第九十七話 修羅場・・・そして核心に
「今回こそって思ったんすが・・・。」俺がっかりっすよ。
割符を持って行った王城ですが、シーナさんはまさかの不在。
酒場で時間を潰してたら、ダイルさんが居ました。
「おう、鹿子木さん。今日はイベントがないから暇だね。後少しで酒場もしまいだし、宿取って寝ますか?」とのお言葉。
「掲示板チェックしてから宿泊まります。」とだけ返事しました。朝になったらアラーム鳴るようにしてから、キャラを二階の部屋に行かせます。
掲示板をチェックしてると、何やら変なカキコ見つけますた。
665 MOMハンドラー 時刻 IP
おい、恋情に続いて、シーナって言う勇者がラサリアに増えてるんだが?こいつって、あのメイドの事か?
668 774は今年の番号 時刻 IP
恰好が違うけど?こいつメイド服じゃないし。普通の冒険者の姿してる。
669 都市伝説の男 時刻 IP
眼鏡と黒髪は似てるけど?名前被ったキャラを普通は出さないと思うシナ。同一人物とチャウ?
672 我は出雲の00774 時刻 IP
ラサリアの戦争シーズンに備えて、管理側が追加登録したか?なら、ラサリア大荒れの予感!今から向かう事にするわ
シーナさんが勇者?あの人前から居たでしょう。魔術で召喚されるのが勇者の筈だけど、どうして?
しかし、これって・・・ハンサムショートって奴ですか?しかも丸眼鏡キープ?
むむ・・・コヤツ・・・できる!
なんつーか手強そうだけど、モテモテ目指すならありっすね!
ともかくも、まずは会ってからって感じでもあるんですが。夜が明けるまで後15分。
****
次のシーナのやらかした事は俺をさらに驚かせた。
「おいおい、短剣で髪を切り始めるとか、お前はなんでそう唐突なんだ?」
「シーリスみたいにおでこを出すのも良いかなって思ったのよ。それと、あんたとの稽古でも髪の毛は邪魔だったのよ。」
「シーリスって、お前の義理の妹だったか?俺の副官にするって言ってた子供だよな?」
「子供って何よ?あれでも、あの子は実戦経験のある魔術師なのよ?馬鹿にしたもんじゃないわよ。」シーナ怒ってる!こいつ、保護欲とかも強い方なのかな?
「悪かったよ。けど、俺は年少の女の子が戦いに出るのは賛成できないんだ。」
「何でよ?」とシーナが怪訝な顔をする。
「お前もそうだが、俺は女に戦って欲しくないんだ。」
「どうしたのさ?そんな事今までは言わなかったでしょう?」
「これが俺の本音だよ。女が関わると、戦いは無残になるんだ。大体の場合が俺に取っての悲惨な方向に傾いた。」
「お前にせよ、アローラにせよ、シーリスにせよ。戦いの中で命を落としたら。それはどんなに無残なんだろう。そう思うと、俺は居ても立っても居られないんだ・・・。」
「それは他の男達でもおんなじなんでしょう?だから、あんたはバーチの近くでも、エルフの国との国境でも、カオスノードの中でも、そんな悲惨さを想像するだけでも我慢できなかった訳なんだ?そして、エルフ達から大歓迎の大暴れを演じてみせた訳なんだ?要約するとそうだよね?」
「まあ、そう言う事になるかな・・・・。」
「知れば知るほど大馬鹿よね・・・。もう、ここまで突き抜けたら立派だってくらいに馬鹿だわ。」シーナは笑っている。苦笑した顔にも見えるが、その声は朗らかな、何の屈託もない笑い声だった。
「おいおい・・・。」
「こんな男が世の中にいるんだね?いや、いなかったから、異世界から連れて来てしまったんだ。姫様のしでかした人生一度の大当たりだよ!もう・・・凄過ぎるよ!!」シーナはそれから一しきり爆笑した後、真顔になった。
「あんたさ・・・。わたしでこの有様だと、エルフの女王とかには国を鞍替えして、森に住み着けとか言われたでしょう?」と、渾身の凄み方で迫られた・・・。
噂に聞く壁ドンとか顎クイとかなんて目じゃない。超高速で捻じられた顎をミシっと言う軋み音が走り、首に腕を丸ごと回されたあげくに、凄く近くに顔がやって来る・・・。
なんだ?何故こいつの目が青く光る様に見えるんだ?錯覚なのか?そうじゃないのか?
さっきまで俺の下で可愛く声を挙げてた女が、今この瞬間は迫力に満ちた詰問者になっており、多分世界のどの国の警察でもここまでの迫力で自白を迫る男はいないだろう。
「言われたさ・・・。けど、俺がこうして帰って来たので察しろよ・・・。」
「ふん・・・。あのエルフのお嬢ちゃんもさぞや引き留めたんでしょうね。」
「あいつも泣いてたけど、北か南の戦いで一緒に戦おうと言ったら納得したさ。」と言ったのが・・・大きな大きな間違いだった・・・・。
「あんた・・・。あの小さな子にも手を出したの?」と言う言葉が・・・。
ギョッとした表情や身体のこわ張りは・・・当然シーナにわかってしまう。
「凄いわねぇ・・・。感心よ、感心。」シーナがニヤニヤと嗤っている。とても邪悪な顔で!
