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第八十五話 勇者お爺さん!

作品の評価をお願いします。

あたしのやり甲斐が増しますから。

 なんじゃろう。呼ばれてやって来たら、そこに待っていた三人の内、見覚えのないエルフの少女らしきガッチリと武装した者もいる。

 あれがエルフの勇者アローラだろう。そう見当を付けるが。あの娘は、儂の顔を見て何故あのような表情を浮かべているのだろう。その有様は両目と口が三つの”O”が三角に並んでいる。


「はじめまして、お嬢さん。儂はラサリアの勇者ザルドロンじゃよ。」そう挨拶したら、ちょっと表情が変わった。やれやれ、好奇心旺盛そうな娘さんじゃの。

「あたしはヴァネスティの勇者アローラよ!」アローラは両腕を振り上げて喜んでおる。一体何故あんなに喜んでおるのじゃろう?


「いやはや、大喜びしている様じゃが、儂の姿が何か珍しいのかな?」と聞くと「うん!とっても珍しいの!」と更に喜び出したわい。

「儂の様な爺さんが珍しいと言うのかな?」

「うん!エルフの森では、お爺さんは居ないのよ!みんな、死んじゃう直前まで若いか、中年位の外見で、その後に死んで土に還るのよ。」


 儂は得心するところがあったわ。「そうか、人間の爺さんは、エルフの森では珍しいもんなんじゃな!」と言うと「そうなのよ!その長いお髭も珍しいの。」と言うや、髭を優しく梳き始めたわい。

「やれやれ、しかし、お嬢さんが喜んでくれるなら、儂には何の文句もないのよな。」と、思わず笑いが込み上げて来おる。


 ****


「お爺さんだぁ!あたし、本物のお爺さんを見てるんだぁ♪」と喜んでいたのもしばらくの間。

「ごめんなさい!当初の目的意識を完全に失ってたのよ。」と謝るけど、みんなあまり気にしてない様子だ。みんなニコニコと微笑んでる。

「ごめんなさいませ。アローラは、あのとおり。フレイアに似て、好奇心旺盛で甘えん坊なのです。」


「それぞれの魔術師が呼び出す勇者は、往々にして魔術師の似姿なのですよ。」とフレイア様は言うが、「おやおや、それでは儂の様な老人が姫様の似姿だとでも?」とザルドロンは笑うし、「レンジョウの様な偏屈だけど凄い決闘者が姫様と似ているのでしょうか?」とシーナも笑う。


「それはもちろんですとも。レンジョウは、シーナさんの為にと、若返りの効果があるエルフ族の”ご馳走”を大きな籠一杯に持ち帰ろうとしていますから。」とフレイア様が口にすると。

「!そんな物をレンジョウが!」と絶句した後、「いえ、気が付く上に、奥ゆかしい姫様の似姿ですね。レンジョウ、早く帰って来て!」と声を振り絞りながら身悶えているのよ。


「あのね、レンジョウは凄い武勲をヴァネスティの軍隊と一緒に建てたんだよ。」とあたしはその事を皆に話した。巨大悪竜や炎の蛇、多頭魔獣と地獄猟犬、混沌の眷属、炎の精霊と炎の巨人をエルフの軍勢とどんな風に倒したかを披露したの。


「炎の蛇の背中から心臓を抜き出したり、悪竜の目から脳味噌に手をぶち込んだり。もう、どう考えても人間離れしているわよね。」

「最初に見た時は、あたしも何が何だかわからなかったの。けど、段々とそれが当たり前になって来たし、最初は自分の無茶に呆れてたレンジョウも最後は”俺の常識は死滅した”とか言ってたわね。」

「やはり、同じ勇者と言っても、儂とは出来が違い過ぎるのぉ。ほっほっほ。」

「わたくしとしては、話として聞いているだけなので何とも実感が湧きませんが、レンジョウ様はやはり凄い方なのですね。」


「それでね、最後の戦いの前に、エルフの騎士団が一同に会して、レンジョウに挨拶したのよ。」

「”勇者万歳!”、”永遠の同盟国ラサリア万歳!”って。」


 その瞬間、姫様とシーナ、お爺さんの三人は、頭が追い付かないのか、ちょっと固まってしまったの。

「それは・・・・。では、ヴァネスティはラサリアと同盟を結んで下さるのですか?」とアリエル姫が聞くと

「今の時点では、フレイアはフルバートの者共に対して、ノースポートの勇者はエルフの勇者アローラを騙したかどで、女王フレイアの勘気に触れて追放されたと触れて回っているのです。ですから、表向きは我等は同盟とは公表しません。」とフレイア様は仰った。

