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死ねない人と飛べない竜

作者: シクラメン

 僕は、その日初めて竜に出会った。


 僕の仕事は冒険者だったんだ。名前がかっこいい? まあ、名前だけはね。

 冒険者ってのは非接触民、身分でいえば奴隷より下。人でないものがする仕事なんだ。そりゃそうだろう。冒険者はほかの生命の命を奪う。殺して、盗んで、そして人類の領土に出来そうな場所を探して王様に報告する。それは、忌み仕事だ。


 そんな人間が、ろくな身分であるはずがない。それに殉職率も高いんだ。40歳までの生存率は、三割もいないんじゃないかな。体感だから、よく分かんないけどね。


 だけど、こんな非接触民ひとでなしが食べていくには、それなりの仕事をしなきゃいけない。だから、僕は冒険者になった。まあ、死ぬにももってこいだったしね。……そう、僕は死にたかったんだ。


 幼いころから、僕はほかのスラム街の貧民(なかまたち)とはたった一つだけ違うものを持っていた。怪我の治りが速いのだ。誰よりも、何よりも。だから……。


 いや、この話はよそう。今は僕があった竜の話だったね。

 なんてことは無い。普通の日、僕は西の山脈を踏破しようと思って一人寒さに耐えながら山登りをしていたんだ。そう、そして僕はその日竜に出会ったんだ。


 それは、とてもとても綺麗な竜だった。全身を真っ赤な鱗で覆っていてね。僕を見ると、ゆっくりとその鎌首をもたげたんだ。すごかったよ、だって頭だけでも5メトはあるんだ。僕は、すぐに高周波振動刃を手に取ったけど、竜のうろこに刃渡り30センしかない刃がどれだけ役にたつかわかんないから、すぐにしまったよ。


 そしたら竜はゆっくりと僕の前に顔を持ってきてね、口を大きく広げてから少しだけ近づけた後、すぐにその姿を女の人に変えたんだ。そして、こういった。


 「人と呪いの混ざり物か。人も業の深き生き物よ」


 ってね。え、竜が喋るのかって? うん、喋ってたよ。少なくとも彼女は、だから僕は聞いたんだ。僕のことが分かるんですかってね。


 「あぁ、もちろん。戦争中に嫌というほど見た」


 って、彼女は言ったんだ。だから、僕は怖くないんですかって聞いた。

 そしたら彼女は、


 「竜が人を恐れてどうする」


 少しだけ、怒ったように言ったんだ。

 だから、僕は続けて聞いたんだ。


 「ここで何をしていたんですか?」

 「竜が何をしていようと、お主には関係のないことであろう。お主こそ、こんな僻地に何用だ」

 「僕は……僕は、冒険者です」

 「ほう、人はついに西の山にまで手を伸ばすのか。面白い」

 「それで、あなたは一体ここで何を?」

 「……何、休んでいたのよ。少しは羽を休めぬとな」

 「そうですか。では、僕は行きますね」

 「どこに行くのだ?」

 「さぁ……とりあえず山を越えますよ。その先に住める土地があれば良し。なければ……まあ、その時はその時ですよ。別の場所を探しに行きます」

 「一人でか?」

 「一人で、ですよ」


 そういうと、目の前の彼女は少しだけ悩んだそぶりを見せてうん、と頷いたんだ。


 「私も同行しよう。面白そうだしな」

 「……僕を食べるつもりでしょう?」

 「お主のような混ざり物なんて食べてもおいしくないわ!」


 そうして、僕たち二人の奇妙な旅が始まったんだ。初めに僕たちは西の山を越えることにしたんだ。今はトンネルと高速列車があるけどね、当時はまだなかったんだよ。だから、僕たちは一度山頂を超えるようして、山脈の向こう側にたどり着いた。


