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第七十三話 【ジョンバール分岐点】計略開始

”良く決断したわね。それが正解と思うよ。”

”レンジョウの為を思うなら、そうするのが正しいと思ったのよ。”

”辛いかな?”

”うん・・・。”

”でもね、そんなに待たなくて良いかもよ?”

”また会えるのかな?”

”きっとね。”

”おじ様の願う事をするの。それが、おじ様と近付く最高の方法だから。”

”レンジョウの願う事?”

”そうよ。私もおじ様のあんな姿を見た事はなかった。”

”そうなの?”

”そうよ。私達は待つ事ができる。そして、待つ間に準備ができる。”

”うん、そうだね。”

”じゃあ、そろそろ目を覚ましなさい。またね。”

”うん、またなの。”


 ****


 目を覚ますと、そこにはレンジョウが居た。とても穏やかな顔をしている。

 後二日・・・。焦っても仕方がない。貪るのも限度がある。無理をすれば、後には渇きと未練ばかりが残るだろう。そんな無様はエルフらしくない。


 レンジョウの為、それだけを考える。心はしっかりと決まっていた。けれど、それは今この時からではない。まだ二人の為の時間はある。フレイア様の為の時間も。今だけは彼に甘えるのを許して欲しいのだ。


 ****


 レンジョウ様も流石にお疲れの様子。しかし、あの親子を助けたのが、あんなにレンジョウ様の琴線に触れる事になるとは・・・・。全くの予想外でした。


 本当に多情多感で・・・まるで少年の様なお方です。まあ、あの方の瞳を見れば、そんな事は最初から知れた事だったかも知れませんが。とても美しいお方。その御心映えが・・・。

 とにかく、今はお疲れでしょう。そっとしておきますね。

 眠っているお顔に語り掛けます。ありがとうと・・・・。


 ****


 女王様のご期待に沿える為。アローラ様の願いを叶える為。好ましいと納得するに至った勇者殿の理想を実現する為。この度は全知全能を傾けて対処する所存です。

 部下の内の何人かは、私の顔付きにドン引きしている模様ですが、それは部下達の気のせいだと私は断じています。

「志願者は複数名おります。しかし、この方は?」

「我が身を捨ててと言う事なのでしょうね。全員採用します。」

「よろしいのですか?」

「例外はありません。本人にも覚悟あっての事でしょう。」

「確かに全員が女王様の信任厚い方々ですが・・・。」

「だからこそです。ツベコベ言うんじゃないわよ!」


 ****


「おはようございます、ファルカン様。」

「おはようございます、アニタさん。」

「後2日なのですね。名残惜しい限りですわ・・・・。」

「わたくしも・・・・・わたくしもです。」

「明後日の朝までですね。相変わらず外には出て頂けないのが残念です。」

「いえ、わたくしはアニタさんが傍にいて下さるだけで・・・・。」

「もう、とっても嬉しいですわ!さあ、朝食をお召し上がり下さい。」

「頂きます。毎朝違うレパートリーで、どれも美味しいのです。」

「お褒めに預かりまして♪」

「アニタさんとずっと一緒に居たいのです。わたくしは・・・・。」

「・・・・。アニタはヴァネスティの女で、フレイア様の臣民です。その義務を果たす務めがございます。そればかりは叶いませんね。」

「そうですよね・・・・。」

「ですが、アニタはファルカン様の事を忘れません。決して。」

「・・・・。はぁ・・・・。」

「さあ、お食事をまずは済ませましょう。それからファルカン様のお話をお聞きしたのです。どんな事でもよろしいので。」


 ****


「じい様、あの物言いを許して良いのかよ?」

「まあ、儂らの放った電光で、奴等の兵に死者が出たのは確かじゃな。しかしの、普通は電光を腕で受け止めて跳ね返す事など考えも及ばぬからな。」

「あの電光を放ったのは私です。不可抗力とは言え、兵達には気の毒な事を致しました。」

「それにしても、老師様に対するあ奴の物言い、確かに許せませんな。使用人であるかの様に叱り付け、事情を聞くとかほざいて、連行せよと部下に命じまで致しました。明白な侮辱ではありませんか。」


「あ奴は騎士であり、フルバートの幹部でもあるのだろうが。それが密約とは言え、我等がこの街の中で逮捕される事のない、一種の外交武官の様な扱いを約束されていると知りもしないのはな。驚きであると要約して良いものなのか。」

「どうしたんだ、爺さん。今日は何時になく気が長いじゃねぇか?」

「タキ、お前の老師に対する口の利き方にもやはり大きな問題があるのだぞ。」

「良いわ。とにかくじゃ。我が君自らがフルバートから手を引くと言わぬ限りは、我等がこの街に逗留できぬ様な騒ぎを起こしたり、愚か者揃いとは言え指導者層と事を構えるが如きはあってはならぬ事と言う訳じゃ。そう心得よ。」


「思えばですが、我等があれこれと気を回して、世話を焼いたのが彼等を増長させて、我等を使用人の様に勘違いさせる原因となったのではないでしょうか?」大男が静かに口にする。