これを誤魔化す方法は一つしかない!フレイアから学んだ技を総動員する事だけだ!
脇腹を揉み上げて、次に太腿の内側を・・・・。すぐにシーナは意味のある言葉を発する事ができなくなった。
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「フレイア様、あいつ殺そう・・・・。」剣呑な表情で眉を寄せて、アローラが呟く。
「あの泥棒猫への対処は後回しです・・・。フルバート攻略の後で。」フレイアは硬い表情で・・・目が完全に座っていた。
二人とも、エルフの属性である嫉妬深さにほぼ全部の知能知性が乗っ取られる寸前か、その境界線を越えており、どんな悪事にも手を染めそうな勢いとなっている。
そんな二人の姿から、恐ろし気に目を背け、なかった事にしようと無駄な努力を続けているあたし・・・つまり、シュネッサがいる。マレッタは雰囲気を察して、茶さえ運んで来ようとしない。
”さっきまでは真面目にフルバート攻略の談義だったのに・・・。”
冷や汗と脂汗で皮膚がグッショリと濡れている。
水晶玉の映像の中では、シーナが嬌声を挙げており、レンジョウがひたすらに頑張っている。
”シーナと情報共有の決め事を裏で締結した途端にこれだ・・・。しかし・・・。”
「アローラ様の時も思ったのですが・・・。」あ。私は今何を言った????
うわ!アローラ様こっちを見てる!
「何を思ったのよ?」とやはり究極不機嫌モードだ・・・けど、仕方ない。
「いえ、レンジョウと絡んでいる女性って、こんな感じなんですか?」ジッとみられてる。もう、口籠るなんて許されない。
「つまり、命を懸けて惚れていると言うか。見てて感激してしまうくらいに凄いんですよ。美しかったんです。シーナも同じ様に見えます。何か崇高な姿を見てる気さえして来るんですよ・・・。」
その瞬間に、緑と青の4つの瞳からの視線が逸れた。
「なるほど・・・美しいですね。」
「悔しいけどねぇ。」
「フレイア様の時は、レンジョウはまるで壊れ物を扱うみたいだった。丁寧で、熱烈な崇拝があたしにまで伝わって来る様に感じたの。」
「アローラ様に対するレンジョウ様の態度はそれとは違いましたね。アローラ様の思慕を受け取って、懸命に応えようとしている様子が見えました。御二人の息はピッタリで、それはもう驚きの数時間でした。」フレイア様も私の言葉に大きく頷いている。
「御二人は、シーナがレンジョウ様に何を求めておいでと思われますか?」乗り掛かった舟ではあるが、軟着陸のポイントだけは見つけたい。
「お前の情報によると、シーナは寄る辺なく、両親と兄を失っても尚もアリエル姫に仕える孤独な闘士なのですね。ならば、レンジョウ様には、庇護者としての役目を求めているのでしょうか?」とフレイア様は呟く。それに敢えて返事はしないが。
「違うと思うの・・・。」アローラ様が神妙な顔で考え込んでいた。
「どういう事ですか?」フレイア様は問い返す。
「あの人、シーナがレンジョウを見る目と仕草よ。あの人、レンジョウに頼ってる様には見えないのよ。むしろ、とっても切ない、レンジョウを案じる様な目に見えるの。」
「・・・・・。」私達とフレイア様は目を瞠った。
「あの人は、レンジョウに頼って、利用している訳ではないのよ。むしろ、その命を案じているのよ。」アローラ様はそう言う。
フレイア様はしばらく考え事をしておられましたが、その後開口なさいました。
「助けましょう。あのシーナと言う娘を・・・・。」
「あたしも、それが良いと思うの。シュネッサがノースポートに送ってあげた、あの親子の事覚えてるでしょう?」私もフレイア様もアローラ様の言葉に頷いた。
「そうですね。レンジョウ様は、貧しい親子の小さな儚い幸せをわたくし達が気に掛けてあげた事に大層感激しておられました。何とも、お優しく、奥ゆかしいお方だと思いました。」
「それがレンジョウなのよ。逞しくて強いだけじゃないのよ。レンジョウは。」御二人には、私の知らないレンジョウ様に関する知識あるいは確信があるのでしょう。
ともかくも、話が丸く収まって良かった。数分で数十年も命が縮まった気がしました。
「けれど、一言だけは言っておくべきでしょう。」こればかりは譲れないと、フレイア様は水晶玉に向けて声を送り始めて、それで危険な横道は一旦終了となりました。
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今回は15分程度のショートだったが、二人ともぐったりと疲れてしまった。
「身繕いやり直さないとね。ここは水の備蓄が少ないから、シャワーも今は浴びられないし。」
「お二方、お疲れのところを申し訳ございませぬが、そろそろ容儀を整えられた方がよろしいかと存じまする。」唐突に聞きなれた声が、薄闇の中に響く。その声色は、聞いた事もない程に険悪で・・・・。
「貴重なご意見に感謝致します。女王陛下。」シーナの顔付は、薄暗がりの中でも・・・そうとわかる位に強烈な迫力を放っていた。口元が薄笑いの形であり、両目は爛々と光っているのが見える。
一体こいつはどんな人生を送って来たんだ?
