第六十九話 塔の中の姫君その4
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「エライ目に遭ったもんだ。」とタキがぼやく。
「お主一人で先行するからであろうが。無茶も過ぎるし、油断し過ぎであろう?」と私は言うが、その実良くぞ生きて帰ったと感心している。
しかも連中の前に進み出て、太刀打ちまでやらかした度胸には実は感服している。
「いや、あそこまで戦闘的だとは実は思っていなかった。それは俺のミスだった。」タキは素直に謝罪して来るので、私としてはそれ以上責めるつもりは無くなった。
「ともかくも、良くぞ生きて戻ったものよ。それだけは褒めてやろう。」私はそれだけを言うにとどめた。
「それにしても、本当だったんだな。奴が人殺しをしないってのは。」タキはしみじみと言う。
「所作も手口も並外れて荒々しい男であるのに、げに不可解な事よな。」私もそう思うのだ。
「強いのは間違いない。奴の拳骨を目の前にしたが、生きた心地すらしない凄さだった。獣や怪物でも、あれに比べたら間抜けとしか言えない遅さだし、威力と来たら、馬に蹴られるよりも悪竜の爪で狙われるよりも手酷く痛そうだ。桑原桑原・・・。」寒気を覚えている仕草をしたが、確かに私が剣で斬り合ったとして、何合凌げるかわかりもしない。気が付くとやられているのではないか?
「それでも、奴と斬り合えるのはお前しかいないだろう。後は・・・この場に居ない彼だけだろう。」と、その時、扉を開けてその男ともう一人が現れた。
「タキよ、またしてもしくじったとな?」顔に入れ墨をした老人が叱責の言葉を放つ。
「じい様、そりゃないぜ!」と言うや、杖がタキの頭を叩く。
「じい様とは何じゃ、毎度の事ながらお主の口は何故そこまで悪いのじゃろうな。」呆れた口調で老人が嘆く。
「ははは。まあ、許して差し上げましょう、老師様。タキなりの親愛の表現なのですよ。」と身なりに似合わぬ優し気な口調で、赤い鎧の大男が声を発する。
「ウォーラクスよ。タキがお主位に礼儀を弁えてくれたなら、儂の気苦労も随分減るのじゃがな。」とモルドラの筆頭魔術師イラムラグ老師が苦笑する。
「それにしても、我等四人が一堂に会する等、本国でも珍しき事。此度の件は、真に奇妙でもあり、重大でもある事じゃわい。」イラムラグが苦虫を噛み潰した様な顔でぼやく。
「俺達は知ってるけど、連中はまだ知らない。例の件が明らかになれば、いろいろと面倒ですからね。」とタキは言う。
「ラサリアの恥と言うのも確かじゃが、元はと言えば我等の失態でもある。公にしたくない事情はわかるがな。」イラムラグはそう言う。
「そうなんすよ、俺達がケツを捲れば、それだけで関与についても有耶無耶にできそうですよね?なんでここまで手を入れるんでしょうか?」タキも同意見であるようだ。
「それがしもタキと同意見でございまする。しでかしたのは、全てはフルバートの奴ばらでございますれば、我等は無関係を標榜するが得策かと。」私もそう意見を述べる。
「しかし、大切な事はかかって我が君のご聖断に従うと言う事であろう。それ以上でもそれ以下でもない。」ウォーラクスの言葉は重厚で、淀みなく、常に正しい。我等一同はその言葉に頷いた。
「では、尖塔の周辺の警備に着く事にしようではないか。」とイラムラグが締めたその時に・・・。
「僅かに遅かったでしょうか。」ウォーラクスは小さく呟きました。
「そのようじゃの・・・。」と老師も頷かれました。
「さっき許して貰ったばかりで気が引けるけどなぁ。」とタキはぼやきながら、今度は違う武器を持ち出して駆けて行く。
「なんともはや、せわしない奴等ではあるな。」もう奴等は尖塔に辿り着いて、騒ぎを起こした後だったと言う事か。
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「びっしり囲まれてるね。」アローラが悲し気に呟く。
尖塔の基部にある寺院の周囲は、フルバートの兵隊によって厳重に封鎖されていたのだ。
厳重に武装した兵隊が、こんな長い槍を戦闘で使うのかと言う様な代物を抱えて立っている。しかも、段列を作って・・・あれが噂の槍衾と言うのか。見た事はなかったが、あれだと前から来る兵隊は槍を構えているだけで勝手に死んでくれるのではないか?
