第六十話 復命と新たな使命
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「偉大なるタウロン様、臣下たる勇者タキ、御命により偵察行動を行い、今それを終了し、御前にて復命を行います事をお許し下さいませ。」
「過ぎた儀礼はよろしい。詳細に報告せよ。」
「は・・・。彼の地にて出現致しましたる異様なる赤き泉でございますが、あれなるは真に異なるものにござり」
「タキよ、普通に話せ。許して遣わす。」
「ありがとうございます。爺さんに叱られてからこっち、こうやって話さないといちいち叱られるんですよ。ともかく、あそこは完全に狂った世界でした。カオスノードがあれだけ密集しているのもおかしかったんですが、とんでもない毒を持ったヒドラとか、異様にでかい炎の巨人とか、グレートドレークがゾロゾロ居たりとか。少なくともアルカナス世界のノードよりも遥かに強い力の怪物が揃っていました。」
「ほう、それでフレイアの軍勢はそれらを本格的に駆逐し、ノードを制圧し始めたと申すか?」
「ええ、それどころじゃないと思うんです。俺はですが・・・。」
「何故か、根拠を聞こうではないか。」
「は・・・。それが、出現したノードはおおよそ10km四方に12個です。ここまで密集していたら、普通は干渉で消えてしまう筈なのに、何故か存在しておりました。そして・・・・。」
「俺が到着した時には、既にその内の7つまでが掃除された後だったんですよ。」
「・・・・それは真か。」
「はい、間違いはございませんね。やったのは、ラサリアの勇者と言われる例の男と、エルフの小さい女の子の姿をした勇者、それとエルフの軍団が中で戦っていたんです。」
「ラサリアの勇者の戦いぶりを目にしたのか?」
「ええ、あれが戦いってのなら、俺達のやってる事は遊びですね。レイヴィンドの報告よりも格段に狂ってました。奴は、ヒドラの心臓を背中から掴み出して潰してたんです。そんな奴だって事ですよ。」
「・・・・お前以外の者が申しておったら、与太話を聞かせた罰を与えておるところよ。」
「おお怖い!でも、俺の言葉なら信じて下さると聞いて、かなり嬉しく思います。とにかく、噂の勇者ってのは、凄いの一言ですね。あんなのを目の前にしたら、オークどもは震えるばかりでしょう。」
「そ奴には、付け込む隙が無いと思うか?」
「いや、ありありでしょう。ともかく、俺が言うのは何ですが奴は究極の脳筋でしょうな。ヒドラ相手に白兵戦以外考えない奴ですし。ただ、魔法が効かない、異常に素早い、打撃力旺盛。攻め所を考えないと、下手すると無双されかねません。」
「攻め所のう・・・。なるほど、我等の得意分野ではないかな、そう言うのは?」
「全く、そのとおりですな!」わははとタキが笑う。
「では、改めてお主に頼みたい事があるのだ。」
「仰せのままに、我が君!」タキは姿勢を正して伺いを立てた。
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「・・・・・。」
「ビッグボス、報告です。」
「なんでぇ、アランかよ・・・。」
「新たな案件についての要望書です。御裁可をお願い致します。」
「うむ。ここまで足元を見られちゃあ、やってられねぇな。ちょっとした脅迫じゃねぇか、こいつはよ。」
「フルバート伯爵の陣営としては、遂に我々の内情を知り得たと言う事なのでしょうか。」
「は・・・頭を任せてる奴等の大半が消えちまって、しかも生き残りの口にも戸は建てられねぇしな。全く、それもこれも、全部俺がしくじったからだ。死んじまった奴等には申し訳ねぇってよ。」
「ビッグボス、あの後、貴方様は一切アランの責任を問いませんでした。全部ご自分の責任と決めて、その上で最善の配置をなさり、切り捨てるべきは切り捨てて、守るべきは守っておられます。あの時、ヴァネスティがあそこまで積極的な攻勢に出る等、私にしても想定外でございました。」