「けれど、そんな事とは関係なく、騎士団の者達だけではなく、エルフの兵団全てにレンジョウの武勇は知れ渡っています。名はともかくとして、実は完全に同盟と考えて間違いありません。フレイア個人としても、魔術書を三冊も頂き、創造技巧その他の有用極まりない技能を幾つも追加できました。これには感謝の言葉すら相応しいものが見当たらない程です。」


「ほお・・・。姫様も御父上から創造技巧の特技を受け継いでおられるが、お二人が腕を組んで神器を創造なさったら、それこそ恐ろしい代物が作られる事でしょうな。」とお爺さんが言っている。

「それなのよ、神器よ、神器。実は、カオスノードの中から、沢山の武器や防具が見つかったの。その内ラサリアへの貢ぎ物として、一つは”前進のディスク”と言う盾、特に飛び道具に強いし、移動と抵抗の修正も莫大な防具だわ。もう一つは”天使の加護”と言う鎖帷子。”善光の加護”が掛かっているので赤と黒の魔法に強い抵抗力を持つ鎧で、速度にも優れてるのよ。最後は”ミスリルの鎖帷子”で、これは非常に上質の鎧で速度も増加させるの。」

「後は、レンジョウが着ている鎖帷子も”神の加護”が掛けられた一級品の鎧ね。普通の武器なんか、そもそも脅威にすらならないわね。」


「そして、最後の武器は杖なのよ。お爺さんの為にある様な武器だわ!名前は”封魔の魔杖”なのよ!攻撃も優れてる、抵抗緩和は最高、魔法の力も増やすし、炎の力を杖の一撃に込められるの。魔法免疫の呪文も一回だけ使えるのよ。」

「ほほう!炎はちと物騒じゃが、他の効果は素晴らしいものじゃな。感謝感激と言うしかない代物ですな!」

「そうですわね。実は、貴方様の事を念頭に置いて、ノースポートへの貢ぎ物に杖を入れたのです。この強力な武器と共に武威をお示し下されば、ラサリア平定への大きな力となりうる事でしょう。」そうフレイア様も仰ったの。


 それにしても、あたしはとっても不思議なのよ。このラサリアのお姫様は、あたしにもフレイア様にも、言ってみれば最大の恋敵な訳。あたしはフレイア様となら、レンジョウを共有できるけど、この人とは多分無理なの。

 正直な所、今の時点であたしとフレイア様がレンジョウと恋仲なのも言い出せない訳。きっとそれを知れば、このお姫様は凄く悲しむし、苦しむと思うの。でもね、それを自分の悲しみや苦しみの様に思い浮かべる事ができるのが不思議なの。


 基本、恋愛なんか勝った者の勝ちなんだから、単純にすんなりと、自分の有利な手札を出して勝てば良いのよ。

 ここでも、同盟は同盟、でもレンジョウはあたし達のモノねって。そう言っても良いのよ。どうせ、人間風情にエルフの森をどうこうする事なんか不可能なんだし。

 でも、そうしたくない。せっかちで、狡猾なエルフなら、そうするのが当たり前なのにね。

”レンジョウもそうして欲しくないと思う。あたしにはそれもとっても大事なの。きっと、フレイア様も同じ気持だと思うわ。”


 なにより、この人と争いたくないの。喧嘩騒ぎになるのも嫌なのよ。ずっとこの人の穏やかな笑顔を見ていたいの。レンジョウも同じ気持なのかしら?