 「うぅ……寒い」

 「お主、ひどく薄着だのう。呪いがあるからと言って、そこまでケチらないでもよいではないか」

 「違いますよ。お金が無くて防寒着を買えないんですよ」

 「ならば奪えばよかろう」

 「僕は人間ですよ。竜みたいに力任せに物を取らないんです」

 「冒険者なのにか?」

 「ぐっ……」

 「ああ、そこ凍っておるぞ」

 「へっ!?」


 そして、僕は300メルほど滑落したんだ。


 「あーあ、こんなにぐちゃぐちゃになってしもうて。見ろ、骨どころか内蔵まで出ておるぞ」


 そういって笑いながら、彼女は僕のところに近づいてきた。


 「見えませんよ……。あの、お願いがあるんですけど」

 「何だ? まあ、最後の願いだから聞いてやるぞ」

 「絶対最後だと思ってませんよね? 顔が笑ってますよ」

 「当り前よ。呪いとの混ざり者がこの程度で死ぬわけがなかろう」

 「なら、僕を殺してください。それが一番速い(・・)

 「ん、分かった」


 そうして、彼女は僕の頭を潰したんだ。僕がどうなったか、もう言うまでもないだろう?


 「流石だ。すぐに元通りになりおった」

 「さて、行きますか」

 「……お主、死ぬのが怖くないのか?」

 「死ですか? 僕は死にたい(・・・・)ですよ」

 「そうか……。いや、今のは忘れてくれ」

 「変な人ですね」

 「竜だからの」


 僕は肩をすくめて、歩き始めたよ。その後は結構楽だったんだ。凍っている一番危ないところを滑落でほとんどカットできたからね。サクサクと、山を降りてそこからは地図を作りながら進んでいく。人工衛星も無いのにどうやって地図を作るのかって? 歩幅と星の位置で決めるんだ。だから、一日で何十キラも歩くんだ。

 とてもしんどかったけどね、でも楽しかったよ。一人じゃなくて二人だったからね、話し相手には困らなかったよ。九つの月……そうだよ、当時はまだ月は九個だったんだ。そのうち一つでも天蓋の星に被ったらその日はお休み。いつもよりゆっくり寝れるけど、普段より動いてないわけだから、眠くないんだ。だから、僕はある日聞いたんだ。


 「なんで僕についてきたんですか?」

 「……実のところな、西の果てに探しているものがあるのだ」

 「何です、それは。ここまで来たらあとは乗り掛かった舟ですよ。手伝いますよ、探し物」

 「……言いたくない」

 「竜が何可愛い子ぶってるんですか」

 「何だと!? 私とて女だぞ」

 「ちょっと、痛い痛い痛い! 腕ひっぱるのやめてくださいよッ! あっー、ちぎれたじゃないですか!!」

 「ふん、どうせ生えてくる癖に」

 「死ななきゃ元通りになるまで時間かかるんですから……。それで、一体何を探しているんですか?」

 「翼だ」

 「ついてるじゃないですか」


 そう、彼女にはもう立派な翼があったんだ。だから、僕は彼女が翼を欲しいと言った時、もう二つつけるのかと大真面目に思ったんだよ。


 「違う。笑わないか?」

 「笑いませんよ。もう」

 

 そう僕が言ったら、彼女は天を仰いだ。


 「あれが、父上。あれが兄上。母上は……途中で力尽きた」


 彼女は、青い月黄色の月を順番に指してそういったんだ。


 「へえ、竜はいつか星になるって話は本当だったんですね。それで、どうして一緒に行かなかったんですか」

 「私はな、飛べぬのだ」

 「えっ……?」


 そう、彼女は竜なのに飛べなかったんだ。彼女の一族の中の話にね、飛べない竜の話が出てくるんだ。そして、西の果てにて宝を見つけてそしてかの竜は二番目の月になったって話があるらしい。だから、彼女は西の果てを目指していたんだよ。そこに僕が通りかかったんだ。

