111話 デート(?)
ヘンリー皇子襲来事件より早二週間。その休日に僕は、街の噴水の前にとある人物に呼び出されていた。
その相手というのはありていに言ってしまうと異性であり、自分も男としてそれを意識しないかと言われればはなはだ疑問が残るものである。
というか、普通に意識してしまう。自分の精神年齢は実質的にはすでに三十路を超えているため、中には十五、六の少女を相手に発情するロリコンであるという意見もあるだろう。それ自体は否定のしようもない。
しかし、前世も現世も外見的にはたいして年を取っていないためか、たいして精神年齢が成長しているという自覚は今のところは皆無なのだ。外見と精神年齢はある程度は比例するのではないだろうか。いや、知らんけど。
「待たせたな。ベストール」
そうこうしているうちにその人物は現れた。普段は制服姿しか見たことがないため、私服の彼女の姿は新鮮そのものであった。
「い、いや、こっちもさっき来たとこだから」
その人物というのは……
「ならよかった。さあ、さっそく行こうか」
その人物というのは、システィ・ラザフォードである。
休日に男女二人きりで出かけるのだからこれは紛れもなくデートである。そしてシスティはアリーシャやニーナには一歩及ばないものの美少女である。なにも思わないほうがどうかしている。
「きょ、今日は皇子の護衛は大丈夫なのか?」
歩き出したシスティの後を追うように追いかけ、話題作りのためといわんばかりに僕はそう問いかけた。
「ああ。私は学園内、平日の十八時頃までが担当だからな。休日にまで仕事の話は持ち込まれたくないな」
「あ、ああ、ゴメン」
「いや、気にすることはない。それよりも、今日は一日きちんとエスコートしてくれるんだろう?」
「まあ、うん。ご期待に応えられるかは微妙なとこだけど」
「ふふ、その点は心配してないさ。私も騎士だ。自分のことは自分でどうにかなる」
「と、ところで、今日はまたどうして急に?」
システィに呼び出されはしたものの、実際の要件を僕は聞いていなかった。ただ単純に今日が空いているかを聞かれて、空いている、という返答をしたとともにここに来るように言われたのである。
断る暇などなかった。そして理由も告げずにその日システィは帰ってしまったのである。そのため、僕自身、内心かなりやきもきしていた。
「その、だな……」
システィは少し恥ずかし気に歯切れ悪くそっぽを向いた。いや、なんだその態度は。やめろ、やめろ、勘違いするって。
「お前とは一度、二人だけで話をする機会を設けたかったんだ」
「ふ、二人だけでって……」
「あ、いや、別に深い意味はないんだ! ただ、お前には世話になってるからな。礼もかねて話ができる機会が欲しかったんだ! それだけだ!」
僕の淡い期待を両断するようにシスティはバッサリとそう言い切った。いや、まあ、世の中、そんなにうまい話があるはずがないのは理解してたけどね。
それに冷静になって考えれば当たり前だ。僕の周囲に僕よりも顔面偏差値の低い男はいない。それがすべてではないか。
ベストール・ウォレンはもともと小太りの性悪男という設定であった。その程度の設定しかついていなかった。
よって、僕の顔というのは基本的に実に特徴のないものであり、唯一特徴があるとすれば、ニーナの指摘である、戦場帰りの眼つき、くらいなものであろう。
そして、僕の周囲には意図せずとも学園内トップクラスのイケメン王子たちがいる。
そんな僕をわざわざ選ぶもの好きなどいようはずもない。
そう考えると自然といつもの平静を僕は取り戻していた。そう、きっとこれはただの礼である。なんの礼なのかはいまいち不明だが、おそらく何らかのことでシスティは僕に対して恩を感じているのだろう。それ以外の何物でもないのだ、
「えっと、それじゃあ、これからどこに行くかはもうきまってんのかな」
「あ、ああ。ついてきてくれ」
そういってシスティの後をついていくとそこは鍛冶屋であった。なるほど、およそデートには似つかわしくない場所である。うってつけではないか。
「お前の武器はもう刃こぼれしまくってたからな。今日は私のおごりだ。好きなのを買っていってくれ」
そういってシスティはそそくさと店に入って行ってしまった。
なるほど。確かに僕の剣はかなり刃こぼれしている。それは一重に僕の使い方が荒いからといえばそれまでであるが、実践でもない場で振り回すのにはあれぐらいがちょうどいいからとうのもある。
ただ、それをシスティは知らないのだろう。
とはいえ、武器は多いに越したことはない。鉄の塊である以上、ただではないのだ。ここは素直にお言葉に甘えるとしよう。
そう思い、僕は店の中の武器を一通り見て回った。システィはシスティで自分の武器選びに没頭している様子だった。
僕の武器を買いに来たんじゃないのかよ。別にいいけど。
その時だった。僕は壁にかけられているとある武器を目にし、一瞬にして心を奪われた。
「な、なんでここに……」
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