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144話 エリザベート その4


「母様が……」


 エリザベートは夢にもそんなことは考えなかったようで感嘆の声を漏らす。


 僕の知らないところでエレノア様はそんなことをしていたのか……。本当に、あの人は苦労人だな。


 ニーナは言葉には出さなくてもエリザベートが羨ましいのだ。


 幼いころに亡くなった自分の母親と、エレノア様を重ね、どれだけ自分が努力しても手に入らないものを無条件に持ち続けているエリザベートが羨ましいのだ。


 そして同時に、母のぬくもりをないがしろにするエリザベートが許せないのだろう。


「そこにいるベストールだって、あなたが昔馴染みってだけでずっとあなたのことを気にかけていたわ。口ではいつもあなたの悪態をついていても、全部、あなたをフレデリック王子に釣り合う人間にするためのものだった。ふざけるんじゃないわよ。なんであなたみたいなクズ人間に私の使用人が縛られなくちゃならないのよ」


「…………」


「あなたは贅沢すぎるのよ! あなたにえり好みする権利なんかない。にもかかわらず気にいらないものを全部捨てて、捨てちゃいけないものまで全部捨てて、本当に大馬鹿よ。でもね、一つだけあなたに感謝してることもあるわ」


 そういうとニーナは涙をぬぐい凛とした表情でエリザベートに向き合った。


「あなたが手放してくれたおかげで私はここにいる二人と出会えたわ。あなたがもう少しまともな人間ならベストールが私のもとに来ることはなかったでしょうし、傷ついた時にはアリーシャがあなたのことを慰めに来てくれたでしょうね。逆に私は孤立して、今のあなたのようになっていたかもしれない」


 裏表のないニーナの言葉に僕とアリーシャは一瞬、顔をそむけた。それは気恥ずかしさと、うれしさが入り混じったその顔を誰にも見られたくなかったからだ。


 たとえその場にそんな無粋なことをする人間がいないとしても、反射的にそうしてしまった。


 そしてニーナは立ち上がり、再度、エリザベートを見下ろした。


「勝手に被害者面していなくなるなんて絶対に許さない。いなくなる前に迷惑をかけた人間、すべてに償いをしなさい」


「そんなこと、あたしにできるわけ……」


「そうやってまた逃げる気?」


「…………」


 誰かに怒られるたびに、エリザベートは今まで逃げ続けてきた。


 今、この一時、ニーナの言葉に感化されて自分を変えようとしても、それは今のこの状況だからそう思ったにすぎず、未来の自分はきっと怠惰で傲慢な醜い自分に戻っているはずである。


 そして、何かのきっかけで当然のようにニーナのことを裏切ることになる。僕にそうしたように。


 そのようにエリザベートは考えているのだ。だからこそ中途半端な覚悟で簡単に返事をすることはできなかった。


 しかし、そんなエリザベートを見透かしたようにニーナは笑った。


「安心しなさい。私が逃がさないから」


 いつもの腹黒い笑みではない。屈託ない、純粋な笑みでニーナはエリザベートにそう宣言し、手を差し伸べた。


 それは、エリザベートにとってはさながら太陽のようなもので、あまりにまぶしく、そして、ずっと探し求めても見つからなかったものであった。


「ニーナ……」


 そしてニーナの言葉を聞き、揺らいでいたエリザベートの意思はその時、光を得た。


「あたしに、できるのかしら……」


「できる、できない、じゃないわ。やるのよ」


「……ありがとう、ニーナ」


 その言葉はあまりにも純粋で、敵意などは一切なく、自然と僕はエリザベートの拘束を解いていた。


 エリザベートはゆっくりと、起き上がり、ニーナの手を取って感極まり、自分では抑えが聞かないほどの涙を流していた。


「泣くだけなら誰にだってできるわよ」


「ええ、ええ、わかってるわ……」


 そういうとエリザベートは僕とアリーシャを交互に見るのであった。そして、深々と頭を下げた。


「ベストール・ウォレン殿、アリーシャ・フローレンス殿、度重なる無礼、お許しくださいトは言いません。どうか、私に償う時間をください」


 涙と鼻水を地面に垂らし、心の底からその言葉をひねり出したのであろうと、一瞬で理解できた。そして、自然と僕とアリーシャは破顔していた。


「私は気にしてませんよ。エリザベート様」


「いまさらしおらしくすんなよ。調子狂うだろうが。僕もお前を恨んだことがない、って言ったら嘘になるけど、気にしてないよ」


 僕ら二人の言葉を聞くとエリザベートは顔を上げ、再度、僕らの顔をまじまじと交互に何度も見た。そしてそのたびに表情を崩し化粧が流れ落ちるほどの涙を流すのであった。


 そんなエリザベートを見てニーナは納得したように鼻息を漏らし、手をたたいた。


「さて、それじゃあ、アリーシャ、街に行って化粧品を買ってきて頂戴。なるべく肌に優しくて高価なものがいいわ。それから香水も」


「え、いや、あの、私、そんなお金持ってないです……」


「ベストールを財布代わりに連れて行けばいいわ」


「ニーナ、何をするの?」


「外見は内面の一番外側ってご存じかしら? エリザベート様」


次回の投稿はに明日の20時なります。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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