「真、そのとおりですな。あ奴等の便宜を図る等、単に失礼な態度を誘発するだけではないかと。私が報告書を先程のライナードなる騎士に届けた時の事。労いの言葉がどんなものだったのか・・・・。」


「何て言われたんだよ、レイヴィンド?」

「”良く調べてあるが、これは後日の為なのか?”と嘲られましたな。その後に、自分の言った言葉に何かの諧謔を感じたのか笑いさえしました。老師の言われたとおりに私も考えましたので、辛うじて自制できましたが、あの場であ奴の目玉を煮上がらせてやろうかと随分真剣に考えました。何とか今回は我慢致しましたが、いずれ限界が訪れる事でしょう。」


「そこまで言われて黙っていたのかえ?はぁ・・・。我等をスパイだとまで思っておるとは、それを口に出して嘲るとは。そこまでの痴れ者だったとはの。予想外じゃわ。」

「良く我慢したぜ、レイヴィンド。俺なら頭をかち割ってるな。けどよ、ここまで失礼な相手を更に刺激したら、それこそ俺達が原因で、タウロン様の結んだ協定が決裂しちまう事もありえるだろう。ここは、大人しく口を噤んでいた方がマシじゃねぇの?」

「老師の予想外だったのではなく、単に我等が想像する人間の水準に及ばぬ愚か者がこの街には揃ってると言う事なのでしょう。タキのいうとおり、我等は鳴りを潜めて傍観者に徹するべきかと思われます。」

「それが良いじゃろうな。」勇者4人は意見が一致した。


 全員が沸点の差こそあれ・・・カンカンに怒っていた・・・。


 ****


「おはよ、レンジョウ・・・・。」

「ああ、おはよう。」アローラが挨拶をしてきた。フレイアはもう起きている様だ。

 朝はまだ早く、夏の終わりなのに、まだ少し暗い。

「まだ、夜明けの後すぐだよ。朝食には早いかな。」アローラが言う。「明日と明後日で、その次の朝には出発だね・・・・。」

「・・・・・。」

「あたしはいろいろと考えた末に、フレイア様と同じ様にしようと思ったの。」

「それは・・・・?」

「あたしはレンジョウの事が大好き。だけどね、別れ際に使節団の人達の前では、レンジョウの事を嫌いなふりをするよ。出会った時と同じ様にね。」

「そうすれば、フルバートの連中を油断させる事ができるのよね?フレイア様もそうするって。ノースポートのアリエル姫を非難して、フルバートには謝罪を行うんだって。その後もレンジョウ達の失敗を責めるって・・・・。」


「レンジョウは信じてくれるよね。それでも、あたし達がレンジョウの事を本当は味方しようとしてるって・・・・。」下を向いたまま、アローラは頭を上げない。

「当たり前だろう。アローラ。俺達はどんな時でも好き合っている。何時までもだ。」

「うん・・・・。」

「最初から、フレイア様はわかってたんだね。こんな風にお別れが来るって。だから、あたし達は引き合わせたけど、使節団の人達は全員別れ別れにして閉じ込めておいたんだ。」

「そうだな・・・きっとそうだ。」

「ラサリアを統一して、苦しんでいる人達を開放して、アリエル姫様が善い政治を確立できたら。一度、この森に帰って来て。騎士団の人達も、鉾槍兵や長弓兵、剣士達に魔術師達。この森の中の一番勇敢で、誰にも文句を付けられない人達が、レンジョウの味方なのよ。レンジョウをみんなが待ってるのよ・・・・。」


「いや、その時には、俺は南か北に行き、ラサリアにはきっと居ないだろう。」

 アローラはぽかんとした顔をしていた。

「あたし達と、少しで良いの。平和に暮らして・・・お願い・・・。」と涙を浮かべている。

 俺は手を延ばして、アローラの肩を抱き、耳元に囁いた。

「お前が来い。平和ではなくても、俺がお前を必要とする場所に。」

「俺はお前を最高の戦友として認めている。お前はどうなんだ?」

「あたしも・・・レンジョウと一緒に戦っていると嬉しいの!レンジョウと肩を並べている毎日を想像すると・・・・。」

「俺はラサリアに帰る。だが、アローラも、ヴァネスティでフレイアの指示を受けて、俺の手助けをして欲しい。多分、フルバートを揺さぶる仕事は沢山ある筈だからな。」

「また会えるよね。あたしを隣に呼んでくれるよね?」俺は黙ってキスをして、アローラの頭を撫でた。


「お前は言ってたな。俺が敵には恐ろしいが、お前には優しいって。」

「あたしだけじゃないと思うけど、レンジョウは優しいよ。敵以外には。」

「なら頼みごとがある。お前も、俺以外の人間には優しくするな・・・。むしろ、フルバート相手の時には俺達が出会った時みたいな態度をずっと続けて欲しいし、人前では俺を嫌うふりをしてる方が良いだろう。」