”これが魅力溢れる人間と言うものなのかしらね?”と思うと共に”そうなんだ、この人もレンジョウも、心の底に善なるものが広く大きく横たわっているのが同じなんだ。”とも思う。

 そして、あたしとフレイア様が、エルフの兵隊達が心打たれたのは、そこなんだと気が付いたのよ。


”きっと、こう言う人間達と交流を持つ事は、エルフ達のためになると思うのよ。”そんな事も思う。

 油断は禁物だが、徐々に間口を広げて行けば、あるいは花咲く未来があるかも知れない。そう信じられる何かがアリエル姫とレンジョウにはあるのよ。


 エルフは困った性格と性根の種族だが、感受性だけは人間よりもずっと優れている。だからこそ、エルフの兵隊はレンジョウの心根をその行動から理解できた。

 それこそがエルフの生まれ持った希望なのだとも思うのよ。そんな風に自分達を信じてみたいの。


 ふと、目の前を見ると、お爺さんがこっちを見つめている。穏やかで、そう・・・老成した瞳が、思いやりと果てしない慈悲が、目の前の誰かを正しく理解しようとする心が・・・そこには見える。

 正しく年老いて、正しく考え続けた人は、そんな境地に達するのかも知れない。

 エルフの青春は長く続き、活力も息長いものだ。しかし、その活力に引き摺られて、遂には老成できない種族でもあるのがエルフなのだ。


 あたしは誰にともなく頷くと、お爺さんの瞳を覗き返した。

「それで良いのじゃよ。深く広く考えを巡らし、何かを理解しようと努力するのじゃ。何かの境地を理解する事は、寿命が長いエルフに取っても至難じゃろうよ。けれど、理解しようと努力し続ける事はできるのじゃ。そして、それが永きに亘れば、その境地に果てしなく近付けるやも知れぬ。」


 あたしは今度こそ、お爺さんに向けて頷いた。

「違う何かが合一する。男と女でもよろしい、人間とエルフでもよろしい。そうすれば、そこには調和が生れる。違う何かが調和する事こそが、愛と美の本質でもあるのじゃ。」

 その言葉に、あたしの中の何かが激しく揺れるのがわかったの。

「お爺さんは物知りで、訳知りね。エルフって、身体が若いままだから、どうしても性急になっちゃうのよ。困ったものよね。」

「儂はこう見えて、まだ呼び出されてから三年しか経っておらん。しかしの、肉体と言う器が老人であれば、そこに宿る魂も老成したものになるのじゃろう。」

「目に見える世界は、きっとその器の中から覗いた視界と視点で感じられるのじゃろうな。その点、エルフは若い身体で、美しい自然の中で暮らすべく運命付けられておるのじゃろうさ。その若い心こそが、自然を限りなく美しく感じる事ができるのだし、妥協無く自然を守ろうと決意できるのだろうと儂は思うぞ。」


 それから、あたしとお爺さんはジッと見つめ合ってたの。あたしをずっと待っていてくれるお爺さんが目の前にいる。辛抱なんかしなくても、待つのが当たり前みたいな感じなのよ。

 静かで、全く変わらずに穏やかで・・・。姫様やフレイア様、シーナも黙ってあたし達のやり取りを聞いている。

 静穏な雰囲気の中で、感じられるのは、お爺さんの向けて来る理解と善意だけ。この時間がどれ程大切なものかは、多分あたしとお爺さん以外の人達もわかってくれているのだろう。

 言葉は要らない。でも、お爺さんに向けて、あたしはまた頷いて見せた。お爺さんも頷いた。


 そして、あたしはお爺さんのところまで歩いて行って、首に抱き付いてから、頬にキスしたのよ。だって、大好きになっちゃったから。

 水晶玉の映像がコロコロと笑い声をあげて、姫様とシーナも笑み崩れたの。お爺さんは目を丸くして「これはこれは、妖精の娘さんからキスを頂けるとは、儂も満更でもないと言う事かいな?」と笑ってる。

 この時から、あたし達は完全に打ち解けたの。国と国の同盟って事じゃなくて、この人達を友人として迷わず考えられる様になったの。


 ****


 一方その頃。レンジョウは度々奇行を繰り返すカーリの先代にほとほと手を焼いていた。

 どこからか湧いて来る”怨霊”を五度殴り倒し、効果が無いとは言え、黒魔術を何回かいきなりブチかまされ、意味不明な呪詛を連ねられ、その度に「寝てろよ、お前は!」と怒鳴る羽目になる。