「長槍兵ですね。」シュネッサが呟く。彼等は騎兵対策用の機動力は無いが、武器のリーチと威力で戦う厄介な兵団なのだそうだ。
「空から行けないのかな?」と俺は思ったが、寺院の天窓付近でも兵隊が中にいるのが見える。
「200人近く居ますね。あれを全部殴れそうですか?」と少し笑いを含んだ声で囁く。
「面倒臭い。それと、ここで戦えば、市民にも被害が及びかねない。」何しろ、住宅地の外れで、人通りが多いのだ。市民は兵隊を避けてはいるが、目に見える場所に居るのは間違いない。
「引き返すか・・・。」と俺が呟いた瞬間、それは起きた。
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「真に済まぬとは思うのだ。しかし、前に進んで貰わないと、今は困るのだよ。」
魔力を呪文書に莫大な魔力を投入し、魔力回路を開く・・・そして、アーケイン魔法の”魔法浄化”を発動する。
「ささ、蓮條殿。ご決断を願おうか。」
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「なんだ、あいつら?」
「一人はエルフ?もう一人は人間か?両方武装しているぞ!曲者だ!」叫び声が挙がった。俺は真っ蒼になったが、それだけでは済まない。
唐突に俺達はお互いの姿が見える様になっていた。透明なままなのはシュネッサだけだ。
「シュネッサは下がれ!アローラ、仕方ない。切り抜けるぞ。」俺は咄嗟に叫ぶ。
「飛翔も使えないの。一時的に魔道具の効果が失われてるみたいなの!」アローラがかすれた声で大きな声を出す。
「退きます!」シュネッサの声を聞いた。「アローラ、行くぞ。突破する!」俺は即断した。
「わかったの!」アローラが弓を引き、長槍兵に躊躇せず放った。
板金鎧はボール紙より脆く貫通されて、一人がきりきり舞いする間もなく頽れた。もう一人は前の男を貫通して来た稲妻の矢に当たり、同様に死んだ。
俺はその倒れた男の横に飛び込んで、槍を回す術もない長槍兵の横に立ち、恐怖に口を開き、顔を強張らせた男の脇腹を殴り付け、そのまま隊列を横から突き崩した。乱闘が始まり、俺は男達が倒れるのを踏みながら、更に隊列を掻き回して行く。
それは、人間大の竜巻による蹂躙でしかなかったろう。
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大騒ぎの巷で、市民が見物に集まる者と逃げ出す者とがぶつかり、我等の行く手を阻んだ。
前からタキの呆れ声が聞こえる。「うわ、じい様。あれが噂の勇者なんだ。凄いな、あんなのにパイクを持った兵隊をぶつける奴等も馬鹿だけど、それをやっつけてる奴も大概だぜ!」
まさにその通りじゃった。目で追うのも難しい位に俊敏な一人の男が、雪崩を打って崩れるパイク兵を拳で打ち倒し、倒れた兵を靴で踏み付けて、更にその横のパイク兵を叩きのめす。
「ある意味現実離れした大暴れじゃな。兵隊が余りに哀れじゃぞ。」と口にしたが、「老師様、そうも言っておられませんぞ。このままでは寺院に入られてしまいます。」とウォーラクスが穏やかに諭して来たわ。
「なるほどの、しかし儂らの呪文では威力と範囲が盛大過ぎて周囲の兵隊も殺してしまいかねん。仕方あるまい、杖からの打撃で兵どもを援護しようではないか。」と言うと、ウォーラクスとレイヴィンドは共に用意を始めた。
まずはレイヴィンドの剣から炎の弾丸が噴き出したが、報告のとおりに奴には弾丸は届かなかった。
次にウォーラクスが杖から稲妻を放ったが、それを奴は右腕で受け止め、それを腕を振って弾くと何たる事、近くの兵隊が跳ね返って来た稲妻に打たれて・・・何人かは死んでしまった様子じゃ。
しかし、今更やめる訳にも行かぬ。「カアァァ!」と大きく叫んで、杖から稲妻の魔力を打ち出す。
轟音と共に稲妻は迸って、今度ばかりは男を打ち据えて背後の壁に叩きつけた・・・が、男は崩れた壁の中から平気で起き上がり、勿怪の幸いとばかりに壁の中に消えおった!
