133話 帰還 その1(アリーシャ視点
建物の陰から男性の声が聞こえた。その時、私は心臓が止まるかのような錯覚を覚えた。
理由はその男性の声に私は聞き覚えがあったのである。しかし、それはあり得ないことであり、視線をその方角へそらすことが恐ろしくすらあった。
しかし、気持ちとは裏腹に体は自然とその方角に視線を移していた。そして、そこには見間違えるはずもなく、その人物がいた。
「ベストール様!? なんで、死んだんじゃ……というか、いつからそこに!?」
「いやまあ、戦争がどうこう言うちょっと前くらいからですね……」
その言葉を聞き、私は顔を真っ赤にしてしゃがみこんだ。
ほぼ全部聞かれてたのだ。そう考えた瞬間、これまでの自分の発言や、考えを振り返る。
そして節々で自分はなかなか面と向かって恥ずかしいことを言っていたような気がすることに気づいた。
あ~、恥ずかしい! 何が私は逃げません!(キリッ)よ!
何が、私は一人じゃないですから!(キリッ)よ!
ものすごいどや顔で決め台詞って、思い返すとこんなに恥ずかしいんだ。でもこんなのって言ってるときは気づかないからめちゃくちゃたちが悪いんだよね……。
ああ、穴があったら三日くらい引きこもっていたい。
「えっと、大丈夫ですか?」
私が顔を真っ赤にしているとベストール様があきれたように声をかけるのであった。
「大丈夫です……というか、今までどこにいたんですか!? こっちは大変なことになってるんですよ!」
「いや、まあ、エインベルズの方で急用ができまして……。その対応でちょっとこっちに帰ってくる暇がなかったんですよね」
「それならせめて休学届を出すとかいろいろ生存確認はできますよね!?」
「いやあ、旦那様の方で出してもらっといたんですけど、うまく通ってなかったみたいで。まあ、すぐに戻ってこれるだろうと高をくくってたらこんなに時間がかかっちゃって」
自分がいったいどれほどの混乱を引き起こしたのかも知らず、ベストール様はとぼけたように半分笑ってそういうのであった。その姿には私もあきれるほかなかった。
そしてベストール様は私には何の用もないといわんばかりにヘンリー様の方を見るのであった。
「ヘンリー殿下、護衛のロズウェル殿と少しお話がしたいのですがお借りしてもよろしいですか」
ベストール様がそういうとヘンリー様は意外そうな顔をして護衛の一人を見るのであった。
背の高い男性。おそらくは彼がロズウェル様なのだろう。私はあまり護衛の方々とは仲がいいわけではない。別に悪いわけではないが、ヘンリー様と話す間、彼らは無口であるため話す機会がほとんどないのだ。
唯一、システィ様とだけは話したことがある。最初は厳格であまり私がヘンリー様と話すことをよくは思っていないように見えたが、距離感がつかめていなかっただけで慣れると可愛い人であった。
「ロズウェル? ラザフォードではないのか? まあ……構わないが」
ヘンリー様はそういうとロズウェル様にベストール様の近くに寄るように促した。そしてロズウェル様はベストール様のもとに歩いていくのだが、なんだかその顔はずいぶんと悲壮なものに私は見えた。
「どうも、あなたがロズウェル子爵家の次男、アンリ殿でよろしいでしょうか」
「は、はい」
「書面でも送らせていただきましたが、この度エインベルズはあなたの叔父にあたるシャルル・エルバーン殿に商談の席でかなりの好条件を飲んでいただきましたのでそのお礼に、と参らせていただきました。この場で話すのもナンセンスですので、後日、時間を作っていただけますか?」
「は、はい、こちらこそ、エインベルズ伯爵には大変お世話になったと叔父からは聞いております。日時はまた後程、私の方から伝えさせていただきます……」
そういうとロズウェル様はヘンリー様の護衛の任に戻るべく、ベストール様から離れるのであった。その顔は笑顔ではあったものの、どことなく作り笑顔のようで、悲壮を孕んでいるように私には見えた。
(なんだろう……ベストール様が何かした……のかな?)
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