 そして彼女はこれ幸いと僕の旅に乗りかかったんだ。


 「へぇ、飛べないことが悩みなんですね。可愛らしい悩みじゃないですか」

 「あっー、お主今笑ったな!」

 「笑顔になっただけじゃないですか。飛べないのが悩みだなんて、とても可愛らしくて……ぷっ。って痛い痛い痛いッ! ちょっと、頭ガジガジしないでください!! 頭が砕けっ」

 「ふっーふっー。これで元通りだからな、戻してやったぞ」

 「…………見つかると良いですね。宝」

 「お主も人間になれると良いな」


 ああ、そうか。説明してなかったね。

 冒険者は非接触民。でもそんな彼らが人間になれる方法があるんだ。それは、新しい土地を見つけること。増えすぎた国の民を押し付けられる場所を見つけることができた冒険者には、その土地の主になる権利が与えられるんだ。だから、僕たちは一生懸命になって土地を探すんだよ。


 その日は、すぐに寝たよ。そして、その翌日かな、僕たちは麓の森林を超えたんだ。


 「森の川をたどっていけば、きっと肥沃な土地につながってるはずだ」

 「そうですね……。僕もそう思います」

 「ん、元気がないの。どうかしたのか?」

 「いや、少し不思議に思ったんですよ。だって、こんな豊かな土地ですよ? そりゃ、西の山脈は結構厳しい山ですけど越えられないことは無いんですよ。でも、今までここから戻ってきた冒険者はいないんです。おかしいと思いませんか?」

 「何が言いたい?」

 「いや……遺ってるんじゃないですか?」

 「戦争の遺物か……。あり得るな」


 君は物語でしか聞いたことないと思うけど、当時はまだ残ってたんだよ。様々な人間と亜人種の血で血を洗うような、口で説明するのも出来ないほどの戦争の、その遺物がね。


 君も知ってるだろう?

 人間が、巨人が、エルフが、ドワーフが、妖精が、悪魔が、天使が、獣人が、そして竜が、この世界に存在した全ての知恵を持つ生き物がぶつかったあの大戦を。

 巨人は圧倒的な力で、エルフは魔法で、ドワーフは機械で、妖精は魔術で、悪魔は呪いで、天使は祝福で、獣人は素早さで、竜は翼で、そして人は狡猾さで。

 持つもの全てをぶつけ合った戦争は、多くの傷痕を残して人間が勝利した。その傷痕を、僕たちは戦争の遺物と呼んでいたんだ。

 例えば、夜な夜な動いては生き物を狩る巨人の遺骨。エルフが最終兵器として用いた自らを魔法と化す魔法。ドワーフの作った自律兵器。などなどだね。

 僕? 僕はちょっと別だよ。僕のは、実験だからね。


 僕は肥沃な地があることは確信していたんだ。けど、遺物があるなら話は別だ。僕は別に死なないから良いけど、その土地に来るまでに死んでしまうと話は変わってくるだろ?

 だから、そういう時は戦争の遺物を僕たち冒険者はそういったものを狩らなきゃいけないんだ。


 「気配はここまで感じなかったぞ」

 「そしたらドワーフの機械か、呪い、祝福あたりですかね?」

 「まあ、何が出ても安心しろ。私がなんとかしてやる」

 「竜が傍にいるっていうのは、とても安心ですね……。でも、多分大丈夫ですよ、中途半端な機体とか呪いは僕に近寄ってきませんから」

 「なら、遺ってたとしても心配ないではないか」

 「何言ってるんですか。それくらいなら、冒険者が狩りますよ」

 「ほう、人間も強くなったものだな」

 「まぁ、伊達に戦争勝ってませんからね」


 つまりは、竜と呪いが一緒にいるから襲ってこないほどの知能は有しているということなんだ。厄介だろ?


