119話 英雄死去 その1
学園より旅立ってからはや一週間。いまだ僕とノアはエインベルズ領にたどり着けていなかった。
「まさか、途中で馬に逃げられるとは……」
「いうな。悲しくなる」
「戦神でも馬に嫌われるんだな」
そう、学園を旅立ったその翌日、野宿から目を覚ますとそこに馬はいなかったのである。つないでおいたひもが見事にほどけており、最初に見たときはいったい何が起きたのか思考停止したほどである。
おまけに立ち寄る村々で馬の購入を何度も考えたがどこもさびれた農村で馬が売れるほどいないというではないか。
完全に運がない。
「僕が戦神ならお前は疫病神なんじゃないのか。ここまで馬が一頭も買えんとか、ついてないにもほどがあるだろう」
「そんなことを俺のせいにするな」
ノアは短く反論するとそれ以上口を開かなかった。ずっと歩きっぱなしでかなり疲れているのだろう。僕だってそれは同じである。
そんなことを思っているうちに僕たちは次の村にたどり着いた。その村はギリギリ、エインベルズ領に位置している村であった。
この村までくればエインベルズ邸はもはや目と先である。急げば今日中には何とかつくことができそうだ。
とはいえ、さすがに僕もノアも疲労がたまっている。昨日から一日かけて山を越えてきたのだ。
「とりあえず飯にするか」
「異議なし」
かなり疲れた様子でそういうノアはもはや僕に対して気を張っている様子はなかった。
そのまま僕たちは近くの料亭に足を運んだ。
ちなみに、エインベルズ領では僕の顔を知っている人間も少なくない。そのため、僕は前の村で購入したフードを被りこんでいた。
「お前さんたち、旅人かい?」
店に入り、席に着く、そして適当に料理を注文すると、店主が気さくに話しかけてきた。
「ええ。まあ、そんなとこです」
「へえ、どっちからきたんだい?」
「一応、都のほうから」
「都か! へえ、じゃあ、あんたらはあの事件現場を見たのかい?」
出所を言った瞬間、店主は驚いたように声のトーンを上げてそう尋ねてきた。事件とはいったい何の話をしているのだろうか。
「事件現場? なんの話だ?」
僕の思った疑問をそのままノアが口に出す。
「知らないのかい。一週間前のあの事件を」
一週間前の事件……。ちょうど僕たちが旅立った日だ。しかし、残念ながら心当たりがない。しかし、その日から旅をしている、なんていう必要もない。
「一週間前ですか? すいません、僕たち都からずっとゆっくり徒歩で、出発はもう二週間近く前なんですよ」
「なんだ、そうなのか。残念だねぇ。詳しいことが聞けるかもしれないと思ったのに」
「いったい何があったんですか?」
「実はな……一週間前に都で殺人事件があったそうなんだが……殺された人間ってのがまだ身元は不明だが、件のあの英雄様なんじゃないかって話なんだ」
「件の英雄?」
「ベストール・ウォレン様だよ」
「ブッ!?」
思わず僕は水を吹き出してしまう。
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