「あれからもう一週間。おめえも不眠不休に近い有様だろう。酷ぇ顔してるぜ。」と言うなり、久しぶりにアランが見る笑顔を作った。
「ビッグボス、貴方様がおられる限り、ギルドは守って行けます。アランは、ボスの為に身を粉にできるなら、それで本望なのでございます。」
「話を変えるぞ。バーチからのギルドの撤収はできそうにないか?」
「は・・・。無理かと思われます。ランソムは、最早言う事を聞きそうにございません。本部から独立して、独自の勢力を作り出そうとしている模様です。」
「夢を見るのは勝手だが、奴等がアラリック・ロンドリカの手で血祭りに挙げられて、次にフルバートのギルド本部が狙われるとかは御免だな。」
「真におっしゃるとおりでございます。」
「でだ、他に何か言いたい事があるんだろう?言え。」
「は、実は”コンスタンティン”に入らせている密偵が奇妙な事を・・・。」
「そいつぁ興味深いな。聞かせてくれ。」
「かの城塞都市は、長年”カオスの国”との国境警備の必要性から、戒厳令を敷いております。左様でございましたよね?」
「そうだな。あの街は、フルバートみてぇに、なんちゃって国境都市じゃねぇからな。ガチンコの北の辺塞ってとこだろうよ。で、なんでなんだよ?」
「ノースポートからの支援が届く様です。人材面でも、資金面でも。つまり、緊縮策を緩和し、開拓と商業の再振興を行うなら、夕刻で全ての商業行為を打ち切る様な真似はできなくなると言う事なのでしょう。」
「ああ、議会でアリエルに感謝決議をした連中、あいつらはコンスタンティンの議員どもだったな。なるほど!」
「で、ヘルズゲイトとの交易ルートをコンスタンティンにまで伸ばすってのかよ?」
「おそらくその様で。」
「ほう・・・あの餓鬼!母親と兄貴を壁の下敷きにしてやっても、怖じ気付かなかった筋金入りのじゃじゃ馬だからな。おまけに頭は良いし、身軽だしか。あいつも”何とか”できねぇもんかな・・・・。」
「むしろ、勇者不在の時に、そちらの方こそを全力で行うべきだったかもと思います。結果論ですが。」
「今は無理だよなぁ・・・。」
「御意にございます。」
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「姫様、どうかなさいましたか?」
「レンジョウ様にお渡ししたブローチからの信号ですが、国境を越えてからも、何度も危険に遭遇されたみたいです。見て下さい。」
「これは・・・・。」対になったブローチに、真っ赤な光が宿っている。極最近に危機に遭遇したか、あるいは今現在も危機が継続していると言う事だ。しかも、ここまでの赤い光だと並大抵の危険とは思えない。
「もっと確かな通信手段を持たせる必要があるのではありませんか?」シーナが言うが、これ以上の詳細がわかる魔道具を持たせる事、それ自体がスパイ行為と見做されるのだから。
「お祈りするしかない。そう言う事なのでしょう。早くお帰り下さい、レンジョウ様。」
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「凄いですわ・・・。後少しで免許皆伝でございます。」熱烈なフレイアのキスで、俺はほぼ前後不覚になりつつある。
「一生ものの”技術”なのです。フレイア以外の女性に使えば、それだけで相手を虜に致せますよ。例えば・・・。」
「こういう時に他の女性の話をするのはどうなんだ?考えてもいけないと言ってたのはお前だろうが。」
「そうですわね。もっと違う”ところ”で今はお話すべきですわね。」また”技”を使って来たな。だがこっちも・・・。
「流石の切り返し!では、こちらはこうでございます・・・・。」これは!
「さらにこう・・・。」
「ま、参った!」また負けた!