「俺は奴を追う!」とタキは言い捨てて寺院の扉を潜って中に消えた。
「老師様の稲妻でも、まだ効果が無いとは。」ウォーラクスも呆れておった。
「儂はかつて”空の悪竜”ですらこの一撃で撃ち落としたのじゃがな。それよりも更にしぶとい様じゃわい。」少し空恐ろしいものを感じたわい。
「とにかく追いましょうぞ。」とウォーラクスは言う。
「老師様、お待ち下さい!」と儂の護衛であるクリッサがようやく追い付いて来た。こやつは腕が立つが、所詮は普通の人間。我等について来るのは難儀であろうよ。
「大儀である。では、儂を護るが良い。」と言うと、一礼して儂の前を走って行きおる。
見れば、200人の兵の内、凡そ50人、いやもっとか。それ位が倒れ伏し、あるいは呻き声をあげながら立ち上がろうとしている。
”盗賊退治の時よりも更に腕が上がっておると言う事か。”そう口の中で呟き、儂はこの猛々しい男にうそ寒い畏怖を感じたものじゃった。
ところで、あのエルフの小娘はどこに行きおったのじゃろう?影も形も見えよらぬ。
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”ほら、見てよアローラ!あれよ、あれこそが見たかったのよ!”例の声が大騒ぎしているの。
”野蛮だわ!凄く乱暴だわ!あれこそが私の愛するおじ様なのよ!蛮行よ、あれこそ蛮行なんだわ!”ちょっと意味がわからないの。
あたしはその光景を見ながら身体に強い衝撃が加わるのを感じたの、身体がわなないて、丸で身体の中に・・・。
ハッと正気に戻ると、例のタキって男が何かを叫んでいるの。どうしよう?大騒ぎは収まりそうも無いの。レンジョウはやる気満々で、長槍兵を薙ぎ倒しているし。
そこで轟音が轟いて、レンジョウに当たった稲妻が、跳ね返ってあたしの目前の長槍兵を薙ぎ倒したのが見えたの!でも、あれって完全に味方の魔法を食らっているよね?
”コラテラル・ダメージ。つまり、良くある災難でしかないわ。”なにそれ?何ダメージ?でも深くは考えない様にしたわ。更に身体が熱くなってしまうけど、それも無視するのよ!
周辺をよく見る。向かって左側の兵隊達は大慌てで、隣の兵隊とぶつかって倒れているし。大混乱を絵に描いた様な有様よね。
ところで、あの長槍・・・・使えないかな?長さは5メートルかな。飛翔が使えなくてもこれなら・・・・。倒れている兵隊の近くの長槍を掴んで引いて来る。
こんなので戦えと言われても無理だけど、これは別の用途に使えるかと思うのよ。
穂先のソケットを剣で斬って・・・残った柄で助走を付けて、石突きを突き立てて、それで棒高跳びするの!ほら、届いたわよ、屋根から下がっているひさしの部分に。
そこから屋根に登るのよっと・・・。後は弓をしまって、剣を抜き。明かり取りの天窓から突入するのよ!
降りた所の目の前に驚いた顔の兵隊が居るわ。ここは寺院の廻り廊下になってる2階部分。レンジョウが下の椅子が並んだ大部屋で剣士相手に大暴れしているのが見える。タキも中に入って来た。
けど、タキはそこから動こうとしないのよ、何故?
とにかく、目の前の兵隊には消えて貰おう。剣で腕に斬り付けて武器を落とさせて、飛び上がって脚を相手の首に絡めて手摺に手を掛けて、全身を躍動させながら身体を捻る!