 だから、僕たちは分かれた(・・・・)よ。そして、それは結果的には成功だったんだ。森から抜けた時に僕のほうに、ソイツはやってきた。とても大きな、そうだね全長45メルほどはある機械だったよ。僕は一回ソイツに襲われて、頭をぼりぼりとかじられて、そして全身をバラバラにされた。バラバラになるとどうやって再生するかって? まあ、そこら辺は臨機応変だよ。バラバラになった身体がくっついて治ることもあれば、一番大きな破片から一気に再生することもある。


 ……話を戻そう。


 そう、そうやって僕がボロボロになったころにようやく彼女はこっちに戻ってきたんだ。

 いや、すごかったよ。一撃さ。信じられるかい? たった一撃で、45メルはあるような巨大な兵器がぺしゃんこに潰れたんだよ。

 いやあ、あれは見ものだったよ。思わず笑っちゃったからね。


 「ふん、情けないものよ。人間が、なんだって?」

 「……個人じゃ負けますよ」

 「立てるか?」

 「ええ、はい。ありがとうございます」

 

 彼女は僕を起こして、そして僕たちは川にそって西に、西に何日も歩き続けたんだ。

 最初は僕の身長よりも大きな岩に囲まれていた川は次第に川幅が大きくなるにつれて、岩じゃなくて石になって、やがて草原の中を大きな川が走るようになったんだ。


 僕は、草原の真ん中で土を拾い上げてよく見た。


 「この土。良い土ですよ、農作業向きです」

 「良かったの。これで、お主は晴れて人間だ」

 「……実感がわきませんよ」

 「それもそうだろう。さて、今日はここらで休もうか」

 「そうですね」


 地図は川をたどり始めた時からつけていなかったんだ。同じ場所に来たければ、川をたどればいいだろ? だから、いつものように僕ら二人は外で寝っ転がったんだ。

 

 「竜のお宝って、どこにあるかとか聞いていないんですか?」

 「さて、あくまで御伽噺だからな。ないなんてことも、もしかしたら……」

 「……なかったら、どうするんですか」

 「さて、な。案外、このまま人として生きてみるのも良いかもしれんな」

 「ははっ、冗談が上手くなりましたね。って、痛い痛いッ!」

 「冗談じゃない。本気で言っているのだ」

 「……正気ですか? 竜は誇り高い一族でしょう」

 「お前となら、良いと思ったんだ」

 「…………」

 「何かいわんか」

 「よくもまあ、そんな恥ずかしいこと真顔で言えますね」

 「竜だからな」

 「そういえば、どうして飛べないんですか?」

 「……ん? あぁ、飛べない理由か。そういえば、まだ言ってなかったな」

 「別に話したくないなら、話さないで良いですよ」

 「まあ、そんなに隠すようなものじゃないからな。私の一家は父上、母上、兄上、そして私だけだったんだ。竜にとって、星になるのはとても名誉のあることなんだ。だから、私は雛の時から、星になるものだとばかり思っていた。そんなある日、父上が星になった。私たちの家族はとても鱗が堅い思いがしたよ」


 ん、鱗が堅いってのは鼻が高いって意味らしい。


 「そして、それに次ぐようにして母上が挑戦した。けど、母上は途中で力尽きて星になれずに亡くなったのだ。私は、それ以来飛べてない」

 「……お兄さんはどうなったんですか」

 「兄上は母上とともに飛んだよ。そして、星になった」

 「……そうですか」

 「まあ、面白い話ではないからな。別にするような話でもないだろう」

 「いえ、僕は話してもらえてうれしかったですよ」

 「…………」

 「何照れてるんですか。竜のくせに――痛いって!!」


 僕たちはその草原に拠点を設けた。拠点っていっても簡単な木組みの小屋だよ。あぁ、ミュージアムで見たのか。そうそう、あれね。僕たちはあそこで生活をしながら西へ進む方法を考えていた。何しろ、草原より奥には戦争の遺物がうじゃうじゃいるドワーフの旧生産工場プラントがあったんだ。僕たちは両方とも理解したよ、あれが冒険者たちを殺したんだと。

 

