第六十三話 封印解放
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良かった!今回は服を着ていらっしゃったの!レンジョウも服を着てるし・・・。
報告は、「フレイア様、昼間にカオスの国の密偵らしき男を見掛けたの。凄く強くて素早い、レンジョウと良く似たタイプの勇者らしき男だったよ。」で始まり、「それで、あたしも全力で追いかけたんだけど、結局3時間ほども追い回した末に、取り逃がしてしまったのよ。ごめんなさいね。」で終わったの。
フレイア様はちょっと考えていたわ。「森の中でアローラが取り逃がしたのですか?それは容易ならざる相手ですね。他の誰にも対処させる訳にはいかないでしょう。」とだけ言うと、ニッコリ笑って下さったの。
でも・・・・どうして?横にいるレンジョウの顔が真っ黒いの。あたしに流し目をして、何かを訴えようとしてるらしいの。でも、何を?どうして?
その後に、フレイア様は「アローラ。その鎧姿は凛々しくて可愛いけど、レンジョウの前ではもっと可愛い姿になるべきだと思わない?」とおっしゃったの。
「もっと可愛い姿って、どんな姿なの?」と聞くと、レンジョウの顔が青くなったり、赤くなったりしてるのよ。ど、どうしたのよ?フレイア様・・・なんか、お顔付きが・・・妖しいのよ!
黙って鎧の留め具を外しているのよ。何?何?あ!このパターンって・・・。レンジョウが目を反らしたの。え?えええええ?
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「ほら、とっても可愛いわよ、アローラ。」
「じょ、女王様。恥ずかしいの・・・。」そこには美しい百合の花が咲いていた。大きく咲き開いていた。
「ほら、レンジョウ様。見てあげて下さいな。貴方様のおっしゃったとおり。アローラはこの姿が一番綺麗ですわよね。」音が・・・卑猥過ぎて、有様が生々し過ぎて、綺麗とか可愛いとか言うのとは、完全に違う境地に達しているな。
「ほら、アローラもレンジョウ様の姿を見るのよ。」そして、アローラは絶句してしまった。反応する俺も悪いのだが、こればかりはどうしようもない。
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「良いのか、これ?」
「まあ、この世界では彼女は召喚されてから125年経過しているが。」
「画像的にだ。」
「まあ、問題なかろう。所詮、創作された人物に人権を適用しようとする連中など、碌な連中じゃないって。殺人や強姦の加害者を庇う様な連中と同じ鋳型の屑どもが揃ってるんだからな。」
「ところで、その人物は創作の産物だけではない。そこはどうなんだ?」
「そっちは更に問題ない。何しろ、彼女は・・・・。」
「あの、彼女のタイム・インデックス以外にも判明した事があるのです。」
「なんだい?」
「確定しました。彼女がやって来たのは、”正解”の方向の更に先ですわ。」
「それは確かなのか!」
「サエ、それが本当なら、今後の修正も随分容易になると言う事だぞ。」
「間違いないわ。ヴァス、彼女は”正解”の先から接触して来たのよ。」
「凄いじゃねぇか!全く、何が起きてんだよ!」
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「遂にこの日がやって来たわ!」
「やっ、なに、何が起きてるの?」
「真っ新な身体で・・・もう一度おじ様と!」
「誰?誰なの?」
「一緒に居させて、アローラ。後生だから。」
「一緒に?」
「そう、一緒に。もう一度、おじ様に初めてを貰って頂くの・・・。」
「あれ?何を貰って?」
「ほら、そろそろ一緒に戻らないと。考え事はその後よ。それと・・・は残して行くから。後は・・・。」
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「しっかりしろ・・・。」余りの刺激に、ブレーカーが飛んだらしい。アローラは痙攣した後に気を失っていた。触ってみると、体温が低下し始めている。
「フレイア、二人でアローラを抱きかかえるんだ。毛布も掛けてやろう。」フレイアは頷いて、アローラの身体に抱きついた。俺もアローラを背中から抱きかかえた。
しばらくすると、アローラは目を覚ました。ボンヤリした顔をしている。
「ごめんな、アローラ。お前に無理させてしまって。」俺はアローラに謝った。
「アローラ、許して下さいね。森の封印魔術を解くためとは言え、大事なお前に無理をさせてしまいました。」アローラを挟んで川の字になり、俺達二人はアローラに謝った。
アローラはニッコリと笑うと、「あたしはフレイア様も、レンジョウも大好き。謝るなんて、とんでもないよ。」と言うや、俺に抱きついて唇を重ねて来た。
