表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/166

第八十三話 アローラはノースポートへ向かう

「言っておくが、俺はお前の僕には金輪際ならない。それは覚えておけ。」ここで下手に出ても良い事はないだろう。

「であろうよ。汝は我の手には負えぬ。しかしの、汝以外には何とでも危害は加えられるのじゃぞ?」

 感想としては”面倒臭い”の一言だった。

「理性的に話し合う習慣を持てよな。良い歳をして、それ位の品行は備わってないのか?」


 横たわったまま、カーリの先代はニヤリと笑った。

「取引ならできるやもな。我の知る事を教えよう。その代わり、汝に願う事がある。」

「お前の願い事次第だな。誰かに危害を加えるのが願いなら、俺はそれには応じない。」

「誰にも危害は加えぬと約束しよう。その代わり、我にも危害を加えぬと約束せよ。」


「よし、それで取引は成立だな。」

「慌て者めが。我の願いを述べてはおらぬであろう・・・・。一つは既に叶った。あの尖塔を出る事であったからな。」

「ではもう一つは何だ?」

「今は・・・・カーリは動けぬのよ。しばらく・・・眠る・・・・・。」


 あいつら・・・・ちょっと次回はキツめにぶっ締める事にしようか。


 ****


「フルバートの騎兵がたくさーん。それが馬車を囲んでいて、例の怖い奴が馬車の中であの女と二人きり。でした・・・。」

「いろいろとバレるのは時間の問題でしょうか。」

「そうじゃろうの。」

「普通に話し掛けたら返事が返って来るのは、既にバレているかも知れませんね。」


「次回は半殺しでは済ませてくれないかもなぁ。」

「前回にも増してやる気となると、手が付けられないでしょう。」

「つくづく面倒じゃな。」

「誰か代わってくれないですかね。」


 とりあえず、モルドラの勇者達は静観と態度を決定した。


 ****


「アローラ様、お茶でございます。」魔術師見習いのマレッタがお茶を淹れてくれる。

「ありがとうね、マレッタ。」マレッタはエルフの12歳の女の子だ。去年までは同じ位の背格好だった。けど、今年はあたしだけが子供で、マレッタはもっと女の子らしくなっている。


 エルフは骨が伸び切るまでは人間と同じだけ歳を取り、その後は歳を取らなくなり、最後の頃に急速に老化して、大地に力を還し切った所で死に至る。

 それを今までは余り気に掛けなかった。けど、今は違う。とっても悲しい。

 あたしは子供の姿の勇者で、それ以上成長しないのだ。


「新しく学び始めた魔法なのですが、水晶玉で遠見をする術が少しだけ使える様になったのです。」とお茶の席でマレッタが言い始めた。

「どんな感じなの?」と聞くと、「実習でフルバート市内を見てみなさいと、フレイア様に申し付けられました。アローラ様にも興味がおありかと思います。」


「ほら、先日までいらっしゃった勇者様の馬車です。」何か、沢山の騎兵に囲まれているの。

「あれは?レンジョウは捕虜になっちゃったの?」と慌てると、フレイア様が現れて「あれは捕虜になったのとは違うのです。フルバートの者共が、フレイアとの約束を守ったのです。」と教えてくれたの。


 それからフレイア様もお茶を頂く事になって、あたし達三人でお茶とお菓子を楽しみながら、レンジョウの様子を見ていたのよね。

「でも、何で立ち往生してるのかしら?」と疑問に思っていると、「アローラが尖塔で見た、カーリの先代と行き会ったのですよ。もしかすると、レンジョウのために、お使いを願うかも知れません。」とフレイア様がおっしゃったの。

「何処にお使いするのかしら?」と尋ねると「ノースポートですよ。」と、少し乗り気ではない様子なの。


「フレイア様、乗り気じゃないみたいだけど?」と一応聞いてみると、「ヴァネスティはノースポートと同盟を組んでいる訳ではないので、使者を送るにしても、勇者が直接と言うのは異例ですし。普通はこちらからも使節団の形をとるべきなのですよ。」とのお答え。

