14話 お払い箱
エインベルズ家の訪問から四日。予定では彼らは今日の午前中から自領に帰る手はずになっている。
相変わらずエリザベートに干渉できない僕は飽きもせず兵団の訓練に混ざっていた。
「ベストール、お前、冗談抜きで本当に俺たちについて来いよ」
「そうだそうだ、絶対ここで働くよりも給料はもらえるぞ」
三日間も一緒に訓練をしていると気さくな兵たちが僕に話しかけて来るようにもなっていた。
「でもなぁ、これでも一応、お嬢様の指導役だし……」
僕はエリザベートの指導役という肩書を使ってやんわりと断る。実際、誘いを断るには都合がいいのだ。
そんな時だった。
「精が出るな。諸君」
前方から自信に満ち溢れた聞き覚えのある男性の声が響く。エリザベートの父親、侯爵だ。その隣にはエインベルズ伯爵もいる。
侯爵は周囲を見渡すとすぐさま僕と目が合う。いやな予感がする。
「ん? ベストール。お前はこんなところで何をしている? 不本意ながらもお前はエリザベートの指導役だろう。こんなところで油を売っている暇は……」
「奥方様より暇をいただきまして。兵団の方々にお世話になっておりました」
「……ふむ、そうか。しかし、お前、そんな細い腕で剣がふるえるのか?」
侯爵はとにかく僕に難癖をつけてエリザベートとのつながりを断ちたいらしく、何かにつけて突っかかってくる。完全に中身が子供である。
しかし、自分で剣が振るえる、なんて言ったらそれこそまた面倒くさく突っかかってくる。仕方なく僕は頭を下げ、適当な言い訳を口にしようとした。
「侯爵様、こいつは大したもんですぜ」
そのとき、兵士の一人がそういった。
「え?」
「ほう、続けてみたまえ」
「はい。ベストールはとにかく呑み込みが早い。一つ教えたらまたどんどん次も覚える。それに根性もある。俺らみたいな大男に囲まれて物怖気ひとつしませんし、体力だって少ないはずなのによく稽古についてくる。こいつは見込みがありますぜ」
僕をほめる兵士の言葉に少し照れながらも僕はなんだか少しだけ誇らしい気持ちになる。
周囲を見渡すとほかの兵士たちもベストールに自信を持てと言わんばかりの視線を向けてきた。
その視線に感化され、僕は侯爵の目をまっすぐと見つめた。すると、不思議なことになぜか侯爵が満足気な表情を浮かべだした。
「な、なんですか、旦那様」
「いや、なに、私はうれしいのだ」
そこはかとなく嫌な予感がする。
この親バカ侯爵の考えが読めない。
「なあ、グラハム。友人として私の頼みを聞いてはくれんか」
「なんですかな? アルバート殿」
「君の兵団でこのベストールを雇ってやってくれんかね」
「ほう」
「な!?」
突拍子のない話に僕は思わず声を上げる。しかし、侯爵はそんなことはお構いなしといった風に話をつづけた。
不味い。嵌められた。いや、自分からはまったようなものだけど、これは不味い。
侯爵は僕のことをよく思っていない。なら、必然的に溺愛しているエリザベートから僕を遠ざけようとするのは当たり前だ。僕はそのために口実を侯爵に与えてしまのだ。
「私は別に構いませんが……君はどうなのかね?」
伯爵は品定めでもするように腕を組んで僕をじろじろと見まわす。
「よかったな! ベストール!」
兵士たちが次々に僕の背中を押してくる。余計なことすんじゃねぇ!
「さあ、答えたまえ」
「だ、旦那様! お待ちください! 僕がいなくなったらエリザベート様の指導はど……」
「そんなもの、別の人間を雇うまでだ。私はなあ、ベストール、君のためを思って言っているのだよ。君だって、その才能を国のために使うべきだとわかっているんだろう?」
侯爵は下卑た笑みを浮かべ、僕にそう詰め寄った。不味い、断れる理由がない。僕は引きつった笑みを顔面に張り付け、呆然とするしかなかった。
「話は決まったようですね。では、ベストール君。君は早く出発の準備をしてきなさい」
「それには及ばん。私のほうで後で荷物を送らせよう。なに、当家の使用人の門出は祝ってやらねばなるまい」
「おお、アルバート殿。それは感謝いたします。では、早速出発するとしましょうか」
そして、侯爵は僕のその顔を見て、実に満足げに忌々しい邪悪な笑みを浮かべた。
そこからは実に早かった。父さんは泣いて喜んでいたし、エリザベートは僕という重圧が消えることに心底喜んでいた。
最後の頼みである奥方にはそもそも侯爵が合わせてくれなかったため、話がとん挫することもなく、馬車に揺られて僕はエインベルズ領に連れていかれるのであった。
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