俺もそれに応えて、二人で熱いキスを交わしたが、その舌の使い方は随分慣れた技巧によるもので、俺を驚かせた。
「あのね、レンジョウ・・・。初めてを貰って欲しいんだ。良いかな?」とアローラは言った。
俺の胸の中で心臓が飛び跳ねるのを感じた。「お願い・・・。」と言うと、アローラはまた恥ずかしそうに微笑んだ。
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「凄いですわ。二人では到底無理でしたが、これならば楽に乗り越えられそうですわ。」
柔軟性に優れたエルフであっても、今のアローラの姿勢は苦しいものではないか。それと、これは到底普通のラーゲとは言えないような。背中は寝台に付いているが、殆ど逆立ち・・・。
「準備は大丈夫かと・・・・。」フレイアは小さな杯を用意して「どうぞ。」と言った。
下を見た・・・アローラと目が合った。フレイアも杯を添えて見ている。俺もそこを見た。
6つの目が集中する。そして、俺はそれ以外の誰かが俺達の姿を今も見ている様な気が・・・いや、見ていると確信できたが。
しかし・・・ここで止まる事はできない。
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「!!!!」
光り輝くゲシュタルトに、小波の様な感動と怒涛の歓喜が溢れて、そのパターンを再構成した。
今や、実体を有する存在にすら干渉可能なまでに完全性を取り戻したのだ。
「ありがとう!ありがとう、アローラ!感激よ。最初の時は無我夢中だったけど、今回は初めての悦びを完全に味わえた。二度と忘れない、忘れられない!貴方のおかげよ。アローラ、大好きよ!」
「あ、あたしも嬉しいの。この気持ちは一生忘れないの。」
あたしにも全部わかったの。そう言う事だったのね。あたしはレンジョウを好きになる運命だったんだ。その為に生まれて来たんだと。
「貴方と私は完全に結びついたのよ。そして・・・・。」
「・・・・・。わかったの。あたしは元から守護者だったんだよ。」
「今はまだ幼くても、いずれは・・・。その時のために、今のこの気持ちを・・・の私に。」
「でも、今はまだ・・・・。約束よ。」
「うん、この事は忘れてしまうの。でも、きっと思い出すの。」
「じゃあ、またね、アローラ。もう一人の私。」
「うん、またなの、・・・・・。」
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「く・・・・・・。」おかしい・・・終わった筈なのに。ニコラ・テスラ(仮称)が動作しない。
「終わりました。もう、世界樹の封印は完全に解けています。貴方様は死と混沌がこの世界に噴き出すのを食い止めたのです。」とフレイアは言う。
しかし、俺の尖端から噴き出すモノはまだ止まっていない。
ようやく終わった。と思い、アローラから身体(の一部)を離した時、下の方で温かい何かが・・・カポカポと聞き慣れた音がする。え?
「まあ、アローラ?どこでそんな事を覚えて来たの?まあ・・・とってもお上手!」お、おう!これは・・・。俺はアローラの両脚を掴んだその姿勢のままで固まってしまった。
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「アローラ、大丈夫か?」と再び聞いた。到底、途中から最後まで初心者向けのカリキュラムとは言い難い展開だったから。
「嬉しいの。あたしがこの世界に召喚されたのは、もちろんフレイア様に仕える為だけど、レンジョウを好きになる運命にもあったのよ。最初からそうだったの。」アローラは小さな声でそう言った。
「・・・・・。」フレイアは、そんなアローラの言葉を聞いて涙ぐんでいる。
「アローラ、貴方は本当に立派になったわ。お母さんは・・・・。」と口にしたフレイアが、驚愕した様な顔になり、その後に頭を軽く振ったかと思うと「いえ、貴方の主君としても嬉しく思うわ。」と言い直した。
「?」俺はその光景を見て、思わず首を捻った。
その後も、夜が更けるまで俺達は語り合い、愛を交わし、その後眠った。
フレイアが俺に抱かれる姿をアローラは熱心に見つめ、アローラが俺に再び挑まれる姿をフレイアは愛おしそうに眺めていた。ここに至って俺はある意味開き直ったと言える。
少し不審に思ったのは、二回目以降のアローラの反応がかなり手慣れた女の反応だった事だ。しっかり感じてる。
しかし、フレイアが杯に掬い取っていた”魔術の触媒”は、確かに初めての印だった。それが杯に向かって垂れ落ちる瞬間を俺も確かに見たのだが。
まあ、深く考えても仕方ないか・・・。なる様にしかならないのだし。
それにしても・・・・心がズキズキ痛むのは、俺がこの二人の恋人を置いて去り、ラサリアに帰る日がもう間近に迫っていると言う事だろう。