「透明になって密入国と言うのも問題だわね。かと言って、エルフの勇者が突然門を潜って首都を訪問するのも目立つのよね。」悩ましいところね。


「形だけでも、レンジョウは追放者と言う事ですからね。そうじゃありませんでしたと、訂正する様なものですし。」フレイア様も悩んでおられるみたい。

「あの、フルバートの者達は、使節団をノースポートに無事送り届ける様に約束したのですよね?」マレッタが言う。

「そうですよ。」とフレイア様が答えると、「それなら、何故そこで止まっているのかを我々が問う事はできるでしょうか?その上で、ラサリアの勇者様にお困りの事を聞いて、それをノースポートにお伝えするのは無理筋ですか?」とマレッタは続けた。


「それが一番すんなりしているかしら?では、アローラ、伝令を頼むわ。今から全力で空を駆け抜けたとして、どれくらいで着くかしら?」

「三時間?四時間もあれば全速力だとフルバートに届くと思うけど。」

「じゃあ、行ってらっしゃい。」とフレイア様が申し付け、「お気を付けて。」とマレッタがお辞儀をする。

 お菓子と”ご馳走”を幾つか包んで弁当として持つ、剣帯を付けて、弓を背負い、矢筒を剣帯に結んだら、そのまま「行ってきます!」と二人に声を掛けて、玄関を出たところでマントを身体に巻き付ける。

 軽く地面を蹴って空中にふわりと浮かび、それから高度を取り、フルバートの概略方位に向けて・・・空中を全速で駆けた。


 ****


 ”先代様”は昏々と眠っている。顔に浮かぶ険が美しい顔立ちを台無しにしているのが不愉快だ。

”こいつはどんな女なんだ?生まれ育ち、カーリになった過程、サリアベル姫について知っている事。”それらの全てが謎だ。何よりも、こいつの危険性がどれ程なのかがサッパリわからない。


 再び隔離封印と言うのも手だが、死ぬまで幽閉と言うのもどうかなとは思う。今まで15年程も幽閉されていたらしいが、それはそれとして、現代に生きていた日本人だった蓮條主税としては、見ず知らずであっても女性が朽ち果てるまで幽閉されているのを見過ごせる様にはできていなかったのが大きいかも知れない。


 ドラナーはフルバート市内の評議会に行ったきり戻らない。正直、状況の整理や説明が全くできないのだろう。無理もない事だが・・・・。時間はジリジリと経過して行く。

 次にこの女が起きた時に何を仕出かすのかが怖いが、反対に起きてしまえば覚悟も決まる訳である。

”どうにも手が付けられない時は、ドラナーにお願いして去ると言う手もある。”保護すると決めた気持ちもグラついてしまう蓮條であるが、魔法に無知な者としては、それも仕方ないところではあるだろう。


 待つ事数時間・・・お役所仕事のフルバートの官僚達は、多分ドラナーの稟議やら報告やらを未だにあちこちでキャッチボールして遊んでいる最中なのだろう。もう、この状況はストレスが酷い・・・ある意味どんな拷問よりも過酷で残酷だ。


 そんな時、懐かしい声が聞こえた。2日ぶりだが、それでも懐かしく聞こえる事が・・・。


 ****


「フルバートの騎兵達、この事情を説明なさい!あたしはエルフ族の勇者アローラだわよ!何故、ノースポートの使節団はここで騎兵に囲まれているの?フレイア女王は大いに疑問に思い、あたしをここに派遣なさったのよ。ほら、早く事情を説明するのよ!責任者は何処なの?」と・・・・。


「アローラ・・・。」と俺が呟くと、「レンジョウ!あんたは一体いつまでこの辺をうろついてるのよ!フレイア女王にもあたしにも、すぐにノースポートに帰るって約束したでしょう!あれは嘘だったの!?」と怒鳴って来た。


