134話 帰還 その2(アリーシャ視点
前々からベストール様はどこか謎めいた方であり、自分の知らないところでいろんなことをしているのではと私は邪推していた。
もしかしたらこれはその一端なのかもしれない。そう思うと、私はますます邪推に拍車をかけるのであった。
「貴様、ベストールが生きていたと知っていたのか?」
ヘンリー様は当然の質問をロズウェル様に投げかける。確かにその点は私も気になっていた。ヘンリー様の護衛であればベストール様の生存を知っていたのであればいち早く知らせるべきだろう。
「い、いえ。叔父からはエインベルズ家に世話になったという知らせは届きましたが、ウォレン殿の生存までは……」
「そうか……ベストール、もういいのか?」
「はい。お時間をいただきありがとうございます。ヘンリー殿下。それでは私はこれにて失礼させていただきます」
そう言ってベストール様は何食わぬ顔でその場を立ち去ろうとするのであった。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
しかし、私はそれを引き留めるのであった。
「? なんですか?」
「ニーナ様のところには行かれましたか?」
私はこの問いを聞かずにはいられなかった。あまりにもニーナ様が不憫でならなかったからである。彼女は彼の帰還を誰よりも待ち望んでいるのだ。
「いえ……この後学校側の手続きと、エインベルズから持ち帰った仕事もありますから、そのあとにでも伺おうかとは思っていますが……」
特に深くはなんとも思っていない、といった風にベストール様はそう答えた。そのどこまでも平然としたその態度に私はその時、明確な怒りを覚えた。
しかし私が口を開くよりも先にヘンリー様が口を開いた。
「ベストール。あの令嬢が大事なら今すぐ行け。今すぐだ」
「……お嬢様の身に何かあったんですか?」
ヘンリー様の神妙な面持ちを見てベストール様は先ほどの表情を崩した。
ああ、なんてことだ。この人は本当に何も知らないんだ。ニーナ様が不憫でならない。
「ベストール様が姿を隠されてからニーナ様は自室に引きこもっています」
「え……なんでそんなことに」
「なんでって、わからないんですか?」
「…………」
ベストール様は黙り込み、思いつく限りの理由を探っている様子だった。しかし、一向に話す気配はなかった。
それは思い当たる節がないのか、それともそれを確信することができないのか、どちらだとしても私はため息を吐かずにはいられなかった。
そして私はベストール様の腕を引っ張るのであった。
「ついてきてください!」
「え、でも」
「い・い・か・ら・つ・い・て・き・て・く・だ・さ・い!」
「は、はい……」
私が強引に引っ張るとベストール様は観念したように黙って私についてくるのであった。
「そりゃ、ニーナ様もたいがい素直じゃないですけど、ベストール様もたいがいですよ! ベストール様は政治的なこととか、心理戦とかには強いのかもしれないですけど、女の子の扱いに関しては赤点です!」
「いや、別に政治関連も心理戦も別に強くはないですけど……」
「言い訳無用です! ベストール様、何年間ニーナ様と一緒にいるんですか」
「一緒にいる、っていうと、十の時に会って、一年は疎遠、三年は戦争だったから……二年ってことになりますかね?」
「え、意外と少ないんですね……」
正直二人はもっと幼いころからの仲なのかと思っていたため、予想外に私は言葉を漏らした。おまけに知り合ってからもほとんど会わない期間が四年もあるのは完全に予想外であった。
とはいえ、想いは年月ではない。きっと会えない時間こそが二人の仲をより深く、そして複雑なものにしてしまったのだろうと私は考えるのであった。
(でも、実際に会ってないって言っても、知り合った歳から数えたら六年も経つんだし、なんでわかってあげられないのかなぁ……というか、二年でも十分長いんだしどこかで気づけなかったのかな……)
そう考えるとより一層私はため息を漏らすのであった。
「とにかく、来てください!」
「?」
ベストール様は私がなぜ怒っているのか、全くわかっていないようだった。しかし反論する気はないようで、黙って私に引っ張られるのであった。
次回の投稿は明日になります。
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