 それで再び寝てくれるのだから、素直なのかどうか。もう、傍にいるだけで精神がゴリゴリと削られる思いだ。


 幸いな事に、黒魔術にせよ、何にせよ、こいつがおかしくなる時には、その前に目を開くし、おかしな文言を口から垂れ流し始めるので、水筒と軽食を要求する暇くらいはあった。

 しかし、それ以外は最悪で、居眠りしている間にこいつの世迷い事が始まっていて、完全に目を覚ましたら”怨霊”が現れていた事もあり、最後の「どうぞ。」の言葉にようやく反応できたことさえあった。


 本当に油断も隙もあったもんじゃない。”アローラ、早く帰って来てくれ!”と祈るばかりだ。

 その祈りをよそに、アローラはザルドロンと夢中になって話を続けていたのだけれど。


 ****


「大体、今の時点でのお話はこんなところでしょうか?この水晶玉はここに置いて下さいませ。今後の連絡用として残して参ります。」フレイア様は最後にそう仰ったの。

「お心遣いありがとうございます。」アリエル姫はそうお礼を言った後に、丁寧にお辞儀をしたわ。本当に動作が美しく、柔らかく、滑らかなの。これが礼儀作法って奴の成果なのね。


「ああ、レンジョウが帰るのが待ち遠しい!」と、ご馳走の事で頭が一杯のシーナが呟いているわ。

「ご馳走を最初に食べる時には、お風呂の準備は絶対だわよ。レンジョウもその他の人達も凄い事になったからね。」とあたしは忠告して置いた。

 目を丸くして、少し心配顔になったシーナに「今まで溜め込んでた老廃物が一挙に排出され始めるの。綺麗な下着も着けない方が良いわね。特に最初の時は驚くわよ。」と告げた。シーナは頷いた。


「お嬢さん、また寄って下され。今度はもっと人間の食べるお菓子を用意しておくからの。」とお爺さんはニコニコと笑いながら手を振っている。

「とっても楽しかったわ。また会いましょう!」と塔の下で手を振って、「じゃあ、レンジョウにすぐ帰る様に言っておくね!皆さん、お元気で!」と言うと、マントを巻き付ける。

 大気を蹴り付け、上空に舞い上がり、まだ暗い夜空に駆け上がる。そして、フルバートの方を目指して突っ走るのよ!


 ****


 もはや青い靄にしか見えないエルフの少女は、凄い速度で動き出し、あっと言う間に視界から消え失せた。


「あの娘の話では、あのマントは御父上が作ったものだと言う事でしたが。」ザルドロンはそう言う。

「そうですね、あのような強力な神器を二つ作り、エルフの国に引き渡していたとは意外でした。わたくしが受け継いだ魔道具も神器も、あんなに強力な物は一つもなかったのですからね。」

「解せない事ばかりですが、それが布石となって、今日の同盟締結の一助になっているのは更に不思議です。」


 塔の応接室に戻り、皆で更に話し合いました。

「父も母も、わたくしには何と言う遺言も残しておりませんでした。しかし、エルフの方々と、トラロック様には、何某かの予言めいたお言葉を遺されておられたのですね。」

「謎ですが、それを解く糸口は今のところございませぬ。許可を頂ければ、古いバルディーン様の備忘録等を改めてみたいと思います。」

「お願いします。わたくしも、父母の遺した書付や記録魔道具を再度改めてみたいと思います。」

「手分けと言う事ならば、シーナも手伝いまする。」

「いえ、シーナには監督すべき部署が複数あります。今以上の仕事が増えれば、余裕が全く無くなってしまいます。」

「それもそうですね。わかりました、現在の仕事に当分は専念します。」


 その後も、わたくし達はいろいろと話をしました。少しだけ明るくなって来た未来についてのお話を。

封魔の魔杖(キャンセルバグ武器)

打撃力:+5(ただし、遠距離攻撃のみ)

抵抗緩和-4

MP増加+15

炎(遠距離攻撃に+3の修正)

魔法免疫の呪文×1


天使の加護(オリジナル神器)

防御力+4

速度+2

抵抗力+5

”善光の加護”:常動型付与、カオスとデスの魔法をほぼ完全にシャットアウトする。


前進のディスク

防御力+6

速度+4

抵抗力+6

更に遠距離攻撃に+2の防御修正


ミスリルの鎖帷子

防御力+3

速度+3

抵抗力+3


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