「濃縮塩対応をずっと続ける訳なのね?でもさぁ・・・。」

「その代わり、俺達二人の時は・・・。わかるだろう?」

「うん・・・。あのね、レンジョウ・・・・・。」

 結局、朝の食事はかなり後になった。


 ****


「小分岐点プラス方向でクリア。」

「しかし思うんですけどね・・・・。」

「何を思うんだ?」

「どうしてこんな事ができるんですか?誰かと誰かが好き合ったが故の出来事が・・・。その・・・分岐点になってるなんて信じられません。」

「ほう、信じられないか。では、何が疑問なのか、不信なのかについての君の存念を伺おうか?」

「私も興味があるわ。どうぞ、続けて。」

「わかりました。まずは貴方がた御二人の事を思い出して下さい。御二人は偶然に出会い、気が付くとお互いに興味を持っていて、長い長い期間を友人として過ごし、最後に結ばれた。そうじゃありませんか?」

「そうだな。」「そうね。」


「御二人の恋愛は誰かに計算できるものなんですか?もしそうなら、それは恋愛じゃない。恋愛の発生に理由なんか無い筈です。理由があるのなら、それは恋愛じゃない。別の何かでしょう。偶然の産物であり、突然始まる恋愛を見越した上で建てられた計画が存在するのならば、我々が動向を伺っている彼等彼女等の恋愛は操られる駒同士の道化芝居って事になりますよ。」

「君はそう言うのは許せない方なんだね。」

「そうですよ。彼と彼女達を見て下さい。男は極真面目で真剣、女達は健気で熱心。そんな心を我々が”指導や誘導する”と言う行いこそが誠心誠意尽くしあう彼等彼女等に対する冒涜に思えるのですよ。」


「それはそうなんだが、君は我々が何故に彼と彼女等、今後に登場するだろう人物にまで、こんな迂遠で陰湿にさえ見える事をしていると思う?」

「何故でしょうか?」

「煎じ詰めれば、現時点での我々は傍観者に過ぎない。そして、今までの発生した事象については追体験なんだ。彼等と彼女等の。」

「そうね、特に彼は自分の誓ったとおりに行動している。その周囲の女達は彼の期待に沿おうとしている。私達は、それらの事象を後見して、その後の分岐の結果を予測し、未来に備える事が役目なの。全くの裏方だけど、手は抜けないわ。けど、やっている事は、あの人達の周辺環境の整備だけなんだけどね。」


「そんな訳なので、今しばらく静観して欲しい。彼等彼女等は何かの寸劇を演じているのではない。思い出しているんだよ。自分達がどんな存在であったのかを、どんな存在になるのかをね。」

「説明は足りていないと思うけど、今は静観するべきよ。彼の自主性を損なわないためにもね。私達はどっちみち、もう引く事ができないのだし、何があろうと腹を据えて見守らないとね。」

「了解です。口を挟んで申し訳ありませんでした。」

「どういたしまして。」「同じくね♪」


「それにしても、一番失敗したくないと強く願っているのが、多分彼等彼女等なのだろうから。それらの願いは今のところ叶っているんだろうね。」


 ****


 その時、世界樹を中心として都市魔法を解除する「魔法浄化」の魔法が起動した。都市に掛けられた魔術を消散する魔術が試みられたのだ。


「”空中楼閣”を解除する試みがなされた様ですね。」フレイアが住居館に入って来た。

「この都が、空中に置かれている限り、どんな地上兵力を投入しても無駄と言うものです。しかし、都市を護る魔術を消散すれば、話は違って参ります。けれど・・・・。」

「レンジョウ様。どうでしょうか?貴方様ならば解除は可能と思われますの。ただし・・・フレイアとアローラが全力でサポートした場合ならばと言う条件がございますね。」フレイアは、今や用済みとなって、部屋の片隅に置かれたニコラ・テスラ(仮称)を眺めやった。


 あの電撃の乱打と、地獄の様な快感の嵐。魂が抜け出る程の衝撃・・・。

「いや、この世の中には手を触れない方が幸せなものがあるんだ。俺は絶対にそんな事に加担したりはしない。」

「では、この都も安泰と言うものです。」

「それにしてもさ、この都を護る魔術を解こうとしているのは、やはり彼等だよね。」

「そうなるな。」「それ以外はございませんね。」


「あたしは守護者なの。でも、森を護る理由はもう一つできたの。」

「いつか、この森にレンジョウが帰って来る。あたしはそう信じて、これからも森を護るのよ。」

「フレイア様とあたしと、レンジョウへの恩を忘れないエルフ達。この森の美しさ。全部忘れないで。あたし達の事を毎日懐かしんで。約束だよ。」

「アローラ、お前と共にした冒険と、フレイア、お前が望んでくれた小さな家族の幸福。エルフ達が俺を見直して仲間と思ってくれた事。全部忘れない。お前達二人が、俺を強く求めてくれている事もな。」


「今日はフレイアの手料理を作ります。アローラ、貴方もこれから料理を学ぶのよ。レンジョウ様の為にね。」

「うん・・・。」平和な日が過ぎて行く。後二晩が過ぎれば、出発の日がやって来る。



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