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109話 突然の来訪者 その3

「話をお聞きした限りではつまるところ、殿下は自分の付加価値を他人とのコネクションによって示そうとしている、という風に解釈したのですが、その場合、別に私である必要はありませんよね?」


「そ、それはそうかもしれないが……」


 皇子は歯切れ悪くそう言ったが、実に不満げであった。


 大丈夫だ。あんたの考えてることくらいは大体察しが付く。


 できるだけ帝国内でも名前の通っている人物の中でも同年代の僕が一番とっつきやすかったんだろう。立場的にも強く出やすいし、確かに僕は都合がよかったのだろう。


 しかしそれでは根本的な解決にはつながらないのだ。


 僕一人におんぶにだっこでは僕が裏切った際にまた皇子の立場は振出しに戻る。それに、名前が通っているとはいえ、帝国内におけるそれは悪い意味で、である。


 僕とつながってる、なんてうわさが広がればそれこそ危険因子として暗殺の対象にされかねない。


 よって、皇子がとるべき行動はもはや決まっている。


「殿下、ここから先の話なのですが、少しばかり、私は殿下に対して無礼を働かなければなりません。それをお許しいただけない場合、私から申し上げられることは何一つとしてございません。お許しいただけますか」


「よかろう。ここには俺と貴様しかいない。好きにしろ」


「では、まず初めに殿下は私を部下にするとか、そういうこと以前に人付き合いを円滑に進めるすべを身に着けるべきでしょうね」


「……馬鹿にしているのか?」


「そのようなつもりはございません。ただ、少なくとも今のままでは殿下は敵を作りすぎてしまう。それを意図しているのであれば話は別ですが、殿下にとってそれは好ましいものとは言えないでしょう」


「……」


「確認ですが、殿下は権力を手に入れるためではなく、私に助けを乞うためにここにいらしたのですよね?」


「……ああ。実に不本意だがその通りだ」


「でしたら残念ですが、私個人を従えたところで状況は変わらないでしょう。あくまで私はエインベルズに仕える騎士です。私個人では兵団を動かすこともできません」


「し、しかしそれではいったいどうすれば……」


「私でなくともこの学園には有力な貴族のご子息後令嬢が多数在籍しております。彼らに助力を乞うべきでしょう」


「……れた」


 僕が自分以外を頼るべきだと進言したところで皇子はぼそぼそと何かを口にしたしかし、声が小さくよく聞こえない。


「?、申し訳ありません。よく聞こえなかったのですが……」


「……断られた」


 歯を食いしばり、実に悔し気に視線をそらして皇子はそう口にした。


「お前に言われずともすでに何人も他をあたっている。しかしことごとく断られてきたのだ」


「ああ……」


 なるほど。考えることは皆同じというわけか。そりゃ、この皇子を助けるメリットなんて基本的には皆無だしなぁ。場合によっては敵に寝返った裏切り者といわれかねない。というか、実際そうである。


「……わかりました。では殿下、どうして断られたか、原因をお考えになったことはございますか」


「俺をかくまえば帝国の内通者として王国内で肩身が狭くなるからな。それ以外には考えられん」


「そうですね。確かにその通りです」


 皇子の言うことは別に間違っていない。たいていの貴族はそれが原因であろう。


「ですが、それだけではないでしょうね」


「なに?」


「殿下は根本的なことをお忘れになっているようですね。どうして殿下は帝国内で孤立することになったのか、考え直してみてください」


「…………」


 僕がそういうと皇子は少し考え事をしたのち、冷や汗を額に浮かべた。すこしは気づいただろうか。


「上から目線で、相手の事情も考えずに、思ったことを口にして周囲を混乱させるトラブルメーカーをどうしてかくまおうと思えるのでしょうね。私にはわかりかねます」


「…………」


 この皇子は今まで自分が孤立する原因をわかってはいたがそれを改善する努力はしてこなかったらしい。いや、してきたのかもしれないが周りの人間の立場が自分よりも下であるため状況がそれを邪魔したのだろう。


 とはいえ、この歳になるまで、まるで人付き合いができないようでは人間としていかがなものかと思えてならない。


 飴と鞭の関係であえて厳しいことを言ってからやさしくしたりして人間関係を構築する、という考え方もあるにはあるが、おそらくこの皇子はそこまで考えていない。少なくともこの皇子から僕は飴をもらった覚えはない。


 ただ純粋に普通に話してて嫌なやつなのだ。この皇子の交友関係がどんなものなのかはいまいち僕は知らない。しかしイメージとしてはやはり護衛連中以外の人間と話しているところを見たことがないような気がする。


 国内の有力貴族であればそれでも取り巻きがつくのだろうが、他国、それも敵国の皇子となればそんな酔狂なものはそうそう現れまい。


 しかし、とはいえ、この皇子はまだ運には見放されていないと僕は思った。


「……ですが、殿下は運がいい。話し相手に最適な方が二人もいるではありませんか」


「? いったいどいつのこと言っている?」


「それは……」


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