はいまだ、このような国難に直面しようとも、貴族たちは必ずしも協力的ではない。しかし、彼らの力なくして、この国を守ることはできぬ。そのためには王家のものが直接矢面に立つ必要があるのだ」
そういうと、陛下は僕に視線を移した。
え、何?
「しかし、お前たちは運が良い。この国はいまだ英雄を失っていないのだから」
そういうと陛下は重い腰を上げ、杖を突きながら立ち上がって、僕の目の前まで歩いてきた。
「ベストール・ウォレン」
「はっ!」
「そなたが直接、全軍を指揮することこそが最も勝利に近いことであるとワシは考えておる。しかし、悲しきかな、そなたの言葉に耳を傾けるものは少ない」
「私の不徳の致すところでございます」
「そなたは悪くない。しかし、急激に知名度を増した、そなたをよく思わぬものもいるのは事実だ」
「…………」
「しかし、そなたは我が息子たちとは良好な関係を築いていると聞いている。どうか、息子たちの力になってはもらえないだろうか」
ああ、なるほど。そういうことか。
王子たちは今回の戦争では名ばかりの総指揮間であり、その役割は象徴なのだ。
そして、この人は僕に実質的な指揮をとらせようとしているのだ。
普段であれば迷惑極まりないことではあるが、今回に限ってはそうでもない。むしろ、僕にとっては都合がいい。
「私などにはもったいなきお言葉でございます。陛下。騎士・ベストール・ウォレン。この命に代えてもお二人をお守りいたします」
「感謝する」
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→師匠を失った異世界召喚者は、新人冒険者の育成を始めることにしました。「僕が死ぬその前に強くなってくれ!」
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次回の投稿は23時ごろになります。
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