132話 ヘンリー皇子 その3(アリーシャ視点
私の叱咤に対してヘンリー様はその日、初めて私の前で声を荒げた。
「お前に言われなくてもそんなことは俺が一番わかってるんだ。でも、これしかないんだ! 俺が帝国に出向いて父に進言しようと一蹴されて運が悪ければ処刑されるだろう。いや、それだけならまだマシだ! 帝国の連中は俺が王国の連中に洗脳されたなどとのたまい、それを大義名分のように掲げて嬉々として王国に攻め入るだろう! そうなれば帝国は容赦がない。ベストールを失って混乱している王国など、敵ではないだろう。男は死ぬまで労働、女は慰み者にされ、子供、老人は容赦なく殺されるだろう。いまさら俺にできることなど何もないんだ! でも、それでも、お前だけは死なせたくなんだ! 俺と逃げるのが嫌ならお前だけでも逃げろ! 今ならまだ間に合うはずだ!」
最後、言葉を言い終えるころには、皇子は瞳からこぼしはしなかったものの、目を充血させ、涙を浮かべていた。
ああ、この人は本当にやさしい。自分のことよりも、私のことを第一に考えてくれている。
でも、だからと言って私はこの人の手を取るわけにはいかない。この国には大切なものがたくさんある。私の場合は人一倍それが多い。
故郷の村のみんなや、家族。学園にきて右も左もわからなかた私に親切にしてくれた王子様達。ほかにも、平民だからと差別せずに接してくれた貴族の方々など、私はこれまでたくさんの人々に支えられてきた。
そんな人々を残して逃げることはできない。
「私は逃げません。死んでも。この国の人々が大好きですから」
「……そうか」
そう言ってヘンリー様はその場から立ち去ろうとした。
「でも、私が大好きなのはこの国の人々だけじゃないです。ヘンリー様も私は大好きです」
「…………」
「ヘンリー様は一人じゃありません。私がいます。ヘンリー様一人で考えてダメなら一緒に考えればいいじゃないですか。一緒にこの国を救う方法を」
「そんなことできるわけ……」
「できます。なんせ、私は一人じゃないですから!」
そう言って私は胸を張り、まっすぐとヘンリー様の目を見据えた。そして、すこしの無言の後、やさしくヘンリー様は笑った。
「お前には敵わないな……期待してもいいのか?」
「ええ。存分に期待してください!」
そう言って私とヘンリー様は力強く握手した。その時だった。
「……えっと、なんかすごい話してるみたいなんですけど、ちょっといいですか」
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