「この馬車の中の女を見てくれ。とにかく、話を聞いてくれ・・・。」と言うと、「仕方ないわね。どの女なのよ?」と不貞腐れた顔で応じて来る。

 そして、窓に鎧戸を降ろし、馬車の中に入った途端に・・・「二日だけだったけど。寂しかったのよ。」と抱き付いて来た。その後に事情の説明が行われた。


「事情は大体わかったけれど、あたしは何をすれば良いの?」とアローラに聞かれたが、俺としてはそれに答える知識が無い。

「フレイアとは話せないのか?」と聞いてみたら、「水晶玉を預かってるの。」との返事だった。

 ところが、俺にはその水晶玉を使う事すらできないのだ!wwww

「アローラ、頼んだぞ!」と言うと「ラジャ!」と言う良い返事が返って来た。


 ****


「お前、その衣装は何だ?」と・・・・。

「レンジョウ様との会見でございます。フレイアも召し物には拘りましてございますわ。」と・・・。

 例の臣下には見せられないと言ってた白い下着同然の衣装だ。そう言えば、俺はこの服の事を褒めてたっけ?まあ良い、本題は別だ。


「で、こいつをどうすれば良いんだ?俺の今の思考能力のほぼ全てはそっちに向いてるんだ。他の事が考えられない位にこいつの扱いに悩んでる。わかるか、フレイア?」と、かなり凄んで訴えると、流石にフレイアも事態の深刻さを理解してくれた様だ。


「その女をどうすれば良いのかと言う話ですね?それとは別にですが、聞き耳を立てようとしている者がいますので注意を致したいかと。」外で悲鳴が上がった。慌てて外に出て確認してみると・・・。

 アリンザがドアの外に倒れており、その右半身の一部がビッシリと霜と一部氷に覆われていた。

「大魔術師の会話を覗き、聞き耳を立てるとは命知らずな!」と水晶玉からフレイアの大きな声が響く。

「お許し下さい!勇者様の安否が気になったので、様子を伺っていたのです。他意はありませんでした。どうかお許しを!」と惨めな格好で何とか平らになって謝ろうとしている。


「ノースポートの使節団故に、その無礼を死で贖えとは言わぬが、その愚行については生涯悔やみながら余生を暮らす事となろうな。」フレイアは大きな声でそう言い捨てた。動画ではなく、現在は音声だけとなっている。

 実際、その後の手当にも関わらず、アリンザの手足は酷い凍傷で傷付き、右足の親指と人差し指がこの時点でブーツの中で凍ったまま折れていた。その後のアリンザは杖をついて歩く事になる。


 何か変事が起きたと知り、使節団員とノースポート騎兵が集まって来たが、何が起きたのかはわかってはいなかった。

「この男が、俺とアローラとフレイア・・・女王の会話を盗み聞こうとしたんだ。それを女王は罰したと言う事だ。」

「本当に莫迦な事をしでかしたものよね。エルフ族の女王のプライバシーを侵害しようだなんて。」アローラの顔は殺し屋モードに刻々と近付いて行く。


「女王様、勇者様、お許し下さい・・・・。」とスパイはひたすら謝った。俺としてはゲンナリして続ける。「お前はヴァネスティで軟禁されてて正解だった訳だ。なまじ自由にさせていたら、今しがたと同じ様な事を方々でしでかしてたかも知れないからな。」

「とにかく、フレイア・・・女王の罰は下った。命までは取られなかったんだから、それだけは幸運と思え。」

 そうアリンザに言い捨てると、「繰り返すが、俺達の馬車には近付くな。俺とアローラ以外は例の女が目を覚ました時にどうなるかわからん。フレイア・・・女王が対処方法を見立てて下さるとの事だから、提示された方法に俺は従おうと思う。皆もわかったな?」と周囲の者達に念を押した。

 しかし、ここまで我慢に我慢を重ねて、こんなに意味不明な場面で何故へまをしでかしたのか?


