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135話 帰還 その3(アリーシャ視点


 ニーナ様が姿を隠されてからというもの、私はたびたび、ニーナ様の部屋を訪れていた。


 今のクラスに無理をして顔を出せとは私もさすがに言えない。しかし、知らない中ではないのだから、私くらいは彼女を気遣ってあげなければならないような気がしていた。


 だから私は時折、生存確認でもするようにクラスであったことや、学校行事などを扉越しにニーナ様に伝えていた。


 といっても、返事はほとんどない。最初のうちは嫌がっていたが、途中からは観念したのか、それとも無視しているのか、ほとんど口をきいてもらえなくなっていた。それでも私はしつこくニーナ様を構い続けるのであった。


 しかし、今日ばかりは状況が違う。私は扉をノックする前に胸に手を当て、深呼吸をするのであった。そして、意を決して扉を叩いた。


「ニーナ様。フローレンスです。お話があるのですが、扉を開けていただけないでしょうか」


「…………」


 案の定ニーナ様が一切返事をすることはなかった。もしかすると留守なのかもしれない、なんて風に考えたこともあったが、必要な買い物は合鍵をもったメイドに頼んでいるようで、自分からは一切部屋から出ないという話をそのメイドから聞いている。


 そのため、ニーナ様は確実にこの扉の向こうにいるのだ。


「お願いします。ニーナ様。扉を開けてください。どうしてもお話ししたいことが……」


「あなたもずいぶんしつこい女ね。いつまでそこにいるつもりなのかしら。それとも、部屋の扉に平民臭さでもマーキングするつもりなのかしら。無駄よ。何をされようと私はここから出る気はないわ。出る気力もわかないわ……」


 久方ぶりに聞いたニーナ様の声は言葉こそ毒を吐くようではあったが、弱弱しく、覇気のない物であった。


 二か月近くも部屋にこもって心を痛められているのだ。無理もない話である。


 おそらく、今のニーナ様にベストール様の声を聞かせても、ただの声真似だろうといって激昂し、私を追っ払うだろう。


 なら、ちゃんと私はこの人を説得しないといけない。そのためには正々堂々、正面から、この人の心に割りいる必要がある。


「ニーナ様の心中、お察しします」


「察するって……平民のあなたに何が……」


「わかりますよ。平民とか貴族とか関係ありません。私もあなたも女の子ですから」


「…………」


「私はニーナ様がうらやましいです」


「……急に何?」


「ご存じの通り、私は平民です。私の故郷は小さい農村で、土地もあんまりよくなくて、やせこけた作物しか育たないような場所でした。そのせいで万年貧乏暮らしで贅沢なんてできたためしがありません」


「……平民に生まれたのだからそれは仕方のないことでしょう。そんなの別に珍しい話でもないわ」


「そうですね。そうかも知れません。でも私、勉強ができたんです!」


「……?」


「おかげで領主様の推薦をいただいてこの学校に来ることができました。それに、お父さんも、お母さんもやさしくて、貧乏がつらいなんて考えたこと、一度もないんですよ」


「そう……それは良かったわね。で、何が言いたいわけかしら? まさか自慢のつもり? だったら滑稽よ?」


「まさか。こんなこと、ニーナ様に自慢したって何の意味もないことくらい、私にだってわかります。それに、初めに言ったじゃないですか。私はニーナ様がうらやましいんです」


「うらやましいって、そんなの口に出さなくても平民のあなたが私の生活をうらやむのなんて普通のことよ」


「いえ。私、別に貴族の生活がうらやましいなんて思ったことは一度もないですよ。貴族って習い事だったり、マナーだったり、面倒くさいことが多くてむしろ、自由なぶん平民のほうが良いって思ってるくらいですし」


「だったらなに? 私の容姿でもほめるつもりかしら? あなたに褒められるまでもないわよ。自分がどのくらいの美人かなんて知ってるもの」


「それは純粋に普通にうらやましいですけど……、それとはまた別のお話です」


「…………」


 ニーナ様の返答に私は若干、嫉妬気味になってしまうも、話そうと思っていることとは無関係であるため、私は話を移した。そしてニーナ様は何のことなのかまるで思いつかないようで黙り込むのであった。


次回の投稿は1時間後になります。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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