 「さて、作戦はあるか。人間よ」

 「……人に頼るときだけ僕のこと人間扱いするのやめてくださいよ。上から炎でも吐けばいいじゃないですか。竜なんだから」

 「狡猾さで生き延びた人間の内の一人とは思えぬ言葉だな……」

 「半分しか人間じゃないですからね……」

 「違うだろ、お主が馬鹿なだけだ」

 「…………」

 「お前、人間が開発したエルフの魔法を使えるようになるやつ持っていないのか?」

 「瞬間魔法インスタント・マギですか? あんな高級品、僕じゃ買えないですよ」

 「困ったな」

 「……向こうに行くなら、飛ぶしかないですよ」

 「それが出来たら苦労はしておらぬ」

 「そうなんですよねぇ……」


 僕たちは結局、そこで一週間ほど立ち往生した。うん、そうだよ。一週間後に、事態が動きだしたんだ。

 旧生産工場プラントの兵器たちが、一斉に草原へと攻めてきたんだ。目的は、今となってはよく分からないけど、それでも僕たちにとっては死が近づくわけだからね。そりゃ、逃げたよ。戦って勝てるような相手じゃない。だけど、足は当然向こうの方が速い。それに、体力無限な機械たちさ。あわや僕が捕まるというところでね、



 彼女は、飛んだのさ。



 「す、すごい。飛んでるっ!」


 竜の姿では人の言葉が喋れないんだろう。彼女は僕を掴んだまま何も言わなかったけど、ただ自分が飛べた事にひどく驚いているようだった。


 その後は、彼女がずっと空から機械を燃やし尽くして全ては終わったよ。


 まだ、煙が上がる草原の中で僕は彼女に言ったんだ。

 

 「飛べましたね」

 「あぁ。そうだな」

 「……これからどうするんですか」

 「これから……か。そうだな。宙でも目指すさ」

 「そうですか。では、ここでお別れですね。僕は王国に戻りますよ」

 「山脈まで、私も帰ろう」

 「ありゃ、そうなるともう少しだけ一緒ですね」

 「……嬉しそうに言うなよ、恥ずかしいじゃないか」


 僕たちはそこから二週間で、一番最初に戻ってきたんだ。春も終わりかけて、山頂付近の雪はもうほとんど解けていたよ。


 「ここで、お別れですか」

 「長いようで、短い旅だったな」

 「ええ、そうですね。僕は、もう行きます」

 「ああ、楽しかったよ」

 「では、また」

 「あぁ、またな」


 僕は自分で言った言葉が少し信じられなくて笑ったよ。彼女を見ると、彼女も少しだけ笑ってから竜へと戻ったんだ。


 そして、しばらくして赤い十個目の月が出来たんだよ。


 「それが、僕と彼女の話かな」

 「へぇ……。長老って、その時から生きてたんですか」

 「まあね」

 「えっ、ということは長老は1500歳以上っていうこと!?」

 「人の年齢なんて聞くもんじゃない……。っと、そろそろ始まるよ」


 二人の男女が、全身を宇宙服に包み探査機へと乗り込んだ。


 「さて、人類初めての月探査船か」

 「いいですよね、長老は不老不死だから事故っても死なないんですから」

 「ここまで生きると別に生きたいなんて思わないよ」

 「うわー、贅沢ですよそれ」

 「二人とも、準備は良いんですか? 行きますよ、全世界が注目してるんですから下手なことを言わないようにしてください」

 「分かっているよ」


 やがて二人は真っ赤に染まった月に向かって降りる。


 長老と呼ばれた、まだ十代に見える青年が真っ先に探査機から月へと降りた。大地はまるで、竜のうろこのように堅牢でとても美しい。



 ちなみにだが、十個の月の中で名前がついている月はこの赤い月だけである。

 

 それは、


 「久しぶりだね、エルマ」

 

 生前の彼女の名前だ。


 「君に、やっと追いついたよ」

 

 おだやかに、彼はそう呟いたのだ。

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