世界樹の封印を解くと言うのはそう言う事だったのだから。それは最初から決まっていた事なのだ。
痩せてはいるが柔らかい、そんなアローラの頬を撫でながら、俺はとても深い寂寥感、あるいは喪失感を覚えていた。
この二人は永遠に近い長寿のエルフなんだ・・・。と思いながらも、また会える日が来るのだろうか。この別離が永遠になるのではないか。そんな予感に俺は苦しんでいた。
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「おい、この新入り。もう一人にも影響し始めたぜ。」
「まあ、新しく来た人って、あの人の・・・でしょう?無理もない事だと思うけど?」
「今や、完全に情報が補完されている。ほぼ完ぺきと言って良いだろう。」
「多分、俺達の知らない更に新しい技術で構成された情報なんだろうな。直接本人に届かせるとは凄いもんだ。」
「もう一つ同様のチャンネルが繋がってくれたら、圧倒的にやりやすくなるんだが。」
「それこそ高望みでしょう。彼女の参戦もイレギュラーだったんだし。」
「5人のヘルダイバーに継ぐ6人目がやって来たんだ。更に状況を進めれば、もしかすると7人目が現れるかも知れないよな。」
「5人とも失敗寸前の状況下からのチャンネルしか開けなかったんですよ。成功した後のチャンネル追加なんて望外としか言えませんわ。」
「そんな訳だから、今は大事に見守ろうじゃないか。」
「そうね。今はそれしかできないもの。」
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「おはよ、レンジョウ。」アローラが目を覚ました。
「おはよう、アローラ。」アローラの太陽みたいな笑顔に、俺の顔もつい綻んでしまう。
首に抱きついて、胸に頬ずりしてくる様も可愛いもんだ。そう言えば、フレイアはどこに行ったのだろう?答えはすぐわかった。赤く上気した肌のフレイアが寝室に帰って来たからだ。
「先に湯浴みを済ませて参りました。貴方様もどうぞ。アローラとご一緒に。」と言って笑っている。
「一時間ほどであがられますでしょうか?」えっと、それは・・・。普通に入ったら一時間は・・・。
「アローラ、二人でゆっくりと・・・楽しんでらっしゃい。フレイアは貴方より先に、随分と楽しませて頂きましたから。」と言うなり、羽毛を纏った。
「奥の研究館で待っていますわ。」とだけ言い残して。
俺とアローラは、顔を見合わせた。結局、浴室には一時間一緒に居た。
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二人は来た。レンジョウは、最初にフレイアにそうしてくれた様に、アローラにも腕を差し出し、アローラはその腕を取って歩いて来た。アローラの笑顔が眩しい。けれど・・・。
「いらっしゃい、フレイアの研究室に。」思わず顔がこわばりそうになる。
「まずは、アローラ。こちらに参りなさい。」アローラは不思議なものを見る様な顔をしている。
「あのね、アローラ・・・・。」アローラの頭を胸に抱きよせる。
「ごめんなさい、今まで黙っていて。」アローラの両手がハッと固まるのがわかる。
「レンジョウ様は、世界樹の封印を解いた後は、ラサリアに帰らなければならないの。」顔を覗き込んでそう告げる。そして、アローラはレンジョウ様の方を向いた。
レンジョウ様は、アローラの目を寂しそうに見返した後、うなだれて下を向いてしまった。
アローラがわっと泣き出した。フレイアの胸に顔を埋めて、羽毛の表面が涙で濡れて滝のように零れた。「やっと気持ちを伝えられたのに・・・。」と鼻をすすりながら言葉を絞り出すアローラ。
レンジョウ様は無言で立っている。
「最後にお願いしたい儀がございます。」フレイアはレンジョウ様を見つめてそう言いました。
「ああ、言ってくれ。」レンジョウ様はそうお答えになりました。
「貴方様とアリエル姫が、フルバートを攻める前に、助け出して頂きたいお方が居るのです。お願いできますでしょうか?」
「ああ、それは誰なんだ・・・・。」
「サリアベル・フルバート。フルバート伯爵の娘子でございます。知ってのとおり、現在はフルバートのとある場所に幽閉されております。」
「・・・・。」頷いて下さいました。
「アローラ、一緒に行ってらっしゃい。」そうアローラに告げました。
「わかったの・・・。」アローラも頷きました。
「では、手順を説明致します。」遂にここまで来てしまった。バルディーンの言葉など、あの時は一笑に付したのに。
レンジョウに対する愛しい気持ち、アローラに対する済まない気持ち。これから起こるだろう事に対する申し訳ない気持ち。
それらを呑み込んだ上で、心を強く持って、フレイアは言葉を紡ぐ。それがフレイアに課せられた責任なのだから。ひるんではいられないのだ。