「では、どうぞ後は存分にお甘え下さいませ。」・・・。
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「今日は平穏な日でしたわね。・・・。」
「昨日までが嘘の様だな。」
「明日は戦死者の合同葬儀でございます。忙しくなりますわ。」
「その前日にこんな事をしているのは不謹慎じゃないのか?」
「いえ、決してそんな事は。むしろ、減った分を補うためには、こう言う行為が必要な位では?」
「そんなもんかね・・・。」
「そんなもんですわ。レンジョウ様。」
「なんだ?」
「例え、子を成さなかったとしても、貴方様の”種”は今はフレイアのお腹の中にございます。」
「・・・・・。」
「女と言うものは、殿方の”種”を身体の中に蓄える事で、確実に体質が変化するのでございます。それが僅かな変化とは言え。」
「そうなのか?俺はそんな事を考えた事もなかったがな・・・・。」
「そうでございましょうとも。ですが、今後の為に、少しお考え下さるのもよろしいかと。」
「フレイアは、それが嬉しいのでございます。貴方様と、例え離れ離れになったとしても、それでもフレイアは貴方様と一緒に居られるのです。貴方様自身が、フレイアの身体の一部として残っているのですから。」
「・・・・・。」
「何年一緒に暮らそうと、どれだけ苦労を共にしようと、お互いにわかり合えない男女は沢山おります。数日暮らしただけでも一生忘れられない人もおります。」
「フレイア・・・・。俺は他人を大事にしない人生を送って来た。辛ければ逃げ、戦っては負け。どうしようもないと諦めて生きて来た。けれど、ここに来て、俺は変わった。」
「それは、貴方様が望まれたからでございます。フレイアは、そんな貴方様をたまたま見つけ、興味を持ち、人品を定めた上でここにお招きしました。」
「下手をすると、出口のない様な場所にか?」俺もここだけは意地悪になろう。
「ヘルズゲイト、ラナオン、そこでの貴方様を見定めました。盗賊と最初に戦った時も。国境の川縁でも。フレイアはさほどの心配をしておりませんでした。」
「貴方様は、どのエルフに見せたとしても、合格点の遥か上を行っておられるお方だと認めらたことでしょう。それがわからないのなら、フレイアは女王など金輪際務められませぬ。」そこでニッコリとフレイアは笑ったが・・・・。
「お前の笑い顔は、アローラそっくりだな。」俺は思った事を口に出した。
「あら?そんなに似ておりますか?」
「ああ、そっくりだ。太陽みたいな笑い顔が・・・。」アローラ、今頃何をしているんだろう?
「お前達はどこか似てるな。」
「他にどこが似ておりますでしょうか?」
「ああ・・・。強いて言えば、どんなに着飾っているよりも・・・。服を脱いだ方が綺麗なところもかな?」
「それは、どの女も同じでしょうに。」とコロコロと笑うと、「では、綺麗だと褒めて貰ったお返しを致しましょう。」とフレイアが前置きをして・・・それからは時間の経過がわからなくなった。
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”ホントだったんだな。エルフってのは早寝早起きだって。しかし、これはどんなもんなんだ?”
今は午後11時、巨大な空中楼閣の上に鎮座する都市は、全く人通りがない。
”エルフの街の動静を調べて来いって言われても、これじゃ何もわかりゃしない。”
”一当たり、市内の建物を調べて見るか?いや、警報や警戒線に引っ掛かったらヤバい。樹の上に登るとかは自殺行為だな。奴等は夜目も利くんだし。”
それよりも、この空中楼閣の下にある施設は何だろう?見当してみるに、”集会場”と”練兵施設”、”製粉場”か?
明日の朝以降、どこかに潜伏して連中が何をやってるのか見てみるか。
練兵場とその周囲の施設には、武装していると思しき人影が動いてるのが見える。
”そりゃあ、不寝番くらいは居るよな。でないと、夜に侵略者が不意討ちをして来たら一溜まりもないんだろうから。”
”どこに潜む?”そう考えて、タキは森の一角に向けて進む。樹の上に登り、猿の様に音も立てず、枝も撓ませずに飛び移る。
そして、夜は更け、鳥と虫の声が森に響くばかりだ。