 ・・・・・。こいつは、もしかして、軟禁中に何かをされていたのではないか?ハッキリとシュネッサには黒扱いを受け、心理的に追い詰められてもほぼ反応を示さなかったと言われていたな。

”多分、シュネッサは普通の人間がテストを受けるよりも、かなり強烈に最後は詰めて掛かったのではないか?”

 怖いな、エルフって・・・。そんな内心を隠しつつ、さり気なく口からフォローの文言を紡ぎ出す。


「まあ、近付いて大怪我をした実例がそこにいるんだ。どんな目に遭っても俺は知らないが、同じ事はやめておけとだけ忠告しておこう。」そう言いながら、アローラと共に馬車に入り直す。ファルカンと数名の者達がアリンザを手当てすべく運んで行くのが見えた。

「説明が中断してしまいましたね。」フレイアはそう言い、再び動画で話し始めた。

「あいつがスパイだと知らなかったら、俺はあいつに同情してたかも知れない。」

「ともあれ、続けます。アローラ、お前がフルバートの尖塔で見た”白の封印”は大体こんな感じの図形でしたか?」とフレイアは手の中で何かの魔法陣の様なものを複数作り出した。


「それと似たような図形だったと思うの。」「俺の記憶でも良く似たものだったと思う。」

「そうですか、これは私にはまだ手が届かない白系統魔術で”浄化”あるいは”邪悪からの防御”と言う術の魔法回路の図形なのですが、それらが複合されて小さな場所に限定付与されていた可能性が高いと思います。」

「白系統魔法に属する魔術ですから、それを取り行ったのは、間違いなくアリエル姫のお母様、先代の聖女様でしょうけどね。」

「そんなものを、何故フルバートの廃寺院の尖塔に仕掛けたのかが疑問ですが、ご本人がいらっしゃらないのですから聞き様もありません。」


「ではアローラ。メモをしなさい。」

「はい、わかったの。」


「フルバート市内に幽閉されていた、黒系統魔法の危険な申し子が、都市を襲った不幸な災害で・・・。」その瞬間俺とアローラの視線がフレイアに集中したが、フレイアはそれを無視した。

「尖塔に仕掛けられていた白魔法の封印が壊れ、フルバート市内を徘徊していた為、勇者レンジョウがそれを保護した。」

「つきましては、その者を再び封印するため、小規模な”要塞”を設えて、”浄化”の魔法を循環するように取り計らわれたい。なお、フルバート市内の尖塔に封印を行ったのは、アリエル姫の母君であるとフレイアは推測しているもの。」

「これでお話は通じるでしょう。いざとなれば、この水晶玉をアリエル姫に渡してフレイアが直接会話する事もできますね。」


「うん、わかったの。」

「では、レンジョウ様にお留守をお願いして、アローラはノースポートに急ぎなさい。」フレイアはそう言って、水晶玉の通信を打ち切った。

「アローラ、頼んだぞ。」俺は肩を抱いて言う。

 アローラは俺に抱き付いて、唇に吸い付いたかと思うと、抱擁をねだって来る。干し草の良い匂いと山梔子の香りが混ざり合って鼻をくすぐる。しばらく、抱え上げて抱擁してあげた。


「じゃあ、行って来るね。」バタンと扉を開けたかと思うと、マントを身体に纏い、青いオーラに変化したかと思うと空に舞い上がる。そして、それは空中を駆けて、ノースポートの方向に飛んで行った。

 それを見届けた後、俺は”先代様”の前に座る。


「仲が良いのだな、お前達二人は。」と先代様は口にする。俺は良い様の無い不安を胸に抱きながら、黙って座っている。

 今はこいつと話し合う気には全くなれないのだ・・・。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