改めて思ったのだ。こいつは、フレイア以上の危険人物なのではないかと。
アリエルの忠臣であり、その傍仕えであり、親友。だから2番位だと、俺ですらも考えていたが・・・。
認識が少し変わった。アリエルにはこの迫力はどうやっても醸せまい。
それはそうとして、俺も覚悟は決めた。
「フレイア、今朝は何の用だ?」俺のそんな言葉にフレイアは激烈に反応した。
「お二方に是非お伝えしなければならない出来事が起きたのです。」その声は、まるで機械音の様にさえ聞こえる、とても軋んだ音になっていた。
おそらく、フレイアは怒りの極致にあるのだろう。エルフ特有の嫉妬に完全に支配されている・・・のだろう。これは、俺の知らないフレイアなのだろう。
「どんな出来事だ?」俺は努めて、平静な声を出そうとした・・・が、多少上ずっていたのは仕方ないだろう。
「貴方様のお知り合いが、元の世界からやって来たとの事です。」鹿子木か?
「そいつはどんな奴だった?」俺はその時、フレイアの怒りとかを完全に意識の外に追いやっていた。
「教えて欲しい。」俺の熱心さに何かを感じたのか、フレイアの声色が変化した。
「もちろんでございます。レンジョウ様のお願いです故。」
「実は、わたくしなどはヴァネスティの館に引き籠り、その外の国々の情報は収集しておりましたが、下々の者共の暮らしぶりその他には一切興味を持っておりませんでした。」
「それが変化したのは、レンジョウ様のご訪問の後です。ラサリアの民たちの暮らしぶり、特に楽しみなどを知ろうと多少の努力を致しました。そして、不審な事に気が付いたのです・・・。」
「不審な事とは?」俺はフレイアの話題に引き込まれて行った。俺が元の世界に帰るヒントがある・・・。
いや、元の世界に帰るのか?思わず、シーナの方を向いた。そして、フレイアとアローラの顔が脳裏に浮かんだ。
「続けてくれ・・・。」急に喉が渇いたような辛さが俺の肉体を突き抜けた。
「はい・・・。決まってラサリアの酒場にいる武装した者達なのですが、何やら、会話を交わしている気配がなく、音も声も聞こえないのに、会話している様だと気が付いたのです。」
それだけでは何が何だか・・・・。
「それらの者共は、魔力でそれぞれを精査した結果、”空間”のレベルでの会話を行っていたと判明したのです。つまり、彼等は水晶玉を使わずに”空間”の作用で会話を為していたのです。」
「すまんが、そこらの理屈がまったくわからん・・・。」素直に手を挙げた。
「申し訳ございません。煎じ詰めて結果だけを申し上げます。ラサリア各都市と特にフルバート市内には、その様な者共が数多く確認されました。その内の一人が、昨日そこのシーナを訪ねてやって参りました。つまりは、レンジョウ様。貴方様の世界から、意外と多くの訪問者がやって来ているのではないかとフレイアは考えているのでございます。」
「俺の理解できる限りの結論では、俺の世界からは、沢山の者達がやって来ていて、それらは決まって武装して、酒場で会話をしていると言う事で間違いないんだな?」
「はい。」フレイアの返答は明確だった。
俺は前々からの疑問なり疑惑。”公文式”を知っていたシュリ、仏教の問答について知見を持っていたザルドロン、その他諸々が氷解して行く思いにしばらく浸った。
その後は、大きな失望にも似た感覚が俺を掴んで離さなかった。
「どうしたのさ?レンジョウ?」シーナが心配そうな顔で俺を見ている。
俺はシーナを抱きしめた。小さい身体だが、温かい体温を感じる。
「レンジョウ様?如何なさいました?」フレイアも心配そうな声色で俺に呼び掛ける。
我知らず、腕が全身がわなないている。その震えを止める事ができない。
この世界は・・・電脳空間の中にある世界なのか?鹿子木の貸してくれたラノベの話の様な。
この世界は・・・誰かの描いた作り話なのか?そして、この世界の住民達も・・・。
シーナ・・・お前も、フレイアも、アローラも・・・そしてアリエルも