悲鳴をあげながら兵隊は下に転落したわよ。それにしても、脚の間が酷い事になってる。これはまた下着を換えないとダメだわね・・・。
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奴は例によって大暴れしていた。俺は棒立ちでそれを見ている。
何と言うか、惚れ惚れしてしまう様な。俺もあいつと一緒に肩を並べて戦いたいような。
「いけねぇ!」と声に出して気合を入れる。けど、その時には奴は階段を駆け上って行く。追わないと。
けどなぁ・・・。階段を上がった所であいつは俺を待っていたんだ。
「お仕事ご苦労さん。今日はダブルヘッダーだなぁ♪」とあいつは俺に話し掛けて来た。
「まあ、仕事だからな。けど、気が進まないのは確かだぜ。」と俺は言うが・・・。あいつ嗤ってるんだよ。
「お前さ、動きが早いのが身上だろう?こんな狭い場所に入って来てどうするんだ?」と穏やかに語られちまったんだ。そして奴が突っ込んで来て・・・。
そうなんだよ、狭い廻り廊下じゃ、どこにも避ける場所が無いんだよ!
だから、俺はほとんど真後ろに下がるしかなくて、奴の一発目は避けたんだが、二発目はどうにもならなかった。気が付くと、腹に食らって盛大に空を飛んでたわ・・・。
床に墜落したその後にあの小娘、アローラがやって来て、俺を跨ぎ越して・・・どっかに行っちまった。
気が遠くなって行く。けど、しっかり覚えているのが、アローラが通り過ぎた後のあの”良い香り”だった。
それを感じていたのもつかの間の事。それっきり、俺は気を失ったらしい。
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「タキ、しっかりせよ。」私はそう言ったが、タキは目を覚まさない。
クリッサと共に老師が姿を現した。「やられおったのか?」との一言に頷いて返事を返す。
「タキの事は頼む。儂とウォーラクスは奴を追う。」と言われ、はいと返事を返す。
しかし、その頃には奴等は目的地近くに到達していたのだろう。
タキが呻き声を挙げるが、このまましばらく動かさない方が良いだろうとも思う。
後遺症が残りかねないのだ。タキがおそらく一撃で倒されたと言うのは、そう言う打撃を受けたからだろうと判断したのだ。
「ここまで凄い奴だとは。想像すらしなかったぞ。」今後の奴への対処は、今とは別の方法を取るべきかも知れない。正面から当たるのは下策であると思えたのだ。
「そうだな。別に正面から当たる必要はないのだ。」
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「愉快!愉快!」思わずそう口に出してしまう。
ここまで痛快だとは思ってもみなかった。今までは他の事々にかまけていたが、これからはこちらに集中できるかと思うと、愉悦が身体を駆け抜けるのだ。
「そう、勇者殿、貴殿こそがこの世界に愉悦をもたらすもの。その事をもっと自覚して頂かねばな。エルフの娘や、その主だけではなく、もっと違う者達にも違う愉悦と、更なる何かをもたらして頂きたいのだよ。」
今回のタキの武器
暴風のメイス
打撃力+3
命中率+3
守備力+3
守護の風:弓矢攻撃無効
※けど、全く役に立ちませんでしたが。
ウォーラクスの武器
燃え盛る恐怖の杖(キャンセルバグ武器)
打撃力+6(遠距離攻撃のみ適用、近距離攻撃には追加無し)
命中率+3(近距離戦闘時に命中率基本を30%向上)
抵抗緩和-4(相手の抵抗値をマイナス4)
火炎:遠距離攻撃に+3の打撃力追加、近距離攻撃には追加無し
異端者の悪夢1回:カオスユニット以外は命中率-2(基本命中率から20%減少)
イラムラグの武器
天魔の咆哮(キャンセルバグ武器)
打撃力+6(遠距離攻撃のみ適用、近距離攻撃には追加無し)
抵抗緩和-4(相手の抵抗値をマイナス4)
火炎:遠距離攻撃に+3の打撃力追加、近距離攻撃には追加無し
破壊:抵抗に失敗した者を破滅のオーラで分解する。成功の場合は蘇生措置が不可能となる。
混沌の竜巻2回:混沌の竜巻を召喚するが、こいつを完全に制御して動かす事は誰にもできない。